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「なぁ聞いた? 若井ってさ、他校の女子と付き合ってるらしいぜ」
昼休み、廊下ですれ違ったクラスメイトが
何気なく口にした噂が、俺の心臓を一気に締め付けた。
「……は?」
思わず声が裏返った。
「いや、だって一緒に帰ってるの見たやつがいるとか。
マジでモテるしな、若井」
胸の奥がざわついて、昼飯の味なんか全然わからなかった。
さっきまで普通にバカ笑いしてたのに、
気づけば俺は、若井の背中を避けるように距離をとっていた。
――もし、本当に彼女がいるんだったら。
この前、体育倉庫で俺にあんなに近づいたのは、何だったんだ。
考えたくもないのに、頭から離れなくて。
気づいたら、俺は吹奏楽部の部室をのぞいていた。
「……元貴?」
フルートを磨いていた涼ちゃんが顔を上げる。
金髪に蛍光灯の光が反射して、いつもより柔らかく見えた。
「ちょっといい?」
俺は中に入って、扉を閉める。
「……俺さ、どうしても気になることあって」
言葉を選んでるうちに、喉の奥が詰まって、思わず口を噤んだ。
「若井のこと、でしょ?」
涼ちゃんが静かに言った。俺は目を見開く。
「最近、彼女がいるって噂、耳にしたよ」
「……やっぱ、涼ちゃんも聞いた?」
「ああ。でも元貴、噂ってのはだいたい半分以上は間違ってるもんだよ」
そう言って微笑むその声が、やけに落ち着かせてくれる。
「でも……俺、なんか、苦しいんだよ。
若井に彼女がいたら……俺、どうすればいいんだよ」
初めて、自分でも気づいてなかった本音が口からこぼれた。
涼ちゃんはフルートを膝に置いて、俺の正面に腰を下ろす。
「元貴。君は若井のこと、どう思ってるの?」
「俺は……」
息を飲んだ。
「……大事だよ。誰よりも。
だから、彼女なんかいるって思ったら……嫌で」
声が震える。泣きそうになるのを必死にこらえていたら、
涼ちゃんがそっと俺の頭を撫でた。
「……それでいいんだよ、元貴」
「え?」
「苦しいってことは、それだけ若井のことを想ってる証拠。
……君の気持ちは、ちゃんと恋だよ」
金髪の涼ちゃんが、優しく笑う。
その言葉が、俺の胸に決定打のように突き刺さった。
――やっぱり、俺、若井が好きなんだ。