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「……あの、私……」


明らかに狼狽えているエリスを前にしたギルバートは、


「すまない、軽率な発言だったな。とにかく、ベッドはお前が使ってくれ」


例え提案でも、やはり同じベッドで一緒に眠るなど良くない発言だったと撤回して謝罪すると、寝室の洋服棚から使っていない布を手にしてテーブルや椅子を端に寄せ始めた。


どうやら布を床に敷いて眠る準備整えているようだ。


そんなギルバートの姿を見ていたエリスは、


「あの! 一緒で……一緒のベッドで、眠りましょう!」


勢い良く、そう口にした。


「……エリス、良いんだ、気を遣う必要は無い。ベッドは一人で使ってくれ」

「嫌です! 一緒が……一緒が良いです!」

「さっきあんなに狼狽えていただろう? 無理する必要は無い」

「違うんです、狼狽えていた訳じゃないんです……私、怖かったんです……」

「怖い?」

「その、男の方と同じベッドで夜を共にしたのは一度きり……新婚初夜で……。あの日私は……シューベルトに無理矢理されてしまって、それがずっとトラウマで……、勿論、ギルバートさんがそういうつもりが無い事も分かっているんですけど、男の人と同じベッドで眠ったらあの日の事を思い出してしまいそうで怖くて……それで、すぐに決められなくて……」


先程エリスが躊躇っていた理由を知ったギルバートの身体は自然に動いていた。


「……ギルバート、さん?」

「――そうか、悪かったな、嫌な事を思い出させて。トラウマはそう簡単には消せないだろうから、ふとした時に恐怖を感じる事は仕方の無い事だ。ただ、その恐怖や不安を和らげる事は出来ると思っている。もし次にそういう恐怖を感じたら、俺に言え。一人で耐える必要は無い。一人じゃ無いと思えば、いくらか気が楽になるはずだ」


エリスの話を聞いたギルバートは彼女の傍に行くと、迷う事なく彼女の身体を優しく抱き締めていた。まるで、壊れ物に触れるかのように。


彼のその行動に驚きながらも優しい言葉をくれて一人じゃ無いと言ってくれた事が何よりも嬉しく思えたエリス。


「ギルバートさん……」


彼女の中で彼ならば大丈夫、寧ろ傍に居て貰えた方が安心出来ると思った瞬間だったに違いない。


「ありがとうございます、本当に……」


急に抱き締められて緊張から少し強張っていたエリスの身体からは徐々に力が抜けていく。


「……ギルバートさん、一緒に……眠ってくれますか?」

「……お前がそれを望むなら」

「はい、お願いします」


こうして二人は同じベッドで眠る事になり、テーブルや椅子を元に戻すと灯りを消して共にベッドへ入る事にした。


「狭くないか?」

「私は大丈夫です。けど、ギルバートさんは窮屈でしょうか?」

「いや、そんな事は無い。それじゃあ、寝るか」

「はい」


そして、お互い身体をギリギリの位置まで端に寄せたものの、ベッドがあまり大きく無いせいか触れそうで触れない微妙な距離感の二人は眠る為に目を瞑るも普段と違う状況に慣れていないからなのか、なかなか眠りにつけず、いつまでも互いが起きている気配を感じ取れた。


暫くして、エリスから規則正しい寝息が聞こえてきた事でようやくギルバートはひと息吐く。


そして、その三十分後くらいにギルバートも眠りの世界へ誘われていたものの、遠くの方から苦しむような息づかいや声が聞こえてすぐに目を覚ます。


「……ッ、や……めて、……ころさ、ない……でッ」


その声の出処はすぐ横に眠るエリスのもので、それに気付いたギルバートは身体を起こしてエリスに声をかける。


「おい、エリス。おい!」


額には汗を浮かべ、苦しむエリス。


何とかして目を覚まさせようとギルバートが何度か声をかけ続けると、


「――ッ!!」


ようやく目を覚ましたエリスはハァ、ハァと大きく何度も息を吸っては吐いてを繰り返す。


「エリス、平気か?」

「ギルバート……さん?」

「悪い夢を見たのか?」

「……はい、すみません……」


ようやく落ち着きを取り戻したエリスに再び声をかけたギルバート。


そんな彼に視線を移したエリスは瞳に薄っすら涙を浮かべながら謝った。


「謝る必要は無い。お前は何も悪い事をしていないだろ?」

「いえ、私のせいでギルバートさんは目を覚ましてしまったのですよね? 本当にすみませんでした」


ギルバートは思う。エリスがここまで自分を責めるのは、これまでの環境がそうさせているのだろうと。


正直、彼女が自分を責めるたび、辛そうな表情を見せるたび、無理して笑おうとするたび、ギルバートの胸は痛んでいた。


もうこれからはそんな風に辛そうな表情も作り笑顔もさせたくない、自分を責めて欲しくない。


それにはどうすればいいのか、言葉だけで彼女の心を癒せるのか、彼は柄にもなく悩んでいた。

家族に裏切られ全てを奪われた私は、辺境地に住む彼に出逢い、愛と優しさに触れながら失ったモノを取り

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