俺とらっだぁは二人とも、
とある研究員達の間で産まれ、
研究資材として育成された実験体だった。
その研究所では、”カラーデーモン”という
色別に分けられた三種類の化け物が
研究対象として扱われていた。
その化け物達の名はそれぞれ、
レッドデーモン、 ブルーデーモン、
そして、イエローデーモン。
俺たちはその中でも、
“ブルーデーモン”という化け物を
研究するために使われていた。
ある日、まだ俺たちがブルーデーモンの
存在すら知らなかった、20年以上前の話。
その研究所のボスが、俺たちにこう言った。
boss「四番、五番。今から別室へ移動します。ついてきてください。」
4「……………」
5「はい。」
そのときの俺たちはそれぞれ、
らっだぁが四番、俺が五番と
番号付けされていた。
らっだぁは基本無口で、
少しの会話しかしなかったことを覚えてる。
でもたまに、らっだぁの方から
話しかけてくれるときもあった。
4「なあ、五番。今日は、どんなことがあると思う?」
5「え?…さあ、分かんない。」
4「…そっか。」
そんな短い会話を済ませたとき、
ボスはひとつの扉の前で足を止めた。
boss「着きました。この扉の先へ、あなた達のみで進んでください。
boss「中で別の実験体が待機しているので、あなた達がそれに接触したとき、実験を開始します。」
boss「さあ、入ってください。」
ボスはそう言うと扉を開き、
俺たちを半ば強引にその中へと押し込んだ。
5「なんか…不気味、だな?」
4「…………うん。」
俺達が怯えながら廊下を進むと、
その先には開けた空間があった。
壁、床、天井、その どれもが
同じ素材でできていて、
俺たちがやって来た廊下への入口以外、
その空間には何も存在しない。
???「…………♪」
そして、その部屋の中心にそれはいた。
体の大部分は人間の姿をしているが、
左腕が薄暗く不気味な青色に染まっており、
その腕からは様々な繊維がむき出して
人一人分くらいの大きさにまで膨張している。
太く浮き出た血管が脈打つたび、
その腕は、ドクン、ドクン、と鼓動していた。
俺はそれを見た瞬間、
あまりの恐怖に後ずさり尻もちをついた。
四番も、怯えた顔で立ち尽くした。
???「…………だあれ? 」
それは俺たちに気がついて、
奇妙なほどゆっくりこちらに顔を向ける。
それはまるで人形のように
美しく整った顔立ちをしていたが、
その左頬には腕と同じ、
青く太い血管が何本も浮き出ていた。
5「あっ…あぁ……」
4「……………っ」
???「あれ?ははは、こわい?ごめんね、ごめんね。」
それは片言でそう告げる。
その瞬間、それの左腕はシュルシュルと
音を立てながら収縮していき、
普通の人間となんら変わらない、
細く綺麗な腕へと変貌した。
顔からもあの太い血管が無くなり
人間離れした綺麗な顔がより際立つが、
それでもあの腕を忘れられない俺達は
先程と変わらない姿勢でカタカタと震える。
3「こんにちは!僕、三番!よろしく、よろしく!」
そう言ってそれは無邪気に笑う。
そのとき、どこからともなく
スピーカー越しの音声が空間に響いた。
boss「三番、聞こえますか?」
3「あ、けんきゅういんさん!こんばんは、こんにちは! 」
boss「三番、こんにちは。実は今から、あなたにしてほしいことがあるんです。」
3「うんうん、なあに?」
boss「そこにいる二体の人間の子に、あなたの血を飲ませてあげてくれませんか?」
4「……………は?」
3「僕の、ちー?」
boss「はい、三番。僕たちは今、あなたの仲間を増やすための研究をしているんです。」
boss「あなたの種族…”ブルーデーモン”の繁殖方法は、未だに解明されていない。だからそこの子達で、 色々試してみることにしたんです。」
boss「どうですか、三番?僕達に協力してくれますか?」
そこまで話すと、
三番は笑顔のまま激しく頭を縦に振る。
3「いいよ、いいよ!なかま、うれしい!」
boss「ああ、それはよかった。それじゃあ、早速お願いしますね。」
3「はーい!」
三番はそう言って、
くるりと俺たちの方へと振り返る。
そして満面の笑みを浮かべ、
俺たちの方へずんずん歩いてくる。
3「なっかま、なっかま!」
そんな陽気な声を他所に、
左腕はボコボコという音を立てて膨張し
先程見た異様な青いものへと変貌していく。
そして三番は自らその腕に爪を立て、
皮膚を切り裂くとそこから
青い液体がドクドクと流れ出す。
俺はそれに怯え、後ずさる。
5「よ、四番…俺ら、あの…あの青い化け物に、なるのか…?」
4「………………」
5「…なあ、 四番!早く逃げよう!そうしないと、あいつの仲間に、化け物にされる!!」
4「………………」
5「なあ、四番!!」
俺は四番の腕を引き、
先程の廊下へ戻ろうとする。
しかし四番は、ピクリとも動かなかった。
4 「無駄だよ、五番。」
4「だって、ほら。さっき来た道は、シャッターで閉められちゃってる。」
5「で、でも!化け物になるくらいなら、逃げ道探して…!」
4「無駄だって言ってんだ!!」
四番は俺の腕を振り払った。
俺は唖然と四番を見る。
4「逃げられない…逃げられないんだよ、ここからは!お前だって分かってるから、今までここから出ようとしなかったんだろ?」
4「それに、俺らが逃げたところで…身内もいない、常識も知らない、読み書きもできないような俺らが、外に出て生きていけると思うか?!」
4「だから俺らは人類のために!実験体として使われることこそが使命なんだって!研究員さんだって、そう言ってただうが!!」
四番は目に浮かぶ涙を拭いながら、
涙でぐちゃぐちゃな笑みを浮かべ
震えた声で言った。
4「いくら外に憧れたって…俺たちが幸せに生きれる場所は、ここしかないんだ!」
そして四番は俺から顔を背け、
三番の方へ自ら赴いていく。
5「や、やめろ…あんなん飲んだら、お前…!」
4「………………」
3「あはは!はい、どうぞ!」
三番は四番の前に自身の左腕を突き出す。
そして四番は、 腕から滴る青い液体…
三番の血液を口に含んだ。
その日以来、
俺らはブルーデーモン専用の
実験体として扱われるようになった。
三番の血液を無理矢理飲まされたり、
遺伝子を改造されたり、
三番の臓器を移植させられそうになったり、
実験の内容は様々だった。
四番はその日以来さらに口数が少なくなり、
同じ牢、同じ環境で過ごしていても
一切会話をしないほど仲を悪くしていた。
それと共に体も限界が近くなっていき、
何度も嘔吐を繰り返したり、
一夜中体の痛みに悶え苦しんだ時もあった。
そんな地獄のような毎日を、
俺たちは数年間繰り返した。
ある日の出来事だった。
俺たちが牢で寝ていた時、
急に扉が開かれる音がした。
俺は不思議に思って目を開けると、
一人の研究員さんが俺たちの牢の
鉄格子を開けていた。
研究員さんは俺たちが見ていることに
気がつくやいなや、
慌てて人差し指を口に当ててみせた。
??「しー!頼む、静かに、静かに頼む。」
研究員さんはそう言って、
忍び足で俺たちの牢に入ってくる。
その顔は、どこか見覚えのあるものだった。
確かボスが不在のとき、
たまにご飯を運んでくれていた人だ。
この研究所では、
ボスが直々に実験体の世話をしている。
この研究所にいる他の研究員さん達は、
主に裏方の書類仕事や、
ボスがいないときの代わりで
実験体の世話などをしてくれている。
今日は、ボスが不在なのだろうか。
俺がむっくりと体を起こしたとき、
研究員さんは俺の肩をがしっと掴んだ。
そして唐突に、こんなことを口にした。
??「五番、四番。俺と一緒に、この研究所から逃げ出さないか?」
5「……………!」
4「………なんでですか。」
四番は研究員さんを睨むように問う。
研究員さんはその圧に押されながらも、
四番の目をじっと見つめて口を開ける。
??「…この研究所は、おかしいと思うんだ。」
??「君たちのような未来ある子供が、こんな場所にいていいわけが無い。ここから出て、もっと自由に、幸せに生きるべきだと思うんだ。」
研究員さんはそう言って笑いかける。
俺と四番は唖然として、
その笑顔を見つめる。
??「今日は出張でボスがいないんだ。だから今のうちに逃げれば…」
4「…嫌です。」
??「え?」
四番はそう言って立ち上がり、
研究員さんを睨むようにして声を上げた。
4「だって俺たちは実験体で、外に出ても普通に生きることは絶対にできないって、ボスはそう言ってた。」
4「俺たちはこの研究所で過ごすことが、一番の幸せなんだ。一番存在価値を見いだせるこの場所にいることこそが、幸せなんだ。」
4「だから…外になんて、行きたくないです。」
それを聞いた研究員さんは、
少し驚いた顔をして四番を見つめる。
しかし少し考えた後、
顔を上げニコリと優しく微笑んだ。
??「…そうか。すまないね、急に変な提案をして。今のことは、忘れてくれて構わない。」
研究員さんはそう言って立ち上がり、
牢の出入口の方へと歩いていこうとする。
しかし俺は、その腕を掴んだ。
??「…………?」
5「…け、研究員、さん…」
5「俺は…外に、出てみたいです。」
??「……………!」
その言葉に、研究員さんと 四番は
とても驚いた顔をしてこっちを凝視した。
四番は困惑し、震えた声で俺に聞く。
4「え…は?え、な、なんでだよ? 五番、だって俺らは…!!」
5「…確かに四番の言う通り、俺らは外に出ても何もできないかもしれない。」
5「それに俺も、外は怖い。怖い人や動物、自然がいっぱいだって、研究員さん達言ってたし…」
俺はそこで耐えきれなくなってしまい
目から涙がこぼれ落ちるが、
隠すように俯いて懸命に言葉を紡ぐ。
5「…でも俺は、四番と違って、この研究所でも役に立てないんだ。」
5「実験されるの嫌で、いつもボスから逃げてばっかりで、ビビりで…俺は迷惑で役立たずな、失敗作の実験体なんだ。」
5「きっと俺が外に出たところで、研究所にはなんの損益もないから…」
俺がそこまで話したとき、
四番は急に俺の方へ迫ってきて
無理矢理俺の口を手で塞いできた。
俺が困惑していると、
四番は掠れた声で話し始めた。
4「そんなの、俺だって…いや、俺の方が失敗作だ!」
4「五番は、いつもボスに挨拶してて…薬の副作用聞かれたときとか、凄く丁寧に説明してて、いつもボスに感謝されてて…」
4「だから…だから、俺だって!お前みたいになりたかったし…こんなとこ抜け出して、外、出てみたいよ…!」
5「……四番………」
五番はそのまま手を離し、
そっぽを向いてしまう。
互いに黙り込み静寂が流れたとき、
研究員さんは黙って 俺らを
大きな両腕で寄せ集め抱きしめた。
4・5「……………!」
??「…お前らは、役立たずなんかじゃない。俺が保証する。」
??「こんなに責任感があって、夢があって…お前らには確実に、有望で、壮大な価値がある。」
??「だからきっと、お前らは外の世界でも上手くやれる。お前らがなりたい存在に、なんにでもなれる!」
??「大丈夫。お前らがあるべき場所に、俺が連れて行ってやるから…」
??「だから…俺と一緒に、ここを出よう!」
研究員さんは真っ直ぐな目で、
俺らをじっと見つめた。
俺らはそれに、
胸が張り裂けそうなほどの思いを抱えて
大きく首を縦にふった。
コメント
3件
ダさんはもしもの可能性より現実(もしくは妄信)を見る方が楽だと判断したのかな。でも子供だから揺らぐ 3が青なら1.2が赤と黄色で 4.5番以外にもおるんかな?そうなると大変やな 3番の言葉遣いとても好き、2回繰り返す癖あるな
研究員さんは前から 思う所があったんかな? そうなんやとしたら 血を飲む前に助けられんかったんかな〜と思ってしまう
涙で前が見えないよ😭