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紳士淑女の皆様、ごきげんよう。異星人対策室補佐官、ジャッキー=ニシムラだ。
新たなる異星人フェラルーシア嬢の歓待とお披露目は無事に済んだ。いや、正直驚いたよ。ティナ嬢の友人だと聞いていたから、アード人が来るものと想定していたからな。まさか別の異星人だとは思いもしなかった。
いやはや、SF映画では定番な他種族入り交じった社会が現実に存在するようだ。事実は小説より奇なり、だな。
幸い我々が歓迎のために用意した地球の料理で、彼女が食べられないものは無かった。
フェラルーシア嬢は礼儀正しく穏やかな性格の少女だ。見た目は我々がファンタジー世界で思い浮かべる妖精そのままだ。女性にしては高い身長と女性的なスタイルは、幼さが全面に出ているティナ嬢とはまた違った魅力がある。
しかし、同時に彼女には危うさを感じた。誤解を恐れずに言うならば、私に似ている部分がある。おそらく彼女はティナ嬢の為ならばあらゆることを躊躇無く行えるだろう。私も敬愛するケラー室長のためならば、手段を選ばん自信がある。
この懸念が現実のものとなったのは、数日前にワシントンD.C.郊外で発生した所謂スーパーマーケット事件の時だ。
偶然現場に出くわしたティナ嬢は当たり前のように事件へ介入。困難が予想されていた強盗立て籠り事件は、ティナ嬢の活躍によって無事に解決する運びとなった。人質に死者はなく、唯一の怪我人だった女性もティナ嬢のお陰で一命を取り留めた。
これだけならば、彼女の武勇伝として喧伝できるし、交流を促進させる良い宣伝材料になるのだが。
問題は、事件の最中に発生した。どうやら強盗の一人は極めて否定的な意見の持ち主だったようだ。
いや、それだけならば何の問題もないのだが、あろうことかティナ嬢へ向けて発砲したのだ。この話を聞いたとき、背筋が凍り付いたのを覚えている。
幸いにしてティナ嬢は無傷だったのだが、重要なのはそこではない。地球人がティナ嬢へ、異星人へ攻撃を行ったと言う事実の方が遥かに重要な出来事だ。
ティナ嬢の危機を聞いたフェラルーシア嬢が現地に到着した時には事件は解決。ティナ嬢はマナ欠乏症と呼ばれる貧血のような症状でダウン、現地の医療班が手厚く看病しておりフェラルーシア嬢も安堵したようだ。
だが、AIであるミス・アリアから経緯を聞いた瞬間に事態は急変した。ティナ嬢へ向けて発砲した強盗に対して躊躇無く攻撃を行ったのだ。
友人に危害を加えようとしたのだ。その怒りは理解できるし、感情的な行動を控えるべきだった等と言う意見には賛同できぬ。何故か、それは我々地球人の価値観だからだ。
郷に入っては郷に従えと言う言葉はあるが、相手は惑星すら違う文明人。むしろティナ嬢の好意こそが異常なのだ。普通ならばなす術もなく蹂躙されて終わりだ。地球の価値観を押し付けるのは愚の骨頂。
まあ、外交官としては些か不適格と思わないでもないが……交流の第一歩を彼女のような子供に任せるのだ。アードにも事情があるのだろう。
話を戻そう。フェラルーシア嬢の攻撃は大惨事を招きかねない事態だったが、ケラー室長の介入で事なきを得た。
フェラルーシア嬢はケラー室長の説得を聞き入れて怒りを静め、ティナ嬢と共にその場を後にした。いやはや、ケラー室長には頭が下がる。
ティナ嬢はもちろん、フェラルーシア嬢からも僅かな期間で信頼を獲得しているのだから。到底真似できるものではないな。
私は室長から現場の後始末を任されたが、衝撃的だった。周辺にあるあらゆる記録媒体の記録が書き換えられていた。ケラー室長の活躍で事件は解決。ティナ嬢やフェラルーシア嬢の関与した痕跡は消された。昨今では映像などの記録がない証言はあまり重視されない。
誰もがネットワーク端末を持ち歩くことが義務付けられているからな。証拠隠滅にこれほど効果的な手はないだろう。
フェラルーシア嬢の踏み抜いた跡も見たが、言葉を失ってしまった。アスファルトは見事に叩き割れ、周囲に亀裂が走っている。
我々より遥かに優れた技術力はもちろん、魔法と言う未知の力に地球人を凌駕するフィジカル。改めて彼女達が遥かに格上の存在であることを思い知らされた。彼女達は友好的で良き隣人と成り得るが、間違っても怒らせてはいけない存在だと上層部は戦慄したようだな。
私に、いや異星人対策室の面々に言わせれば何を今更だ。ティナ嬢の底抜けた優しさに勘違いをしてしまった連中が多いことに呆れてしまったよ。
この事件は良くも悪くも地球の為政者達に相手が遥かに格上だと再認識させるに至った。フェラルーシア嬢の記者会見の前にハリソン大統領が宣言した内容も無理はあるまい。文字通り人類滅亡の危機なのだ。そこに人権や思想の自由など入り込む余地はない。
賛否両論激しいのは仕方無い。
事件から二日後、再びティナ嬢達が来訪した。ティナ嬢は変わらず友好的だ。むしろ真っ先に助けた女性について尋ねる辺り、彼女の善性は眩しい。だが、フェラルーシア嬢は変わった。穏やかで笑みを浮かべる姿は変わらないが、僅かに警戒心を持っているのを感じた。彼女の信用回復が最優先事項だな。これから始まる地球観光で少しでも地球を好ましく思ってくれたら良いが。
さて、思考を切り替えよう。なんたって今日は休暇だからな。この忙しい時期に休暇とは妙なものだが、忙しいからこそ身体を休めないといけない。それがケラー室長の方針だ。本当に我々は良い上司に恵まれたものだ。私はいつものように近所の公園で人々の営みを見守っている。
元気に走り回る子供達を見ていると活力が湧いてくるのを実感できる。ここに異星人の子供達が交じるのはそう遠くないだろう。その日を迎えるために我々は尽力しなければな。
ふと視界に一人の男性が映った。下品な笑みを浮かべて、今時珍しいフィルムカメラで子供達を、幼い女児達を撮影している。
「君、止めたまえ」
「なっ、なんだ!?わたしは風景を撮影しているだけだ!言いがかりは止めて貰おう!」
「ならば中身を見せてくれるか?やましいところは無いなら問題ないだろう?」
生憎人の感情や視線に敏感なのでね。幼子に欲望をぶつけるなど許せぬ。イエスロリータ!ノータッチ!の精神こそが至高なのだ。
しばらく揉み合っていると、四人のポリスメンが近付いてきた。最近は市内の警備も厳重になっているからな。大人しくお縄につくが良い。
ポリスメンは徐に手錠を取り出すと、男と私の腕に取り付けた……ん?
「変質者が暴れていると通報があった。大人しくしていろ!」
「誤解だ、お巡りさん。変質者はあちらの男だよ」
「真っ昼間からこんな場所でそんな格好をしてるのはどう見ても変質者だろうが!サムライかアンタ!」
「失礼な!私は合衆国人だよ!」
「そんな合衆国人居ねぇよ!」
ジャッキー=ニシムラ(武士装束&髷の代わりに巨大リボン&刀の代わりに電マ装備)は御用となり、いつものように署長に笑われてジョンが迎えに来るまで留置所での一時を楽しんだ(意味深)。