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「……お前、今までどこにいたんだよ?」
知念は渡慶次の質問には答えずに、
「すごいなこれ。渡慶次ひとりで思いついたの?」
黒板の前まで寄ると、その文字を視線でなぞった。
「ああ……ってそれよりどういうことだよ?キャラが一人足りないって」
渡慶次は黒板を見上げる大きな目を睨んだ。
「お前、何か知ってるのか?」
「ゾンビは――」
知念はまたこちらの質問には答えずに『ゾンビ』と書かれた字に触れた。
「増殖するんだ。1匹倒したからって安心しない方がいいよ」
「増殖……?」
「渡慶次が1-6で見た死体がオリジナル。その後、遠藤に感染。遠藤はドクターに殺されたけど、渡慶次と会う前に他の人間に感染してないとは言い切れない」
「おい……」
“オリジナル”。“ドクター”。
ペラペラと話し始めた知念を見下ろす。
「お前もしかして、このゲームをプレイしたことがあるのか?」
知念の視線がやっと渡慶次を捉える。
「ふっ……」
知念は渡慶次の顔を見るなり笑った。
「やるわけないでしょ。こんな呪いのゲーム。」
「呪い……?」
渡慶次は目を見開いた。
「お前、このゲームについて、何か知って……」
そのとき、
『見つけました~』
廊下に繋がる扉から、顔だけ出した医者が、真っ白な目でこちらを見つめ、ニヤニヤと笑っていた。
『あなたの治療がまだ済んでいません~!』
そう言いながら渡慶次自身が噛みついた右腕を指さす。
――くっそ……!
渡慶次は足を開いて身構えた。
知念が何を知っているのか聞きたいところだが、今はそんな余裕もない。
ここは振り切って、上間と吉瀬を探さなければ……!
ズズッ……ズズッ……
何かを擦る音がする。
――なんだ、やけに重いような……。
『よいしょ~!』
医者が軽快な声を上げると、教室には二つの塊が転がった。
「……上間!!!」
その後ろ姿に、渡慶次は割れた声をあげた。
「上間……!!」
それは両腕をゴムバンドで身体ごと縛り付けられた上間と吉瀬だった。
「……んん……」
「……ううぅ……渡慶次……」
二人とも眉間に皺をよせ、顔をしかめている。
渡慶次は振り返り、ドクターの前に立ちはだかった。
「何すんだよ。この2人はケガなんてしてなかっただろ!」
すると医者は困ったように両手を開いた。
『この青年のクランケは、太腿の筋繊維が損傷しており、そのせいで倦怠感が続いていま~す。
少女のクランケは右手の人差し指の爪周りの皮膚が部分的に剥けてはがれていま~す』
「……く……ただの、筋肉痛と、ささくれだろ……!」
目を見開いた吉瀬が叫んだ。
――筋肉痛……?ささくれ……?
渡慶次は医者と上間たちを見比べた。
――たったそれだけで追いかけてくるのか……?
それじゃあケガも病気も関係ない。
全員が標的の無差別攻撃。
――そんなの、ピエロと変わんねえじゃねえか……!
『でもまあ、キミの傷の方が重症ですね~?』
医者がこちらに向き直る。
――くっそ……!
どうやって、生き残る。
どうやって……上間を守る。
使える駒は、吉瀬と―――
「先生」
その時、知念が口を開いた。
「ここは診察室じゃないですよ」
知念はそう言いながら、医者が入ってきた扉とは逆の扉を指さした。
「ちゃんと確認してください」
『ええ~?』
医者はゆっくりと振り返ると、扉に向かって歩き出した。
「――でかしたっ!知念!」
渡慶次はそう囁くと、逃げるべく上間を抱えようと膝の下に手を挿し入れた。
「何してるの」
知念がキョトンと見下ろす。
「何って、逃げるんだろうが!……うッ!」
自分で噛んだ腕が痛い。
それでも渾身の力を込めて持ち上げようとしたそのとき、
『ああ……ああっ……!』
廊下から悲鳴のような声が聞こえてきた。
扉の向こうを見ると、医者が両目を抑えて仰け反っていた。
『グアアアアッ!!あああああっ!』
――苦しがってる……?それとも痛がってる?
喘ぎ声のような悲痛な叫び声が響き渡る。
「……何をしてる?」
吉瀬がなんとか立ち上がり、渡慶次も上間を優しく寝かせ、その横に立った。
「わかんねえ……」
そう言ったところで医者は叫んだ。
『私は……!私は……!!また、救えなかったので~す……!』
医者はそう言うと、一転今度は首をカクンと落として俯き、そのままトボトボと廊下を歩いて行ってしまった。
「なんだったんだ……?」
渡慶次がポカンと口を開いていると、
「…………」
吉瀬が教室の外に駆けだした。
医者がしたように振り返り、扉を確認する。
「………これは!!」
眼鏡の奥の目が開かれた。
「なんだよ……?」
渡慶次も慌ててかけ出る。
「――――」
そこにはマジックの雑な字で、『霊安室』と書かれていた。
「……救えなかった命への罪悪感からか、医者は霊安室には入れない」
暗い教室から、月明かりが差す廊下に出てきた知念は、2人を見上げた。
「これがドクターの攻略法」
「お前……」
「なんでそんなこと……?」
渡慶次と吉瀬はほぼ同時に言った。
「このゲームを作ったのは」
知念は目を細めた。
「俺の親父なんだ」