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「じゃあ……、あの人、…、紫式 秀人さん…、しにがみさんで、お願いします」
一瞬、マオさんは驚いたような顔をしたが、すぐにいつもの爽やかな笑顔に戻り、
「ッ……、かしこまりました。紫式 秀人様ですね」
というか、時々俺が発言すると驚くような仕草を見せるが、俺、失礼なことを言っていたのだろうか?
でも、さっきはしにがみさんの名前を出しただけだし……?そんなことを考えていると、すぐに、
「おまたせしました。準備ができましたよ」
「ありがとうございます」
「制限時間は、そっちの世界で日が落ちるまで。時間になったら、貴方だけに聞こえる金を鳴らします。因みに、紫式様と昔、貴方と接触した、という事実は紫式様は忘れてしまいます。」
「はい。分かりました」
「なるべく、その方と接触してください。そして、自分で判断してみてくださいね。」
その後、いくつか注意点を言われた。
1、しにがみさんと同年代になる、ということ。
2、制限時間になると、強制的に戻されること。
3、接触した、という事実は残らないこと
4、未来から来たことを教えてはならない
等など……
「それでは、この扉を開けると、そっちの世界に行けます」
ゴクリ と喉を鳴らす。
「……、行ってきます……、」
「いってらっしゃいませ」
ギィぃぃぃッ と音を立てて、扉を開けた
「ぅっ………?」
太陽の眩しさに目を細める。
「って…!?太陽!?」
さっきまで、喫茶店にいて…、夜だったはずなのに……、
改めて周りを見渡す。
青々しい山の中に、独りポツンと立っていた
「そっか……、過去、なんだ……」
そして、改めて気付いた。
………、目線、低くね?あと、視力もハッキリと見える
「ッ!?俺、ちっさ!?」
そういえば、当時のしにがみさんと同年代になる、って言ってたけど……、
「だいたい……、中2、位……?かな?」
ガサッ と近くの草むらが音をたてる
そちらを振り向くと、制服を着た男の子がいた。その子が口を開く。
でも、この子…、どっからどう見ても……、
「ぁ……、だ、れ?」
「しっ……しにがみさん……?」
よく見ると、萎れた制服に、乱れた髪。そして、今にも泣き出しそうな酷い顔をしていた。
「ッ、す、すみません……」
慌てて立ち去ろうとする。
「待っ、待って!しにがみさん!紫式 秀人さん!」
「ッ!?」
ビクッ と肩が跳ねて、驚いたように振り向く。
「なんで……、ぼくの、名前……、?」
「やっぱり、し……秀人さんだったんですね」
ここで【しにがみさん】と言うのも違うような気がして、【秀人さん】と呼ぶことにした
「、ぼく、貴方と会った覚え、ないんですけど……」
「あーと、あれ?忘れちゃいました?」
そういえば、説明の時、マオさんは未来から来たことを教えてはいけない、と言っていた
だから、適当にそれっぽい関係にしておこう
「俺等、親戚なんですよ?遠い親戚。はとこ……的な?ほら、小さい頃、一回だけ会いましたよね?」
「……、すみません。憶えてません」
「そっか。ま、いいや。どうしてこんなところにいたんですか?」
「……、話したく、ない、です。ていうか、少し位は察してくださいよ!!親戚なんでしょう?ぼくの家庭事情なんて、分かってるでしょ!?」
急に感情的に話し出した。けれど、
「ぁ……、すみ、ません……、」
と謝った後、「ほんと、イヤだぁ」と自分でうずくまる。
その隣に俺も座る。ここは緑が豊かで綺麗だ。
「いいですよ。ていうか、こっちこそ、全然知らなくてごめんなさい。」
「……、やっぱ、ぼく、【あいつ】に似てますか?」
「え?」
隣のしにがみさんを見る。とっても暗い顔をして、話し始めた。
「感情的になっちゃうところとか、顔とか、性格とか」
「……、?あいつ、って誰かな?」
「……、父親です。」
その声はなんとも憎たらしくて、同時に怒りが込み上げてきたような声色だった
「ぼくの父親は、重度なアルコール中毒なんです。そんな父が嫌で、母は出ていきました。家に帰ってきたら、寝てる日もある。その間にぼくは部屋を片付けたりする。でも、その方がまだいいですよ」
鼻で笑うように、でも、声色はずっと怒っている。
「寝てる時は知らない女が来て、起きていたら、お酒を呑まされそうになったり、つまみを買ってこさせたり、不機嫌になると、すぐ手を挙げる。いっつも、いっつも、家にはお酒の匂いが漂っている。」
最後の方は、もう叫んでいた。
限界になったのか、涙が溢れてきている
「そんな家が!そんな匂いが!そんな汚れた空気が!そんな出ていった母親が!そんな父親が!大ッ嫌いで!大ッ嫌いで!」
「しにがみさ……」
「けど!そんな父親の子供が一番嫌いで!!」
「し、」
「ぼく、まだ未成年だよ?でも、家の金、全部アイツの酒代になるから、ぼくがバイトしなきゃいけなくて!学校に見つかって!怒られて!叱られて!なんで……、ッ」
一筋の光がしにがみさんの頬を伝った
「なんで……、ッぼくだけ……」
「しにが……、秀人さん…、」
俺はどんな顔をしていいのか分からず、とりあえず、空を見上げた。
世界はこんなにも残酷なのに、空は眩しいほどに輝いていた。
「だから、ここにきたんですか?」
「ぇ、?」
俺の黄緑色のハンカチを渡しながら、話した
「ここ、綺麗ですよね。空気も新鮮で。俺は、ここ、好きだな」
「……、 」
ポカン としにがみさんは俺を見つめたが、すぐに、向日葵のような笑顔に戻って、
「はいっ!そうですね。ぼくも、ここ、大好きです!」
やっぱり、しにがみさんは笑っていたほうがカッコいい。
でも、意外だ。そんな過去が、あったなんて……
あの、眩しい笑顔の裏には辛いことを沢山経験してきたんだ
「……、いい人ですね」
「え?」
「こんなぼくでも、優しく接してくれて、」
「『こんなぼく』……?」
「何もできないですし、自分が、嫌いです」
「そんなこと言わないでください」
「ぇ?」
しにがみさんは、これから先、日常組の鍵の存在になるんだ。だから、自分のことを、そんなふうに言わないでほしい。
「俺も、自分のことが大ッ嫌いです。だから、ここに来ました。……、何も知らずに。勝手に貴方を妬んで。 」
「ぼくを……、妬む?ぼくはそんな存在じゃ、ありませんよ」
「……、いつか、いつか生きてて良かったって思える日が、来るから。」
「……?」
日常組で、いつか、しにがみさんは……
「ていうか、なんでここに来たんですか?ぼくになんの用事だったんですか?」
「え!?えーと、いや、なんか、俺の友人がさ、ここの出身らしくてさ、そして、秀人さんもここに住んでたよなぁって思って……」
「友人かぁ……、ぼくにも、唯一の楽しみと言ったら、その子と喋ることですかね!」
「へぇ〜どんな子?」
「えっ……、と、なんか、ゲームで知り合って…、いわゆる、ネッ友?ってやつかな?なんですけど、」
「時代だなぁ……」
「そんな大昔じゃありませんって!その人の顔は分からないんですけど、きっと、太陽のような顔なんだろうな……、」
「俺の友人にも、すっごく明るくて、すっごくうるさいやつがいるよw」
まあ、ぺいんとのことだけど。
「へぇ!ぼくの友人の絵斗…。ぁ、えと、友人も明るくて楽しいんです!」
「絵斗……、?」
もしかして、天乃、絵斗……、ぺいんとのこと?
「そっかぁ、2人はこんな昔から縁があるんだね」
「?なんていいました?」
「いや、……、なんでも」
そんなこんなで、色々なことを話した。ぺいんとのことや、俺は日常組のこと。楽しかったことを話していた。
そんなこんなで話してるうちに、
ジリリリリリッ
「ぁ、時間だ……、」
「あ、もう行かなきゃですか?本当に、ありがとうございました!!……、よかったら、これ、」
「え?ッ!!しおり…、?」
本に挟む用の可愛らしいしおり。
「いいの?こんな素敵なもの」
「はい!心から楽しかった友達にしか、挙げないしおりです!」
「……、し、秀人さん!」
「?」
なんか、これだけは、忘れてもいいから、これだけは言わなくてはならなくて……ッ
「貴方はいつか、気の合う仲間が現れるから!!いつか、いつか、自分が、生きててよかったって思える日がくるから!だから……ッ」
しにがみさんの目を見て、しっかりと言った
「自分を、信じて前に進んで。」
「ッ、」
「貴方は、いつか、きっと、幸せになれるから。秀人さんの信じた道を突き進んで。」
「ッ…、ありがとう……ッ……」
「ぅ、」
「おかえりなさいませ。お客様」
「あ、あぁ、マオさん…… 」
気がつくと、外は夜。喫茶店にいた。
「どうでしたか?紫式様の人生の一部は ? 」
「……、しにがみさんは、やめておきます。なんというか、俺にはしにがみさんのような勇気はないな、と思いまして。」
「ほぅ。分かりました。では、次は誰になりたいですか?」
「……、次は……、」
俺は一瞬考えた後、あの人の名前を出した。
「ぇ、?消えた…、?」
さっきまで話してた男の子が消えた。唐突なことで混乱していて頭が追いつかない
「てか、名前……、聞いて、ない。」
誰だったんだ?あの子……、?てか、親戚にあんな子、いたっけ?
「あの子?何を言ってるんだ?」
ぼくは、ここにリフレッシュしに来て、1人でいつも通り深呼吸したりして……、
「でも、ここに、誰かいたような、?」
忘れちゃ、ダメなんだ。何か、大切なことを言っていたような気がするのに……、
「ぁ、ハンカチ……?」
いい匂いのする、薄い黄緑色のハンカチ。
「……、ぼく、少しだけ……、」
そんな時、スマホが鳴った。応答ボタンを押して、応答する。
「はい。もしもし」
『しにがみ〜?元気〜?』
思わず頬が緩む。この元気な声……、
「どうしたんですか?ぺいんとさんw」
『ゲームしない?あ、マイクラね。あと、拒否権ないから』
「うえ……嘘でしょw開口一番それ?wま、いいや。……、ぺいんとさん、あの、ぼく、少しだけお父さんに、反抗してみようかな、って思うんです」
『え、……、そっか。頑張ってこいよ。てか、急にどうしたんだよ。』
「w、なんででしょうね。ぼくでも分かりません。ただ、」
薄い紫色に染まってきて、ちらほらと一番星が輝きはじめた空をみあげて、ぼくは、宣言した。
「自分を、少しずつ、信じてみようかな、って」