ライブの熱気が冷め、バーには静かな余韻だけが残る。
私はブースから降り、手に残る振動を感じながら深呼吸した。
怖かった夜も、裏切りの記憶も、今はもう重くない。
「……なあ、ユナ」
左馬刻がそっと声をかける。
彼の手が自然に私の手を包むように重なった。
「お前の音、すげぇな。……俺も、負けてられねぇ」
私は笑って肩をすくめる。
「面倒くさいけど、ありがと」
その言葉に、彼も少しだけ笑みを返す。
港町の夜風が二人を包む。
ネオンに反射した水面が、まるで新しいステージの幕開けを祝っているかのようだった。
「また、一緒に音を作ろう」
左馬刻の言葉に、私は頷いた。
過去を背負ったままでも、怖さを抱えたままでも、
二人でなら音も恋も、きっと前に進める――
再生のビートが、二人の胸の奥で静かに鳴り続ける。
そして、港町の夜は、二人だけの音で満たされていた。
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