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夫とだけはしたくありません

2 - 第2話 離婚準備?

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2024年10月22日

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『別にね、離婚したいわけじゃないのよ』

親友の杉山成美は言った。


成美は、もうすぐ10ヶ月になる双子の姉妹にかわるがわるミルクをあげ、オムツを交換しながらスマホの画面からはみ出したままで通話を続ける。


こうしてビデオ通話をしているあいだも、そろそろ動き回れるようになった双子を追いかけているようだ。


“ちょっと待って”とか“そっちダメ!”とか、私との会話に繋がらないセリフが入る。


「ね、私が成美ん家、行こうか?」


見兼ねた私が提案する。


『えー、こんなとっ散らかった家に招待できないよ、いくら気心が知れた杏奈でもさ』


私に対する見栄というわけではない。


散らかった家を見ると、私が片付け始めてそのことに集中してしまって、話そうとしていたことがぼんやりとしてしまう、そんな私の性格を見抜いているからだ。


双子の赤ちゃんのお世話が大変で、いろんな家事が手抜きになってしまうのは仕方ない。


子どもが一人しかいない私でも、ワンオペ育児の大変さはわかっている。


それが双子ならなおさらだろう。


そんな中でも私におりいって話したいことがあるらしい。


「わかった。じゃあこのままで話を続けよう。……で?成美はどうしたいの?」


スマホ画面には、食べかけのサンドイッチや床に落ちたままのスナック菓子が映り込んでいた。


家に行かなくても、成美の今の状況は見てとれる。


『とにかくさ、準備だけはしておこうと思ってるんだよね、離婚の』


「離婚したいわけじゃないのに?」


『いざとなったらいつでも離婚できるように準備しておかないと、本気で嫌になった時に逃げ道がないからよ』


ちょっとこれを見て、と雑誌のページをめくって見せてきた。


特集として、熟年離婚のアンケート結果が書いてあった。


“なかなか離婚に踏み切れなかった理由

①お金がなくて老後が心配だったから

②世間体が気になったから

③長い間共に生活してきた夫に、情があったから



「どれもありがちな答えだね」


『でしょ?この中でお金のことだけが今から準備しておかないとクリアできないじゃない?だからね、私、仕事辞めないことにしたんだ』


成美は、双子の育児が大変だからと、育休が終わったらそのまま退職すると言っていたのだけど。

確かに、世間体や情の話と違って、お金のことだけは気持ちで乗り切れる問題じゃない。


なにより現実的なことで、そしてすぐには解決できないことだ。


「ただでさえ、裕之さんは手伝ってくれないんでしょ?それでも職場復帰できそうなの?」


営業マンのご主人は、帰りが不規則なうえにお客さんの対応で土日も電話がなりっぱなしの時もあると成美が言っていた。


『なんていうか、意地?幸いなことに実家も近いから、そっちも頼って頑張ってみる。いざとなったら杏奈にもヘルプを頼むかもしれないけど』


成美の妊娠がわかった時、夫の裕之はとても喜んだと言っていた。


それが双子だとわかった時はさらに、家事育児全般を手伝うから安心して出産してくれと言われたと、成美はうれしそうに私に報告してきた。


2年早く出産した私は、夫、雅史の仕事の忙しさを理由にとっくにワンオペ育児になっていたから、そんな成美がうらやましかった。


けれど。



『結局さ、アレよ、本人は手伝ってくれてるつもりなんだろうけど、ちっとも役に立ってないってこと。ミルクは私が作らないと飲ませてくれないし、哺乳瓶はそのままだし。ゴミは集めて分別して袋に詰めないと、ゴミ出ししてくれない。でもさ、本人はゴミ出しやってますって偉そうに言うわけ。そこじゃないだろって、最初の頃はあれこれ注文つけてたんだけどね』


「家事の分担がうまくいかないということ?」


『分担というか……掃除も洗濯もゴミ捨ても洗い物も、気がついた方がやるって決めてたんだけどね。なんだろ、男の目には映らないもんなの?俺は気がつかなかったって、いつも言うんだよ。腹立つわぁ』


「それで離婚の準備を考えるようになったの?」


離婚する気はなくても、いつか離婚するかもしれないという予感が、成美にはあるのだろう。


画面の向こうで、双子を寝かしつける様子が見えた。


『実は、もっと決定的なことがあるんだけど。ちょっと待ってて、この子たちが寝たら話す。ってか、このまま私も寝ちゃうかも?』


「いいよ、またの機会で」


『ごめん、あとでLINEするね』


プツッと切れた。


ちょうどその時、寝室から2歳になる息子の圭太のぐずる声が聞こえた。


時計を見ると午後3時を過ぎていた。


ドアを開けたら、私のベッドの上で目をこすって半べその圭太がいた。


「起きたのね。目がちゃんと覚めたら、お買い物に行こうか?」


「……ん」



___念のための離婚の準備か……


圭太の頭を撫でながら、さっきの成美の話を思い出していた。


___私はこの子のために、離婚するつもりはない


子どものためを思えば、多少のことは我慢できる。


___でも、それじゃ、私の人生は?


ふとこの先のことを考えたとき、なんとも言えない気分になった。




◇◇◇◇◇



その日の夜。


私は自分のこれからについて考えてみた。


このまま圭太を育て、雅史の妻として家庭を守っていく。


当たり前で幸せなことなのだろうけれど、幸せを感じられない未来。




“いい父親になるよ”

“何でも手伝うから”


自分の夫の雅史も、圭太が産まれる時はそう言っていたことを思い出した。


それがまったく実現しないということは、すぐにわかった。


生後まだ半年くらいで夜泣きも多かった圭太を、睡眠の邪魔だと言って私ごと寝室から出したあの日。


たまに圭太が早く寝ついてくれた時には、私の気持ちなんか関係なく一方的にセックスを求めてきたあの日。



そんな気になれない、寝かせて欲しいと断ったら


「専業主婦なんだからいつでも昼寝ができるだろ?妻なんだから夫の要求に応えるのが当然だろ?」


薄暗がりの中で私を見下ろす雅史の顔は、私を愛していると言いながら優しく抱いてくれた男と同じだとは思えなかった。


夫とのその行為は、私の中でそのまま生殖活動に結びついてしまって、悦びも満足もなく苦痛だけだった。


すぐ隣で眠る圭太を起こさないように、息を殺して雅史が早く終わることだけを願っていた。


そんな中、どこかで読んだ記事が頭に浮かんだ。


“出産したら、セックスがとてもいいものになりました”


___嘘だ!



さっさと欲を放出した雅史は、とっくに寝息を立てていた。


避妊して欲しいと頼んでも、そんな気遣いさえも見せなくなった。


“部長が言ってたんだよ、赤ん坊におっぱいやってる間は妊娠しないってさ”


その部長とやらの顔を、ぶん殴ってやりたくなった。


ひどく惨めな気持ちのままさっさとシャワーを浴びて、ベッドに入り眠れないまま朝になるという日を何回か過ごした。


それからも自分の欲のままに求める夫に対して、私はどんどん冷めていった。


そんなことを思い出していた。


___こんなことがずっと続くの?妻だから?




そんなふうに強引にされることが続いて、もう夫とのセックス自体が苦痛になってしまった。


そのことを打ち明けてみたのだけど、夫の雅史は納得しなかった。


“俺たち、相性よかったじゃん?”


恋人同士だった時はそうだった気がする、でも今はそれどころじゃないのだ。


圭太は半年を過ぎて突発性発疹をやってから、ちょくちょく熱を出すようになった。


熱を出すと夜もひきつけたりしないか心配だったし、吐いたりすると気が気じゃなくて眠れなかった。


そう説明しても“専業主婦なんだから……”とその言葉で片づけられた。


だから、体調が悪いせいにして3回に1回は断ってきた。


そのせいか、今は求められることが減ってきてホッとしている。


そして今夜も帰りが遅いようだ。


求められなくなって帰りが遅くなったら、普通は浮気を疑うのだろう。


けれど私は、それならそれでいいと思っている。


家庭を壊す気がないのなら。




「うーん…」


寝返りを打つ圭太に、毛布をかけながら考えた。


息子は可愛い、なによりも。


何があっても私が守る。


___でも、圭太はいつかはこの手を離れていくんだよね


圭太が大人になって誰かと家庭を持って、そしたら私は夫と二人だけの暮らしになるの?


このままただ歳をとっていくのは嫌だと、唐突に思った。


___そうか、だから準備するのか



いつか本気で離婚のことを考えた時、経済的なことが足枷になるのは嫌だ。


そう思ったら成美が言っていた意味がわかった。

近いうちにまた、成美と話そうと思った。


成美が言いかけた、“離婚の準備をしたくなったもっと決定的な理由”とやらも訊いてみたかった。


私も成美と話したことで、自分にも離婚するかもしれない可能性が浮かんだし。


もっとも、成美に言われるまでそんなことに気づきもしなかったのだけど。




夫の雅史は、DV夫でもないし経済的に束縛してるわけでもない。


夜の求めに応えない時だけ、ひどく蔑んだことを言われるけれど、普段はモラハラ的なことも言われない。


たまの休みは家族でドライブに出かけたりもするし、たまにだけど頼めば圭太を連れて公園に遊びに行ってくれたりもする。



___あれ?何が不満なんだろ、私


客観的に見て、雅史は夫としては特に問題がないようなのに。



あれこれ考えていたら、頭の中で何かの感情がぐるぐる回っている気がする。


それがなんの感情か、つかめない。


焦燥?


嫉妬?


嫌悪?


自分の中の感情の名前がわからない。


少なくとも、このままじゃ良くないと警鐘が鳴っている。


「あー、もう、わからない」


薄暗い寝室に、自分の声だけが響いた。



その時、ガチャリと玄関ドアが開く音がして雅史が帰ってきた気配がした。


晩ご飯はいらないと連絡があったから、そのままそっと寝たふりをした。

























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