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#オカルト
リユ
7
聖次
693
【フィルモア王城・客間】
華奈が前代未聞の凄まじい測定結果を叩き出したその日の夜。
昼間の魔族襲撃の影響もあり、三人は部屋を出ることを厳格に禁じられ、そのまま城内の客間に泊まることが決まった。
「――レベル1.0」。
同じく前代未聞の、しかしあまりにも残酷な数値を突きつけられた匠は、出された食事もほとんど無言のまま済ませていた。華奈は彼の痛切な気持ちを痛いほど察して下手に慰めるよりも、今は一人にした方がよいと判断してただ静かに彼の隣で見守り続けてくれていた。
「タクちゃんと一緒に寝たいな♡」
「華奈様、お二人は別々に寝室とのお達しが出ています!」
この王国のベッドはデカく三人で寝てもまだ余るほどだ。必然的に華奈は一緒に寝て少しで癒そうと考えたらしいが、部屋付きの侍女は当然のように一歩も譲らない構えだ。
口を尖らせたままの華奈は悔しそうに渋々違う寝室へと入った。
【そして、翌日】
重苦しい空気のまま朝食を済ませ、そのタイミングを計ったようにウィラード騎士団長が客間を訪れた。
「匠様、華奈様。……折入って、ご相談があります」
その神妙な面持ちを見た瞬間、匠は「王への謁見に向かうのは、華奈一人だけになるな」と直感した。
そして悪い予感ほど、よく当たる。
ウィラードの口から告げられたのは、予想通りの進言だった。レベル底辺の匠を連れていけば周囲の貴族たちから不当な批判に晒される。それを防ぐためにも、今回は華奈様お一人だけで謁見に向かわれた方が賢明である、と。
「何でよ!? 私と匠は一心同体なのよ! それを引き離すなんて――」
「華奈、少し冷静になって考えてくれ」
「嫌よ、だって」
激昂する華奈の言葉を、匠の静かな声が遮った。
「今の意見は至極真っ当だ。俺があの謁見の場に出れば、周囲から罵倒され、責められるよ。お前だってそんな姿を見たくもないだろ?」
「う、ぅく……っ……」
あまりにも冷静な匠の言葉は、ぐうの音も出ないほど正論だった。
それが余計に悔しいのか、華奈の目から大粒の涙が溢れ出す。ただただ黙って涙を流す彼女の姿を見るのは、匠にとっても胸が締め付けられるほど辛かった。だが、ここで意地を張って謁見に同行すれば、華奈をもっと辛い目に遭わせてしまう。
匠はそっと華奈の肩に手を置き、言い聞かせるように言葉を紡いだ。
「とりあえず……今は、お前が王の信任を得る方が先だよ。な?」
「うん……分かった。……貴方の方が、ずっとずっと私なんかより強いって知ってるから。……待っててね」
もっと優しい慰めの言葉をかけたいのが、その潤んだ瞳から丸わかりだった。だが、それが逆に今の匠を傷つけてしまうかもしれないと知っているからこそ、華奈は言葉短めに残し、匠の手に自分の手を重ねた。
手を重ねて無言の温もりを伝えたところに、ウィラードから「華奈様、そろそろお時間です。参りましょう」と声がかかり、手を離して旅立つ。
「それじゃ、行ってくるね……!」
後ろ髪を惹かれる思いで、部屋を後にする華奈。残される彼の今の気持ちを考えると、今にも胸が張り裂けそうになっていた。
静かに事の顛末を伺っていたウィラードはドレスルームへと向かう彼女の背中を追いかけつつ、とある違和感に対し深く思案していた……。
「低いはずの彼のスキルレベルが見れないのは、何かやっぱり変だ……」
※※※※※
【フィルモア王城・騎士団詰め所付近】
騎士団の詰め所に近い場所。そこには練習をさぼっている数名の剣士が屯《たむろ》している。
「あーあ、練習なんてかったりーよ」
「早く昼に成らないかな~」
練習をさぼり、愚痴を言い合う連中は近衛騎士団の普通科の連中で、その殆どが貴族のおぼっちゃまだ。権力を傘に練習を抜け出しているいわば不良のような連中だ。
そんなならず者気取りの連中の背後に――黒い法衣に身を包んだ怪しい男が近づいて来る。
「もうすぐ一人の黒髪の男がここを通ります。その者を存分に痛めつけなさい」
「理由など不要です。あなた方は日頃から、そのようなことを楽しんでいるのでしょう」
黒い法衣の袖から覗く漆黒の杖。その先端から紫色の魔力が淡く揺らめく。
剣士たちの瞳から徐々に光が失われていった。
「………」
命令された剣士は操られたように、無言のまま図書館に繋がる屋根付きの廊下を目指し歩き始めた。
「勇者は力よりも心を砕けばいい」
「異世界より流れ着いた穢れた魂は、この世界には不要です。浄化されるべき存在なのです」
黒い法衣の男はそう呟くと、静かに踵を返し、その場を後にした。
※※※※※
【フィルモア王城・謁見室】
「謁見ってこんなに大勢の前で行うの?なんか違うような…」
ウィラードにエスコートされ向かった謁見室。重苦しい扉が開き目に飛び込んで来るのは、決して広くない部屋に溢れんばかりの人だかり…。
もうこれは祝賀会と言った方が正解だろう。
「初めましてミラード陛下、八雲華奈と申します」
「フィルモアの為に異世界から参られた八雲華奈よ、全王民に代わり謝辞を送る。そなたには期待しているぞ」
違和感を振り切り覚えた手のカーテシーを披露する華奈。満面の笑みのミラードは玉座から降りて、面と向き合い歓待するほどのもてなしぶりを披露する。
それはあり得ない持て成しぶりで、市井の貴族令嬢だと間違いなく卒倒するレベルだ。だが、華奈の心の中には冷たい風が走る。
(トコトン利用する気満々ね、メアリーの言っていた通りだわ)
メアリーと同じ部屋で夜を明かした際、「王家、貴族は利用価値があると認識したら骨の髄までしゃぶり尽くし、用済みになれば手の平を返す」と教え、匠の話が出なかったら注意した方が良いと忠告してくれたのだ。
その予想通り、存在すら認めないかの如く匠という名は一切出てこなかった。拍手喝采の中、謁見は無事に終わりを迎えた。だが即座に王族や貴族に取り囲まれてしまう。
「お初にお目にかかります……」
無事に王との謁見を済ませた華奈だったが、そこからが本当の地獄だった。
群がる有象無象の貴族たち、胡散臭い笑顔を浮かべる王家の人々の紹介、果てはそのまま強制的に出席させられた豪華絢爛な昼食会…。
「いったん部屋に戻りたいのですが」
「晩餐会の為のお色直し、出席者に対する個別対応案の復習、スピーチ原稿の熟読を先にお願いします」
「……」
匠という名は絶対に出さないが、要は隔離して引き離そうと画策しているのが丸わかりだ。昼食会では「お連れの方のお姿が見えませんわね」などと貴婦人たちから容赦ない言葉が降りかかっていた。
だが、王の信任を得るという匠との約束を果たそうと、会いたい気持ちをグッと堪え、晩餐会に向け鏡台に映る自分に「あともう少し」と言い聞かせていた。
※※※※※
【フィルモア王城・客間】
華奈が謁見の間に出向いた直後、入れ替わる様にメアリーが戻って来る。彼女は功績を認められた報奨金を貰い、満面の笑みを浮かべている。
「それでは匠様、私は転移魔法で一旦メルド村に帰ります!」
何故魔法で帰れるのかというと、ネスレ達元盗賊団の活躍によって最前線に近い新しく出来た村は、臨時の駐屯基地として認められ転移魔法陣を置く事を許されたのだ。
そしてそれを使い、第二の故郷になる村に帰る。そう言うことだ。
「魔法で一足飛びで帰れるなんてすごいね。気を付けてねメアリー」
転移門がある広場でメアリーを見送り、1人寂しく客間へと戻ってきた匠。
しかし、1人でいると昨日の事を思いだし、更に監視という名の重苦しい客間の空気に耐えかね、気分を紛らわせるために「この国の事を調べたいので図書館に行きたいのだが」と、すぐさま部屋を出る事にする。
「…畏まりました。城内であれば自由に見て回って構いません、と陛下より申し付けられております」
部屋付きの侍女も警備兵も同行することなく、利用価値が無く放置しても構わないとお達しがでているのか、地図を渡されると当然のように知らん顔をする。
※※※※※
【フィルモア王城・騎士団詰め所付近】
城の最奥にある『図書館』は禁書庫と呼ばれ、国王の許可が無ければ立ち入ることすらできない。そのため匠が目指したのは、近衛騎士団の詰め所近くにある、一般兵や従者なら誰でも利用できる割と大き目な『図書室』だった。
手渡された簡素な地図を頼りに、屋根のある野外の廊下を、匠は一人で歩いていた……。
「――おい、そこの。……『takumi』とか言ったか?」
「んっ?」
聞き慣れない、ひどく傲慢《ごうまん》な声で名前を呼ばれ、匠はその方向を一瞥した。
そこには、近衛騎士団『普通科』の薄茶色の軍服を纏った、数名の若い騎士たちがたむろしていた。
彼らに呼ばれる筋合いなどない。だが相手は曲がりなりにもこの国の騎士だ。匠は不審に思いつつも、その場に足を止めた。
「……あぁ、やっぱりコイツか。噂になってるポンコツ勇者ってのは」
「おいコラ、やっぱりお前が、世界最弱、前代未聞のポンコツ勇者候補だってな! こんなところで一体何やってんだ?」
「ひ、ははっ! ゴミが王城の廊下を一人で平然と歩いてること自体、王家に対する不敬だぞ。なぁ、おいゴミ。聞いてんのか?」
騎士たちは下卑《げび》た笑みを浮かべながら、匠を囲むように距離を詰めてくる。
彼ら『普通科』の人間は、異世界から来た勇者の名前とステータスこそ共有されていたが、華奈の顔も、そして匠の顔も、実際には見たことがなかった。
だからこそ――この無防備な少年が、あの規格外の化け物《華奈》にとって「触れれば国が滅びる逆鱗《げきりん》」だとは、露ほども知らなかったのだ。
「……俺はただ、図書室に行きたいだけだ。そこを通してくれないか」
匠は努めて冷静に、波風を立てないよう返答した。しかし、その態度すらもエリートを自称するクズ騎士たちのプライドを刺激したらしい。
「あ? 『通してくれないか』だぁ? 粗大ゴミの分際で、騎士である俺たちに対等な口を利いてんじゃねえよッ!!」
騎士たちは互いに顔を見合わせ、不気味に笑った。次の瞬間だった。
ドゴッ!!
何の前触れもなく放たれた蹴りが、匠の腹部へ深々とめり込む。
レベル1.0の肉体に、鍛え上げられた騎士の暴力。息の根が止まるほどの衝撃と共に、匠の身体は冷たい石畳の上へと激しく転がっていった――。
(第30話 完)
コメント
1件
**はる。です。** うわっ、今回めちゃくちゃ胸くそ悪い展開やった…!匠が冷静になだめる場面、華奈の涙がグッと来たわ。お互いを想い合う気持ちが切ないほど伝わってきた。「お前の方がずっと強い」って信じてる華奈、最高や。 でも黒法衣の不気味な奴、騎士を洗脳して匠を襲わせるとか陰謀の香りしかしない。ラストの蹴り描写、めっちゃ痛そうで「次回どうなるんや!」って叫びたくなった。続き待ってるで!🔥