テラーノベル
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ミセスが活動休止になって、折悪くコロナ禍に見舞われ、その間の計画が大きく狂った。更に、五人体制だったものが、三人編成になり、俺はある覚悟を決めた。
「スタッフとも話し合ったんだけど、若井、涼ちゃんと一緒に住んでくれない?」
「え…っ。」
若井が、俺と涼ちゃんの顔を見比べる。俺はじっと若井を見つめ、涼ちゃんも窺うように若井を見つめた。
「…なんで? だって、お前ら…。」
「うん。付き合ってる。だからだよ。」
「…は?」
俺は、5年前、メジャーデビューする直前に、涼ちゃんに告白した。バンドに誘って、一緒に切磋琢磨してくれて、ニ年。俺の最初の小さな恋の蕾は、もうどうしようもないくらいに咲き誇って、枯れたくないと、心の中で叫んでいた。
俺は、少し狡かったかもしれない。いや、確実に。プロデビューが決まっているバンドの舵取り兼フロントマンの俺に、「ずっと好きだった。俺と付き合って欲しい。」と言われたキーボーディストは、断る選択肢はあっただろうか。涼ちゃんの胸中は定かではないが、確かに、あの時、「嬉しい、僕も、元貴がずっと好きだったから。」と涙ぐんでそう応えてくれた君は、俺のことを想ってくれていたと信じている。
そして、ここにきての、メンバー再編成だ。三人に減った今、少しでも繋がりが弱いところは、きっと切れてしまう。そこを強固なものにする為には、ニ人の共同生活が必要なのだと、俺は考えた。
若井と涼ちゃんは、決して仲が悪いわけではない。ニ人で絡むこともあるし、ふざけ合って笑う場面も多い。しかし、いざニ人が深いところで分かり合っているかというと、また話は別である。ただ、今必要なのは、『そこ』なのだ。深いところでの、繋がり。並大抵のことでは揺るがない、という強い部分が、このニ人には、欠けている。
俺と若井は、幼馴染。俺と涼ちゃんは、恋人同士。ここの繋がりは、きっと揺るがない、その自信はある。だから、俺はここで、若井に同居を持ちかけたのだった。
「どう?若井。」
「いや、どうって…涼ちゃんは? いいの?」
「うん、若井が嫌じゃなければ。」
「嫌とかじゃないけど…元貴もいいの?」
「うん、もちろん。仕事の為だろ、甘いこと言ってらんないよ。俺がそういうの嫌いだって知ってんだろ。」
「…うん、じゃあ、分かった。涼ちゃん、よろしく。」
「うん、よろしく。じゃあ、早速だけど、いくつかルール、みたいなの決めとく?」
「ルールとか決めると息苦しくない? 大体でよくない?」
「でも大体でやってて、いざヤなとこあったら、言いにくくない? それならルール作っといて、必要なら変えていく方が話しやすいと思うけど…。」
「…んー、まあ、うん、そっか。じゃあ、どんな?」
涼ちゃんは、俺の意図をちゃんと汲んで、若井と繋がりを築こうとしてくれている。歳上らしく、意外としっかりしている涼ちゃんの、そんなところが、好きだ。
ニ人の共同生活が始まり、数週間が過ぎた。俺は俺でやることがあるし、三人で集まることもたまにある。そして、俺が涼ちゃんを呼び出すことも。ただし、あまり頻繁に呼びすぎると、それこそ共同生活の意味がなくなってしまうので、そこはある程度の我慢が必要だった。
俺はある時、寂しさを紛らわす為に、同居人を、迎えた。人、ではなく、犬。
コロンとした形に、クリッとした眼。白っぽいふわふわの毛を纏って、こちらを見る時に首を傾げるその仕草。どこかの誰かにそっくりだと、俺は思わずこの犬を手に入れてしまったのだ。
俺は、そこまで動物が得意ではない。だが、この寂しさを紛らわしてくれるなら、と命を預かる覚悟を決めたのだ。
まだ遠くから俺を見つめ、距離を感じるソイツを、俺はスマホで写真に収める。すぐにLINEで送って、その反応を待つ。
『え? かわいい』
『でしょ』
『どこの子?』
『俺の子』
『うそ!』
『ほんと』
『会いたい!』
『いーよー』
やっぱり、動物好きの涼ちゃんのことだ、我慢なんて出来るわけがない。まんまと君の方から『会いたい』と言わせて、俺の目的は遂行されたわけだ。
「よくやったな、おまえ。」
頭でも撫でてやろうと手を伸ばすと、可愛い顔に似合わず、少し歯を見せて、ウゥ…、と低く鳴く。慣れるまでは時間がかかるか、と俺は触れ合いを諦めた。
しばらくして、涼ちゃんがやって来た。
「お邪魔しまーす…あー、かーわいい〜。」
俺は、その表情を余す事なく見つめる。笑いながら、身を低くして、敵ではないと示し、犬に近づく。俺の時と同じく、ウゥ…と低く唸った時点で、涼ちゃんは動きを止めた。そのまま目を合わせて、ニコニコ笑顔を絶やさずじっと待つ。
「大丈夫だよ、おいで。怖くないよ〜、優しいお兄さんだよ〜。涼ちゃんだよ〜よろしくね〜。えっと…名前は?」
涼ちゃんが、犬から視線を外さずに俺に問いかける。名前? そういえば決めてなかったな。名前、名前か…。
「涼ちゃん決めて。」
「えっ、そんな、いいの、元貴のわんちゃんでしょ。」
なおも目線を外さず、驚きと焦りで崩れそうな笑顔をなんとか持ち直す。
「いいよ。涼ちゃん付けてあげて。」
「うーん…じゃあー…リョウカ!」
「…マジ?」
「え、だめ?」
「…いや、いーけど…。」
「よかったねー、リョウカだって〜、わぁ、僕と一緒だね〜。」
俺は、自分で名付けた癖に同じ名前だと喜ぶ素っ頓狂な君を見つめながら、自分が一人でリョウカに話しかけるところを想像する。
『リョウカ、ただいま。今日仕事でこんなことあったよ。リョウカ、ご飯食べる? どうした? 抱っこして欲しいの? おいで、リョウカ。』
…ヤバい。非常に、ヤバい。
やっぱり名前変更を申し出ようと涼ちゃんの方を見ると、驚いたことに、すでにその腕の中にはリョウカが居座っていた。小さな尻尾を懸命に振り、必死に涼ちゃんの顔を舐めている。
「う、わ、リョウカ、すごいなお前〜。」
顔を何回か背けながらも、嬉しそうにリョウカを撫でる。その光景に、俺は我慢ができなくなった。ソファーから立ち上がり、テーブルを挟んで向こう側の床に座ってリョウカと戯れる涼ちゃんを、後ろから抱きしめる。
「…元貴も、リョウカ抱っこする?」
リョウカを見つめたまま、優しく問う。俺は後ろから、その頬の丸みが、金髪の前髪が隠す瞳が、揺れるまつ毛が、全てが愛おしいと感じていた。
「…俺だと唸るもん、コイツ。」
「コイツとか言わないで。まだ怖がってんだよ。元貴もにっこり笑ってあげなきゃ。」
ね? と振り向きながら、俺にも笑いかける涼ちゃんの唇に、キスを落とした。
「…ん、犬臭い。」
「…さっきめちゃくちゃ舐められたからね、僕。」
「さいあく。洗ってきてよ。」
「酷いな〜、ねえリョウカー。」
俺は、涼ちゃんのふわふわに伸びた金髪に頬を寄せて、甘く囁く。
「…ね、洗ってきて…?」
涼ちゃんは、その言葉の意図を読み取ったのか、少し黙ると、うん、と小さく応えてそっとリョウカを床に下ろす。
「ちょっと行ってくるね、喧嘩しちゃダメだよ。」
そのまま、涼ちゃんがトイレへと姿を消す。俺は、涼ちゃんにきちんと伝わっていることに心が躍って、寝室へ行き準備を整えた。
涼ちゃんがシャワーまで済ませて、適当に俺の服を着て出てきた。俺も風呂場へ向かう途中、すれ違いざまに耳打ちする。
「ベッド、準備してあるから。あと、もう舐められんなよ。」
「…うん、わかった。」
少し照れくさそうに、はにかみながら寝室へと向かった。俺はその姿を見送り、そそくさとシャワーを済ませにいく。
リビングのケージにオヤツを囮にしてリョウカを入れた。
「ちょっと待っててな。」
俺になんか眼もくれず、一心にオヤツに齧り付く。その必死な姿に、フッ、と鼻で笑ってしまい、おっといけない、と自分を律する。
つい、俺のを一生懸命に口でしてくれる涼ちゃんを思い出して、顔がニヤけてしまった。さて、と寝室へ向かうと、部屋の明かりが消され、ベッドの上に仄かに人影が見て取れる。
「ちょっと何も見えなさ過ぎない?」
「このくらいでいいよ、恥ずかしんだから。」
「…じゃあ、ここ開けといていい?」
寝室のドアを大きく開く。リビングからの明かりが入り、幾分か見えやすくなる。
「えー…リョウカに…。」
言葉の最後の方は消え入るように小さくなった。俺は、ベッドに上がり込み、座っていた涼ちゃんをそっと寝かせる。
「リョウカに…なに?」
「…聞こえちゃうかなって…。」
「…なにが?」
涼ちゃんの耳にキスをして、首筋に吸い付く。ん、と小さく声を漏らして、涼ちゃんが身を捩る。瞼や頬、首筋、鎖骨、あらゆるところにキスを落としながら、両手で服をたくし上げて胸の突起を優しく指で擦った。涼ちゃんの口から、小さく声が漏れる。そして、泣きそうに震えながら、俺に懇願してきた。
「…ね…洗って、きた…から…。」
「うん?」
「キス、して…。」
「してるよ? いっぱい。」
俺は、わざと胸の辺りにちゅ、ちゅ、とキスをして、突起を舌で舐め上げた。
「あ、や、ちが…!」
涼ちゃんが首を振って、俺の顔を両手で包むと、自分の顔に近づけて、唇を合わせる。お互いに顔の角度を変えながら、舌を絡ませ合う。涼ちゃんの脚の間に身体を入れ込んで、俺の硬くなった部分を涼ちゃんの下腹部に擦り付ける。涼ちゃんも脚をモジモジと動かし、俺に腰を近付けてきた。
「…涼ちゃん、えっち。」
「元貴もでしょ…。」
こっち、と涼ちゃんに言われて、俺は涼ちゃんと逆さまになる形で横になる。俺のズボンをずらして、涼ちゃんが口に含むのと同じく、俺も涼ちゃんのものを口に含んだ。お互いに、快感と相手への愛撫との狭間で揺れながら、競い合うように舐め、吸いあげ、前後に動かす。
「ぷぁ…もう、だめ…入れて…。」
涼ちゃんが口を離して、腰を揺らす。俺は潤いを手に取り、涼ちゃんの中へと塗り込む。よく自分で解してくれたのか、ぬるりとニ本入っていった。ぐりぐりと円を描いて入り口を柔らかくすると、涼ちゃんの息が荒くなる。どうせなら、と指ニ本を奥にグッと入れ、上の部分をくにくにと刺激する。
「…ぃあ…っ! あ…んぅ…っ!」
身体がビクッと跳ねて、腰をゆらゆらと動かす。いや、動いてしまうのか。どちらにせよ、非常に煽情的な姿に目が奪われる。
「あ…も…、も、入れ、て…ああ!」
その言葉を最後まで待たずに、指を引き抜いてすぐに自身を埋め込む。涼ちゃんの艶かしくも少し苦しそうな声を聞いて、性急すぎたか、と僅かに自制し、涼ちゃんのナカが俺の形に慣れるまでしばし待つ。
「…はぁ、あ…ふぅ…。 」
ゆっくり呼吸を繰り返し、俺のモノに意識を送っているのがわかる。俺は少し意地悪をしたくなり、グッと下腹に力を入れて、血液を巡らせ涼ちゃんのナカの質量を大きくする。
「あ! …も、…おっきくなった…わかる…。」
ふふ、と笑って、俺に手を伸ばした。その腕に絡み取られ、ちゅ、ちゅ、とキスを交わす。
「…もういい?」
「…うん。」
涼ちゃんの承諾を得て、俺はゆっくり引き抜いては、そっと奥へ送る。何度か繰り返すと、涼ちゃんの吐息が早くなるのが耳元で聞こえた。潤いを持った打擲音が、寝室を越えて、リビングまで響いている。
「あ、あ、…ん…、っ…!」
俺に揺すられ、その度に声を漏らしていたが、意外とリビングに響くもので、それを恥ずかしく思ったのか口を噤んで懸命に声を我慢する。いじらしいその姿に、余計に昂っていく。
涼ちゃんの背中を支え、俺の上に乗るよう身体を動かす。少し力無くそれに応える涼ちゃんが、座る俺にもたれ掛かる。
「…動ける?」
「…ん…。」
俺も腰を揺すり、涼ちゃんの上下に動くのを少し手伝う。自分で気持ちのいいところを探りつつ動くのか、涼ちゃんの腰が僅かに前後へ動いて、ある所にぶつかると、身体をビクッと跳ねさせた。
「ぅあっ! …あ…!」
大きすぎる快感なのか、まだ痛みを伴うのか、腰を引いてそこに当たるのを避けているように涼ちゃんの動きが弱くなる。俺は涼ちゃんを傷付けないよう、その様子を伺っていた。涼ちゃんが俺にしがみついて、少し呼吸を繰り返して落ち着いたようだ。ゆっくりと腰を揺らして、また刺激を与えていく。
「あ…は…っ…ん…ふ…ぅ…ん…。」
耳元で、吐息のたびに声が漏れる。その声が俺の下腹部をくすぐり、動きの加速へと繋ぐ。涼ちゃんの声が、動きに比例して大きく、より熱をもったものになっていった、その時。
ゥワンッ!
リビングの方から、涼ちゃんの声に呼応するようにリョウカが吠えた。そういえば、いるんだった。俺はそんなことを頭で考えながら、ついそちらに向けてしまった顔を涼ちゃんに戻す。涼ちゃんの腰を抱き込んで、ゆさゆさと揺すると、涼ちゃんが視線を寝室のドアへ向けたまま、気もそぞろに顔を少し歪める。
「あ…ちょ…と…ま、って…。」
「なに?」
俺は動きを止めずに、むしろ奥を狙って打ち続ける。
「あ! あ…や…リョ…カ…が、ぁ…あ!」
ゥワン! ワン!
涼ちゃんが俺の動きに耐えきれず、大きな声で喘ぐと、リョウカがそれに呼応する。その度に、頬を染めた顔であちらを気にするもんだから、なんだか俺はいけないことをしているような、悪戯を仕掛けているような、そんな気持ちになって、…興奮した。
涼ちゃんをベッドに下ろし、脚を大きく広げて奥へと何度も打ちつける。高い打擲音が部屋中に響き渡って、耳まで侵される。
「あ! やぁ…! だ…つよ…い…!」
「…だって、リョウカが気になるんでしょ?早く終わらさなきゃ。」
涼ちゃんの頭を抱き込むようにベッドに肘をつけ、耳元で囁きながら、耳朶を口に含み耳殻を舌でなぞる。一際大きな嬌声をあげた涼ちゃんのナカで、俺は欲を一気に吐き出した。
「ごめんねぇ、お待たせ、寂しかった?」
後片付けを終え、また俺の服を着た涼ちゃんが、笑顔でケージに近づく。クンクンと鼻を鳴らしながら、尻尾を千切れんばかりに振って涼ちゃんへ脚を伸ばしている。
「あ、これ、鳴きグセついちゃうのかな?」
「えわかんない。大丈夫じゃない?」
「まあいいよね、だって可愛んだもん。」
ケージの前で正座をして、またその腕にリョウカを抱き抱えて、めちゃくちゃに舐められる涼ちゃん。俺はスマホで幾つかその様子を写し、口角が勝手に上がっていく。
やっぱり、飼って正解だったな。
俺は、心の中でそう呟いた。
フェーズ2を迎え、リョウカを飼い始めて一年ほど経ったある日、涼ちゃんがいつものように俺の家へ来ていた。
無事に、若井との共同生活も終え、涼ちゃんは俺の家の近くに引っ越している。こうして、仕事終わりによく俺の家に寄っては、リョウカの面倒を見てくれるのだ。
俺は、抱えていた制作をひと段落させて、伸びをしながら仕事部屋から出た。おもちゃで遊んでもらっているリョウカが、興奮気味に涼ちゃんの周りを駆け回っていた。
「あ、お疲れ元貴。」
「うん、ありがと。」
「なんか食べる? 僕作ろっか?」
「んー、いや、なんか適当に食べるわ、ありがと。」
「そう? じゃあなんか飲み物でも入れよっか。」
俺と涼ちゃんが話している間、リョウカはずっと遊んで欲しそうに、正座している涼ちゃんの足元をチャッチャと爪の音を鳴らして跳ねていた。しかし、涼ちゃんの気がすっかり俺に向いてしまった事に腹を立てたのか、宙ぶらりんに上げていた涼ちゃんのおもちゃを持つ手を急に噛んだ。
「あぃっ! …た…!」
涼ちゃんが身体をビクッとさせて、手を庇うと、リョウカが驚いて、数歩後ずさった。
「涼ちゃん、大丈夫?!」
俺が急いで駆け寄ると、押さえた手をそーっと覗いて、ホッと笑った。
「あ…甘噛みだったみたい、あービックリした…あはは。」
「リョウカ。」
俺は、リョウカを睨みつけて、伏せに近い体勢で尻尾と耳を垂れるリョウカを脇から両手で抱えて顔を近づける。
「元貴、大丈夫だから、やめてあげて。」
「大丈夫じゃないよ、手怪我してたらどうすんだよ。ちゃんと叱らなきゃ。」
俺は涼ちゃんに言って、リョウカに向き直った。リョウカは少し歯を見せて、ウゥ…とまた小さく唸っている。
「リョウカ、噛むのはダメ! ガブ! ダメ! わかった?!」
俺が凄んで言い聞かせた直後、ウゥ! と言って俺の口の辺りを噛んだ。多分本気じゃ無かったとは思うが、運悪く皮膚の中でも一番柔らかな唇を、歯に挟まれてしまった。
「わ! あ、いったぁ…。」
俺は、ビックリしたのと、噛まれたショックで、眼を丸くして情けない声を出した。うっかりリョウカを落とさないように、気を付けて床にそっと置く。
「元貴! 大丈夫!?」
涼ちゃんがティッシュを渡してくれて、洗面所へ駆けて行く。俺がティッシュで口を押さえて、そっと離すと、赤い血がじわ、と付いていた。ああ、最悪…明日雑誌の表紙撮影なのに…。軽く舌打ちして、唇の様子を確認すべく、洗面所へと向かう。
涼ちゃんがちょうど出てきて、濡れタオルを渡してくれた。それを受け取って、洗面台の鏡を見る。
「ありがと。…あー、これ腫れそうだな…。」
「明日、なんだっけ?」
「雑誌の表紙撮影。ヤバいかな?」
「メイクすれば、なんとか…なる、かな?」
涼ちゃんも、俺の唇をそっと摘んで、傷の様子を確かめる。
「ああ〜、痛そう…。大丈夫?」
「うん、痛い。」
そう良いながら、俺は涼ちゃんにキスをした。
「…ちょっと、ちゃんと冷やさないと…。」
「…後でね。」
もう一度顔を近づけて、キスをする。もちろんそれだけで止まらなくて、涼ちゃんの口に舌を入れてさあ深く味わおうと思っていたら、ズキッと唇が痛んだ。
「あぃっ…て…。」
「もー、だから冷やしなって。」
顔を赤くしながら、呆れたように言って、濡れタオルを口に当ててくれた。
「…クソー、リョウカめ…。」
「…こういう時、同じ名前だと、ちょっとやだね。」
ニ人でふふ、と笑って、リビングに戻る。ソファーの上で、コテンと頭を置いて、伏せをしているリョウカの横にそっと座った。リョウカを挟んで涼ちゃんも座り、後ろから背中の辺りを優しく撫でる。
「ほら、反省してるよね、リョウカ。」
「…次やったら怒るからな。」
俺も、頬の辺りをカリカリと撫でる。リョウカはチリチリ、と首輪を鳴らして、頭を振った。
「…っとに、めんどくさいやつだなー、りょうちゃんは。」
「…それどっちに言ってる?」
「どっちも。」
はは、とニ人で笑って、俺たちの間に太々しく居座るリョウカを、ニ人で優しく撫で続けた。
困った奴だけど、涼ちゃんとの、この穏やかな時間を作り出してくれるリョウカが、やっぱり俺は愛おしいと思ってしまうのだ。
コメント
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もっくんが愛犬に唇噛まれて腫らして雑誌撮影したのは知ってたけど、真相がこれだったらおもろいw 因みに私は猫派(何の話?w)
めちゃくちゃ可愛いお話しありがとうございます🥰 ワンちゃん🐶ご登場😍 涼ちゃんとワンちゃん🐶が可愛すぎて💛 涼ちゃんがワンちゃんと仲良くしようとしてる姿が可愛らしすぎました。 最中に吠えられるのなんだか🤭🤭🤭恥ずかしがる涼ちゃんがなんとも色っぽすぎました🫠
きゃー!!!わんちゃんたまに凶暴化するとか言ってましたもんね!!WWWWWWWWWあれですよね音楽と人の雑誌!!