テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「ねぇ、それ私のなんだけど」
リビングのソファに深く腰掛け、スマホをいじっていたえとが、冷ややかな声を上げた。
視線の先には、冷蔵庫から勝手に出したプリンを、事もなげにスプーンですくっているゆあんくんの姿がある。
「あー、ごめん。名札付いてなかったから、共有のやつかと思って」
ゆあんくんは全く悪びれる様子もなく、そのままプリンを口に運んだ。
「嘘つけ。私が昨日『楽しみにしてる』って言ってたの、隣で聞いてたでしょ」
「そうだっけ? 忘れちゃった」
ケラケラと笑う彼に、えとは盛大なため息をつく。
普段ならここで「倍返し」の刑に処すところだが、今日は編集作業で疲れ果てていて、怒る気力すら惜しかった。
「……もういい。一口ちょうだい」
「え、これ俺が今食べてるやつだよ?」
「元々私のだってば。早く」
えとが隣に座り込み、手を差し出す。
ゆあんくんは少しだけ意外そうな顔をしたが、すぐにニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「じゃあ、はい。あーん」
「……は? 自分でやるから」
「いいじゃん、ほら。食べないなら俺が全部食べちゃうよ?」
差し出されたスプーンを前に、えとは一瞬だけ逡巡した。
が、甘いものの誘惑には勝てない。観念して、小さく口を開けた。
「……おいしい?」
「……うん。おいしいけど。自分で食べたほうが百倍おいしい」
少し顔を赤くしてそっぽを向くえとに、ゆあんくんは満足げに笑いながら、残りの半分を自分の口に放り込んだ。
「でもさ、えとさん。作業詰まってたでしょ。糖分摂らないと脳みそ回んないよ」
「言われなくても分かってる」
「さっきのカットの部分、ちょっとテンポ早すぎた気がするから、後で一緒に見直してあげてもいいよ」
さらりと言われた言葉に、えとは目を見開いた。
ゆあんくんはゲームの実況に関しては誰よりもシビアで、その感覚は誰よりも鋭い。
彼が自分から「見直す」と言い出すのは、彼なりの気遣いなのだ。
「……プリン一個で、ゆあんくんのコンサルが受けられるなら安いもんか」
「あ、今プリンで釣ったみたいに言った! 俺の善意をなんだと思ってるの!」
「はいはい、わかってます。……ありがと」
最後の方は、テレビの音にかき消されるくらいの小さな声だったけれど。
ゆあんくんはそれを聞き逃さず、「どーいたしまして!」と、いつものいたずらっ子のような笑顔で返した。
外はすっかり夕暮れ時。騒がしくて、どこか温かい二人の時間は、もう少しだけ続きそうだった。