テラーノベル
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授業を終えて寮へ戻ると、早速ステラに買って来てもらった訓練着に着替えた。
ステラには、沙織がアーレンハイム邸で訓練する事を、ガブリエルから伝えてもらってある。そのため、訓練着はかなり質の良い物が揃えられていた。
ちなみに訓練相手は、シュヴァリエではなくガブリエルがするという事になっている。
「訓練着でも本物の騎士みたいね。カッコいいわっ!」
鏡に映る自分をまじまじと見る。
セオドアではないが、本当に騎士を目指しているかのように思えてきた。
「お似合いでございますよ、サオリお嬢様」
「ありがとう、ステラ」
それからシュヴァリエリュカと共に、アーレンハイム邸に向かった。
ギリギリまでリュカの姿のシュヴァリエは、転移陣に入る直前にシュヴァリエの姿に戻る。
シュヴァリエとステファンが、リュカになっている事は、当人以外誰にも知られる訳にはいかない。
(やましいことなんて全く無いけれど。バレたら絶対に怒られる……特にミシェルとお義父様に。美形に睨まれるのは、本当に怖いのよね……)
到着した場所は、アーレンハイム邸の庭だった。
美しく手入れされた庭の広いスペースで、早速シュヴァリエに訓練メニューの指示を貰う。
筋トレは、寮でも常に欠かしていなかった。習慣付いているものは中々止められないのだ。幸い、沙織はガチッとした筋肉はつかないタイプなので、程良く引き締まってくれている。
「では、動きと身体強化を合わせてやっていきましょう」
シュヴァリエの組んだメニューは、さすが影。初っ端からかなりハードだった。
内容は、基礎的なものにプラスして、色々な攻撃の躱し方、相手の懐に入るタイミングや相手の力を利用して投げ飛ばす方法、負担の少ない体重移動など盛り沢山だ。
慣れてくると、沙織も段々とコツが掴めてくる。常に全身を均等に強化するのではなく、部分的に素早く一気に強化してスピードを上げるのだ。
(これは、護身術として最高だわっ!)
緻密に練られたシュヴァリエの訓練方法で、少しずつだが確実に動けるようになっていくのが分かった。
「今日は、この辺にいたしましょう」
「シュヴァリエ、ありがとう! 楽しかったわ」
「……この訓練が、楽しかったのですか?」
シュヴァリエは驚き聞き返す。正直、途中で音を上げてしまうかと心配していたのだ。
「ええ! それに、この疲労感が気持ちいいわ。私、少しは見込みありそうかしら?」
「それはもう、十分に」
「良かった! では、帰りましょう」
ふと屋敷を見上げてみると、ガブリエルが窓から沙織たちの訓練を見ていた。
ガブリエルに笑顔で手を振り、来た時と同じように転移陣で寮へ帰った。
そして、汗だくだったので直ぐに湯浴みをして、早めに就寝した。
翌日。
ある程度は予想していたが――沙織は、もの凄い筋肉痛に襲われていた。
ミシェルやカリーヌに勘付かれないよう、振る舞うのが大変だった。
『サオリ様……大丈夫ですか?』と、心配そうに尻尾を下げたシュヴァリエが聞いてきた。
シュヴァリエは、ハードな訓練を沙織にさせた事を後悔しているようで、クリクリした目で心配そうに覗き込む。
(うっ……可愛い)
首を傾げる姿は何とも愛らしいが……自分が頼んだせいで、シュヴァリエがしょんぼりするのは心苦しい。
(筋肉痛が起こらなくなるまで、しっかり鍛えなくちゃ!)
シュヴァリエに安心してもらえるよう、沙織は更にやる気になっていた。
◇◇◇
学園での日常と訓練の日々が続いていた、そんなある日――。
授業が終わり寮へ帰ると、シュヴァリエが急いでやって来た。
『サオリ様、すぐに宮廷に向かいましょう。アレクサンドル殿下が見つかったと……。ステファン様がお待ちです』
「え……っ、アレクサンドルがっ!? 分かったわ、急ぎましょう!」
シュヴァリエを抱えて、急いでステファンの研究室へ転移した。
沙織の到着を待っていたステファンが、直ぐにやって来る。
「サオリ様、急に申し訳ありません。アレクサンドルが、国境門で見つかりました」
沙織はステファンに詰め寄る。
「誰かが捕まえたの?」
「いいえ、本人が国境門の兵士に名乗り出たのです」
「えっ? なぜ自分から?」
(アレクサンドルは、獣人の村に向かったのかと思っていたのに……。私の見当違いだったのかしら?)
「それについては――。今、アレクサンドルは国王陛下に謁見しています。アーレンハイム公爵も、一緒に話を聞いている筈です」
「お義父様も?」
「謁見が終わり次第、アーレンハイム公爵がこちらにいらっしゃいます」
ガブリエルは国政に関わる重鎮だ。
国の運営や軍の配置、他国への交渉までガブリエルが行う事が多い。重鎮の中では、かなり若い方だが。地位も能力もあるガブリエルは、厚い信頼を寄せられている。
(お義父様も呼ばれているって事は、アレクサンドルに何かあったのね。それも政治的な……国に関わる何かかしら?)
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