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ホテルに戻り服を着替えて遅めのランチを済ませると、一気に疲労感が襲い部屋のベッドに倒れ込んだ。
「疲れましたか? では少し休むといい」
髪が撫でられブランケットが胸まで引き上げられる。
「はい。先生は、どうされるんですか?」
「私は、水割りでも飲もうかと」
「そうですか、そんなに飲まれないでくださいね…」
私の気遣いに彼は「ええ」と微笑むと、部屋に備え付けの電話から水割りのセットをオーダーした。
やがてワゴンでルームサービスが運ばれて来て、彼が窓辺のテーブルでウイスキーのボトルを開けるのを見る内、身体に纏わりつくような疲れに目蓋は次第に下りた……。
目を覚ますと、外はもう日が落ちかけていた。
ベッドから身体を起き上がらせると、「よく眠れましたか?」と、顔を向けた彼に問いかけられた。
「ごめんなさい、私、寝過ぎてしまったみたいで……」
「いいえ、気にすることなどは何も。目覚ましに、よければこちらへ来て一緒に飲みませんか?」
手招きをされて、ベッドを降り窓際のテーブルセットに腰かける彼のそばへ立って行くと、「ここに」と膝の上に座るよう促された。
そんなところになんて……とためらっていると、「座りなさい」と、手が引かれた。
バランスを崩して倒れ込むように彼の膝に腰を落とす。
「ほら、ここから見る街の灯りはとても綺麗ですから」
片腕に私を抱えた彼が窓の外を指差して、身の置き所もあまりないまま指を差された方へ視線を向けた。
見下ろせば夕日に照らされた街並みがオレンジ色に染まる中、クリスマスのイルミネーションが通り沿いに煌々と瞬いていて、まるで見開きの絵本の頁を眺めているようにも感じられた。
「……ほんとだ、美しいですね…」
日が沈み徐々に暗くなりつつある街道の先には、私たちが挙式をした山の頂きに建つお城が見えていた。
木々の緑に囲まれてそびえるホーエンツォレルン城が夕闇に包まれていくのを見つめながら、
「私、先生と式を挙げたんですね…」
ぽつっと呟くと、彼が「はい…」とだけ返して、作った水割りをどうぞと手渡してくれた。