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「わぁ~! きれいだね、風ちゃん」
満天の星空を見上げ、時彦が感嘆の声をあげる。
「うん! 星いーっぱい見えるね!」
時彦の傍で風太も楽しそうにはしゃいでいる。
今日は時彦の提案で、近場の低山の頂上まで天体観測にやってきていた。メンバーは時彦と風太、そして直里と星良の四人。
本当は男性陣全員で来る予定だったのだが、泉樹は自らの個展の準備で来られなくなり、お詫びにとこの場所を天体観測の穴場スポットとして教えてくれたのだ。
「あの二人、ほんと仲いいよな」
きゃっきゃと仲睦まじく星を見ている時彦と風太を眺め、直里は呟いた。ケンカが絶えない直里と星良とは大違いだ。
「初対面のときは時彦がビビりまくってて、どうなることかと思ったけどな」
星良はその光景を思い出しているのか、微かに苦笑いを浮かべた。
「俺も初めて風太に会ったときはかなりビビったぞ、これが同い年の高校生かよって」
「あの図体だからなぁ、そりゃ驚くよな」
風太は直里と同じ十七歳の高校生だが、2m近い長身の持ち主で、その身体の大きさ故にただ傍に立っているだけでも相当な威圧感がある。
しかし、喋ってみれば中身は無邪気な子供のようで、人懐っこく愛嬌たっぷりの性格をしている。
一方の時彦は、髪を派手な緑に染めて医療用眼帯を付けた厨二感溢れるファッションセンスとは裏腹に、とても気が小さく臆病な性格だ。
現場を見ていなかった直里にも、初対面で大柄な風太に怯える姿が容易に想像できた。
「人のことばっか気にしてないで、おまえも天体観測しろよ。そのために早見盤とかいろいろ準備したんだろうが」
星良が直里の手元の星座早見盤を指さす。
「そうなんだけどさ、……これってどう使うの?」
「おいおい……」
呆れながら星良が早見盤の使い方を教えてくれて、目盛りを合わせる。そして、コンパスで方角も確認し、早見盤を高く掲げて星空を見上げてみた。
「あっ、オリオン座みーっけ」
直里の言葉に反応して、時彦と風太が傍に寄ってきた。
四人で固まって、各々が早見盤や双眼鏡を使って空を見る。
「左上のがベテルギウスだよね」
時彦が双眼鏡を覗きながら上空を指さす。
「シリウスはどれだ?」
星良の問いかけに、全員がシリウスを求めて目線をさまよわせ始めた。
「えーっと、ベテルギウスの下のほうだったっけ?」
朧気な知識を記憶の隅から引っ張り出し、直里は双眼鏡を覗く。
「あれじゃない?」
「どれ?」
「どこ?」
時彦の指すシリウスを見つけようと、直里と風太は改めて早見盤を掲げた。
「おい風太、早見盤の目盛り、全然違うぞ」
「えっ」
星良が手を伸ばして風太の早見盤の目盛りを直す。
四人とも天体観測は初めてなうえに知識もかなり薄く曖昧で、わいわい言いながら、まずは冬の大三角を見つけようと試みた。
が、結局、冬の星座探しは最初から最後までグダグダなまま終了。
適当に星を眺めつつしばらく駄弁ってから帰ろう、という話になった。
「流れ星、見えないかなぁ」
金茶色のポニーテールを夜風に靡かせ、風太は星空を見上げ続ける。
「なんか願い事でもあんのか?」
直里の問いかけに、風太は何の迷いもなく即答する。
「フェリーチェのみんながずっとずーっと仲良しでいられますように!」
「それ、三回唱えるの絶対ムリだろ」
シェアハウス【Felice(フェリーチェ)】の入居者たちを想う微笑ましい願い事ではあるものの、直里の言葉どおり、流れ星を見つけてから消えるまでに三回も唱えるには、願い事をかなり短い言葉に要約しなければ実現不可能だろう。
「やってみなくちゃわかんないよっ」
どう考えても無理だというのに、風太はやる気満々だった。
「いや、無理だって。なぁ、星良」
隣の星良に同意を求めるが、返事はかえってこない。
「星良?」
返事の代わりに、星良の腹がギュルギュルと激しい蠕動音を鳴らす。もはや聞き慣れたと言ってもいい、星良が下しているときの音だ。
「星良、また腹痛くなった?」
「う……」
星良は眉間に皺を寄せ、下腹部を押さえている。言葉はなくとも、その表情と仕草が直里の問いを肯定していた。
「今日、寒いもんね。冷えちゃったんだよ」
風太の言うとおり、今日は予想していたよりも冷え込みが厳しく、四人とも寒さ対策が甘かったことを後悔するほどだった。
「トイレ探すか……」
徒歩二時間ほどで頂上まで辿り着けるこの低山は、ちょっとしたハイキングにもちょうどよく、昼間は家族連れ等も訪れる。どこかに登山客用のトイレが設置されているはずだ。
「風ちゃん……、僕も、トイレ行きたい……」
時彦が風太の袖を摘み、控えめな声で訴えた。
「おしっこ?」
まるで小さな子供に聞くような口振りの風太に怒る様子もなく、時彦は首を横に振る。
「おっきいほうかぁ。何日ぶり?」
時彦は慢性の便秘症だ。そのことは風太だけでなく、フェリーチェの入居者全員が知っている。
「一週間……」
時彦は恥ずかしそうに目を伏せつつ、ボソッと答える。
「またずいぶんと溜め込んだな。我慢できそうにないか?」
基本的にいつも快便の直里には、一週間も出ないまま過ごせるのが不思議で仕方ない。もっと重度の便秘ともなると、いったい体内はどうなっているのだろうと思ってしまう。
「ムリ……」
時彦はか弱い声で答える。
「星良は……聞くまでもなく無理そうだなぁ」
この寒い中で額に汗を滲ませている星良を見て、状況の切迫度合いを察する。
その後、直里と風太の二人で周囲を探しまわり、やっと見つけたトイレは、一つしかない個室が故障中という絶望的な結果だった。
「う……、ぐっ……」
星良はずっと腹を押さえたままで、顔色がみるみるうちに青ざめてきている。
「風ちゃん……、もう出ちゃうよぉ……」
時彦も同じように腹を押さえ、泣き出しそうな表情で風太の腕にすがりつく。
「他にトイレはないみたいだし、二人ともそろそろヤバそうだな、どうする?」
風太と二人して、一応は他の解決策も考えてみる。しかし、結論は初めから決まっていたようなものだった。
「時彦くん、しかたないからその辺の茂みでしちゃおっか」
風太は軽い調子で言いながら、近くの草むらを指し示す。
「えぇっ!?」
時彦は困惑の声をあげ、草むらと風太を交互に見る。
「やっぱそれしかないかぁ、星良も一緒にしてこいよ」
おそらく一つだけと思われるトイレが使えない。我慢も出来そうにない。となると、思いきって野外で用を足す以外に道はなさそうだった。
「マジか……」
限界寸前でも、やはりトイレ以外の場所での排泄には抵抗があるのか、星良も戸惑いを隠せないでいる。
「トイレないし、緊急事態なんだからしゃーないって」
星良の肩をポンポンと叩いて言い聞かせる。このまま漏らしてしまうぐらいなら、野外で済ませるほうがずっとマシなはずだ。
「人が来ないか見張っといてあげるから、ね?」
風太も大きな手で時彦の頭を撫で、言い聞かせる。傍から見るとまるで風太が時彦の兄のようだが、実際は時彦のほうが年上である。
「うん……」
時彦は風太の顔を見上げた後、小さく頷いた。
「おい、時彦……」
まだ迷いがあるらしい星良は、時彦をジロリと睨む。
「だって、ホントにもうムリ……、漏れちゃう……。星良くんも、でしょ?」
「う……、わ、わかったよ……」
排泄欲に唸り痛み続ける下り腹を抱え、星良も覚悟を決めたようだった。
「俺もしっかり見張っとくから安心しろ。二人仲良く連れウンコしてこい、ウンコマン’s」
直里は敢えて軽いノリで二人を送り出す。
「変なコンビ名つけんじゃねぇ!」
時彦と連れ立って草むらに足を踏み入れつつ、星良は怒鳴り声を響かせた。
***
見張りをしてくれている直里と風太から、遠すぎず近すぎずの場所を選び、星良たちは足を止めた。
「この辺でいいか……。おい、時彦、もっと離れろって」
「やだぁ! 暗くて怖いんだもん……」
「……ったく」
時彦の極度の怖がりゆえに、手を伸ばせばすぐに届くほど近い距離で並んで用を足すことになってしまった。
「こっち見るんじゃねぇぞ……」
気まずさで時彦から目をそらしつつ、ズボンのボタンを外しファスナーを下ろす。
「うん……、僕も恥ずかしいし、見ないでね……」
二人してズボンと下着を下ろし、和式トイレでするときのようにしゃがみ込む。
「うぅっ……、んっ……、はぁ……」
水っぽく汚らしい音を発して、星良の緩い便が地面に叩きつけられる。
「ん……っ」
時彦の静かな息み方に反して、派手な放屁音が冬の冷たい空気を震わせた。
「ご、ごめん……」
「音も匂いもお互い様だろ……、んぅっ……、くっ……」
ガスが入り混じった下品な音色と共に、星良は泥状の便を排泄し続ける。
「んっ……、う……ぅんっ……」
隣では時彦が極太の塊をジワジワとひり出している。腸内に留まりすぎて水分を失ったそれは、石のような固さで時彦の出口を苛めながら外へと出ていく。
「はぁ、はぁ……、う……ぐっ……」
腸を絞られるような腹痛に呻く星良が気に掛かったのか、時彦は心配そうな目を向けてきた。
「大丈夫? 星良くん……」
「だから、こっち見んなっつーの……、ううっ……」
星良は恥ずかしさで耳まで真っ赤になって俯く。
「ふぅっ……、んんん……っ……」
時彦の足下に、ドサッと重量感のある音を立てて大きな便塊が落下した。
「んん……、まだ出るぅ……」
間を置くことなく、時彦は次の塊を排出し始めた。
***
星良と時彦が草むらで用を足しているのを待ちながら、直里は風太と言葉を交わす。
「たぶん時間かかるだろうなぁ、星良はいっつもそうだし……。時彦も、なんせ一週間分だろ? すぐには終わんねぇよな」
「……だと思う」
風太は時彦が心配なのか、人が来ないか見張ると言っておきながら、時彦たちのいる方向ばかり見ている。
「お互い、手の掛かるルームメイトで大変だよなぁ。こっちのが年下だってのに」
直里と風太は同じ高校で同じクラスの十七歳。時彦は二人よりも二つ年上の十九歳、星良は六つ年上の二十三歳だ。
「でも、俺は時彦くん大好きだよ。可愛いし、甘えてもらえると嬉しいんだ」
何を思い出しているのか、風太の表情がだらしなく緩む。
「惚気かよ」
「へへっ。直里も、星良くん大好きだよね?」
好きだと自覚してからもケンカばかりなのは相変わらずだが、それでも、傍から見てわかるほどに星良への気持ちが表に現れてしまっているようだ。
「まぁね。こっちは素直に甘えてもらえないけど」
お互いに大好きだという感情を隠さない風太と時彦の仲が羨ましい。
二人を見ていると、星良に好きになってもらいたい、甘えてほしい、頼ってほしい、そんな気持ちが湧き上がってくるのだった。
***
直里と風太がそんな話をしていることなどつゆ知らず、星良と時彦は草むらで二人して排泄欲を解放し続けている。
「んん……んうぅ……っ」
栓になっていた固くて大きな塊が二つ三つ出た後、時彦の便は次第に柔らかくなりスムーズに出口を通れるようになってきていた。
それでも、一週間も溜め込んでいただけに排泄はなかなか終わらない。
「う……ぅっ……、くっ……、ふぅ……っ」
星良の下痢もなかなか治まらず、一旦止まったかと思えば、またすぐに腹の痛みを伴って水分の多い汚泥が地面に降り注ぐ。
野外で真冬の寒気に下半身を晒しているせいで、更に腹が冷えてしまい下痢を誘発する悪循環に陥っていた。
結局、二人の排泄が落ち着くまで、三十分近い時間を要した。
「はぁ……、ぜんぶ、出た……」
腸内に溜まっていた最後の塊を出し終えて、時彦は大きく息を吐く。
星良も腹部に嫌な鈍痛が残るものの、ひとまずは便意が引いた。
「ふう……」
便意が治まり全身が脱力感に襲われると、今まで鳴りを潜めていた尿意が急激に差し迫り、括約筋を働かせる間もなくしゃがんだ体勢のまま尿を放出してしまった。
「ん……っ……」
いつの間にか相当溜まっていたらしく星良の放尿は長く続き、一時的に体内の熱が失われたことで、ぶるっと身震いする。
「星良くん、おしっこもガマンしてたの?」
「うるせぇ……こっち見んな……」
二人並んで間近で盛大に下痢便を排泄し、もうこれ以上恥ずかしいことはないかと思いきや、何故だか妙に気恥ずかしさを覚えてしまい、ぶっきらぼうに吐き捨てる。
「寒いし、僕もしたくなってきちゃった……」
そう言うと、時彦もしゃがんだまま身体を震わせ放尿し始めた。
***
人の気配には注意しつつ、風太から時彦との惚気話を聞いたり、共通する趣味のゲームの話をしたりで、約三十分が経過した頃。
やっと用を足し終えたらしい星良と時彦がこちらに戻ってきた。
「終わったよ、ごめんね風ちゃん」
時彦は戻るなり風太にぴったりくっついて甘えだす。
「見張りなんかさせて悪かったな……」
一方の星良はばつが悪そうに目線を伏せている。星良の手が未だ下腹部に添えられたままなのを、直里は見逃さなかった。
「二人とも気にしなくていいからね」
風太はにこやかに笑いながら時彦の頭を撫でる。
「星良、まだ痛むんだろ? 早く帰ろうぜ」
「ああ……」
やっぱり目は合わせないまま、星良は直里の言葉に小さな声で答えた。
「あっ、流れ星!」
時彦が上空を指さす。
「えっ!? どこどこ!?」
風太は時彦の指す方向を見上げ、懸命に流れ星を探そうとする。つられて直里と星良も夜空を見上げた。
「ほら、また!」
今度は全員の視界が一つの流れ星を捉える。
「フェリーチェのみんながずーっと……ああっ! もう消えちゃったぁ~」
「だから、願い事長すぎなんだって」
残念がる風太の脇腹を直里が小突く。
「風ちゃん、願い事なんてしなくても、フェリーチェはみんなずっと仲良しだよ」
「そっか、そうだよね。俺と時彦くんもずーっと仲良しだねっ」
「うん!」
微笑み合う風太と時彦を見て、直里は思わず「バカップル……」と呟き、星良も呆れ顔で頷いた。