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ああ、バタバタしてるうちになんだか切なくなってた💦💦💦 切ないセンシティブ🫠 す、好きです。七瀬さんの言葉も美しくて、キュンキュンです😍 しかし、お、お誕生日ですが…🙄 元貴君かわいそう😂 続き読んできます!!💕
え、えぇ〜👀💦お誕生日に別れるの?!でもいちゃいちゃはオッケーなんだな🫣💕とか、ちょっと混乱しました🤣笑 理由が色々気にはなりながらも、変わらず♥️くんの側にいるのには理由があるんだろうな✨と妄想が止まりません〜🤭
聞いていたアレが発動してしまった笑 でも聞いていたけど思っていたのと違ったし、別れた理由がわからないので次回が楽しみで仕方ないです🥰 でも涼ちゃん…理由があるのはわかるけどお誕生日になんて…😢いやお誕生日だからこその理由があるのかもしれないけれども。 名前呼びで若井さんにちょっと嫉妬しているところ元貴さんの好きが溢れててうふふってなりましたꉂ🤭
フェーズ2が開幕して二年が過ぎ、俺は様々な人脈から沢山の仕事を貰えるようになった。今度の収録も、その中の一つ。とてもお世話になっている嵐のニノさんの番組に、Mrs. GREEN APPLEの三人で出させてもらえることになったのだ。
10月頭の放送なのだが、普通より少し早めの9月頭に収録した。俺たちが有難い事に多忙を極めているため、スケジュールがそこしか無かったのだ。
「でもすごいよね、ニノさんの番組に出られるなんて。」
本番前、スタジオの端で涼ちゃんが興奮したように笑う。
「俺のおかげよ? 感謝して?」
俺がニ人にニヤリと笑いかける。
「うわ、ちょっとやな感じ。うそうそ、ありがと。」
若井も、はは、と笑う。
番組はトークを中心に、楽しい雰囲気で進んでいく。俺たちの悩み相談で、俺は変顔をやめられない、というクソしょーもない話を繰り広げた。本当は、こんな事は悩みでもなんでもない。俺の本当の悩みは…。
最近髪をバッサリ短く切った涼ちゃんが、ふわふわで可愛すぎる事。長い時もそりゃふわふわで可愛かったけど、短くなると余計にその丸く膨らんだ頬や、零れそうに垂れた眼などがよく見えて、堪らないのだ。絶対に本人には言わないし、そんな様子も見せてはいないけど。
そんな事を頭の隅で考えている間に、スタジオの話が、 俺のモテ期が今年の28歳で終わるという事に変わっていた。なんだそれ、ほっといてくれ。俺は今、涼ちゃんのふわふわと、リョウカのふわふわとで、もうフワッフワな世界にいるんだ。ああ、早く帰って、どちらも撫でたい。
収録が終わり、ニノさんと談笑する。その中で、また次にご飯へ行く約束を取り付けた。この人は、本当に一緒にいるのが心地いい。俺の憧れの大アイドルのくせに、全く飾らず、それどころか俺の楽曲を、俺の生き方を、認めて、褒めて、メンバーの事も一緒に慈しんでくれる。最高の友達だと、俺はニノさんとの約束は何よりも優先していた。
「今日、元貴の家行っていい?」
収録から数日後のある日、涼ちゃんから仕事終わりに誘われた。しかし、あいにく今日はニノさんとの約束を取り付けた日だ。
「あーごめん、今日ニノさんとご飯行くんだ、言ってなかったっけ。」
「あ、ううん、そっか。じゃあ大丈夫。」
「うん、ごめんね。」
「あ、なら、ちょっとリョウカの様子だけでも見に行ってもいい? 鍵はちゃんと閉めるから。」
「ああ、助かる。アイツ寂しいからかすぐ暴れるんだよ。」
「はは、元貴忙しいもんね。結局僕が面倒見てるもん。もう僕のわんちゃんだよ、ほとんど。」
「はは、確かに。ありがとねいつも。じゃね。」
「はーい。」
涼ちゃんが笑顔で手を振る。俺も手を振って応え、荷物を肩にかけてスタジオを出て行った。
ニノさんとの会食を終えて部屋に帰ると、綺麗に整えられた部屋で、すやすやと心地よさそうにリョウカが眠っていた。涼ちゃんの姿は、既に無い。そうだよな、待っててくれるなんて、そんな都合のいい話は無理だよな。
俺は、そっとリョウカを撫でて、涼ちゃんの温もりをそこに探した。
9月14日、俺の28歳の誕生日。この日は、三人で俺の家に集まり、久しぶりにゲームをして、夜にはお酒も飲んで、プレゼントをもらった。
「おーいリョウカこれはダメだぞ食うな!」
若井が、手にしたピザを高く上げてリョウカを制する。この名前にしたもう一つの弊害。若井が『涼架』と呼び捨てにするのを何度も聞く羽目になる事だ。
「おいやめろ! リョウカ! ちょ、涼ちゃん! ヘルプ!」
「あはは、リョウカ、若井が好きだな〜。」
「違うだろ、ピザだろ。」
俺は、涼ちゃんの言葉にちょっと反応して、すかさずツッコミを入れる。ホント、リョウカなんて名前にするんじゃ無かった。
「じゃあねー、おめでとさんでした!」
ほろ酔いになった若井が、先に部屋を出た。俺と涼ちゃんの、ニ人の時間を作るためだ。気の利く親友に、俺は心の中で感謝した。
俺は、ソファーに座り、涼ちゃんを手招きする。リョウカを抱っこして若井を見送っていた涼ちゃんが、優しく微笑んで、リョウカをそっと床に下ろす。
手を広げて待っていると、涼ちゃんがおずおずと俺の膝の上に乗って、ギュッと抱きついてきた。
「…僕、めっちゃ太ったから、重いよ?」
「…うん重い、脚折れそう。」
「もー!」
怒る涼ちゃんをクスクスと笑って見つめ、ちゅ、と軽くキスをする。涼ちゃんがもう一度キスをして、それがだんだん深くなる。俺は涼ちゃんの頭を手で包み、そのふわふわの髪をクシャッと撫でる。
「…リョウカと変わらんな。」
「なにが?」
「触り心地?」
「僕は犬じゃない。」
涼ちゃんが俺の首筋に顔を沈め、そこにキスをする。今日は積極的だな、涼ちゃんが珍しく攻めてくれんのかな?と思っていたら、ギュッと首に抱きついたまま、動かなくなった。
「…あれ? するんじゃないの?」
「…ん…。元貴、あのさ…。 」
「ん?」
耳元で、くぐもった涼ちゃんの声が熱く響く。
「…あの…僕、ちょっと…わ、別れ…て…欲しい…んだけど…。」
ん? ちょっと言い淀み過ぎて途切れ途切れで、何言ってるかわかんない。いや何言ってるかは聞こえたんだけど、何言ってるかわかんない。
「どゆこと? 急に? え?」
俺は半笑いで、涼ちゃんの肩を掴んで引き剥がす。涼ちゃんは、眼を伏せて、口を噤んでいる。
「…なんで?」
「…ちょっと…自信が無くなって…元貴と付き合うっていう…のが…ちょっと…プレッシャーで…。」
「はい? プレッシャー? なんの? 誰から?」
涼ちゃんが、少し怯えた表情で俺を見る。いやいや、怖いのはこっちだから。急に、だって、え、誕生日だよ、俺、今日。
「…ごめん。」
そう一言だけ零すと、涼ちゃんは黙り込んだ。俺は困惑しながらも、涼ちゃんの下腹部に眼を遣る。そこは、確かに大きくなっていた。俺は、涼ちゃんの服の裾から両手を入れて、腰や背中を触る。ぴく、と反応を見せる涼ちゃんを、じっと見つめていた。
「…別れたいの?」
「…うん…いや、別れ…たい、…うん…。」
なんか腑に落ちない様子で、悩みながらも別れを口にする。だけど、その腕は首に絡まったままだし、背中だってしっとりと潤いを湛え始めた。なんだろう、新手のプレイかな? 俺はよくわからないけど、その手を進める事にした。そのまま両手を前に持ってきて、胸を触る。服を捲り上げて、舌で突起を転がす。
「…ん…。」
手を口に持っていって、少しでも声を抑えようと指を噛んでいる。その仕草がとても可愛くて、俺はもう止められそうになかった。
そのまま、ソファーで事に及ぶと、明らかリョウカに気が行くので、一旦涼ちゃんをソファーに降ろして、俺はリョウカを追いかける。
チリチリと首輪を鳴らして、逃げ続けるリョウカの後ろから追いかけるのを諦め、俺はケージを開いて手を置く。
「リョウカ、ハウス。」
「そんなの出来るの?」
「知らん。」
クスッと笑って、涼ちゃんがケージの中に手を入れてお気に入りのおもちゃをフリフリして呼び寄せる。
すぐに飛んできて、リョウカがケージに収まった。入り口と、屋根を閉めて、ご飯と水を涼ちゃんが確認する。
その慣れた後ろ姿を見ながら、さっき涼ちゃんに言われたことを頭の中で反芻していた。
別れたい? 俺と? なんで? プレッシャーって何? てかこれ、今からヤるよね。その為に涼ちゃんもケージにリョウカ入れたんでしょ? え、別れたいのにヤるの? ヤれるけど、付き合うほど好きじゃない、とか? え、ほんと意味わからんのだけど。
ていうか、俺、今日誕生日なんだけど。
沸々と怒りが湧いてきて、目の前にしゃがんでいるふわふわ頭がムカついてきた。頭を後ろから撫でて、わしゃわしゃと触る。
「僕、犬じゃないんだけど。」
はは、と笑いながら振り向く涼ちゃんの、顔が固まる。俺の全く笑ってない顔に見下ろされることで、やっと自分がさっき言った言葉でも思い出したのだろう。
「…あ…。」
「…別れたいんだよね?」
「…うん。あ、でも、元貴が仕事とかでいない間のリョウカのお世話とか、何か用事がある時にここに来る、とかは全然、大丈夫だから、もし必要ならいつでも言ってほしいし、むしろ僕もリョウカのお世話したいし…。」
急に必死になって、ベラベラとよく喋る。どういうことだ? 余計にわからん。つまり、この生活を変える気はないけど、とにかく『俺の恋人』という称号だけがいらない、と、そういうことか。
なるほどね。
ムカつく。
俺は涼ちゃんの腕を掴んで、ソファーに押しつける。うつ伏せにした状態で、後ろからのしかかる。
「…そんなに俺の恋人がイヤだったの?」
「…ちが…。」
「じゃあなんで。」
「…まだ…言えない…。」
「は? いつなら言えるの?」
「…ら、来年の、誕生日…。」
「…え? それまで、なんで別れたかわかんないってこと?」
「…ごめん、これは、僕の問題だから…。」
「俺は関係ないって? ふざけんなよ。」
「…ごめん。」
こうなった涼ちゃんは、意外と頑固だ。言わないと決めたら言わないし、自分が悪いと決め込んだら、ずっとこうして謝るだけ 。俺は、溜め息をついて、これ以上の尋問は意味を成さないと、諦めた。
俺はズボンを脱いで、涼ちゃんのズボンもズラしていく。
「…ま、まって、ここじゃ…。」
「なんで? さっきトイレ行ってたから、準備はできてんだろ?」
「…でも、リョウカの前じゃ…やだよ…。」
リョウカの前じゃなきゃ、いいんだ。やっぱり、別れたいなんて嘘だよね? セックスはする気なんじゃん。それともなに? 恋人としてのやり取りは面倒くさくなったけど、セックスはしたい、とか? 割り切った関係になりたいとか?
「…ムカつく…。」
俺はそれだけをこぼして、半ば無理矢理に涼ちゃんを犯した。涼ちゃんは泣き叫んだり、力で抵抗はしなかったけど、終始恥ずかしそうに、リョウカが寝ているかを確認して、ソファーに顔を埋めて声を殺していた。
事が終わって、涼ちゃんが服を整えると、静かに立ち上がった。
「…一緒に寝てくれないの。」
俺がソファーで呟くと、涼ちゃんがまた、隣に座る。
「…元貴が、望んでくれる事だったら、なんでもやるよ。一緒に寝よ。」
俺が、だったらなんで別れんの、と言っても、困った顔をして笑うだけだった。
その夜は、涼ちゃんを腕の中にしっかりと抱きしめて、ふわふわの頭を憎らしく思いながらも、その暖かさと大好きな香りがそばにあることをしっかり確認して、疲れた身体を夜に沈めた。
それからの生活は、驚くほどに何も変わらなかった。
俺が仕事で数日家に帰れないときは、涼ちゃんが合鍵で出入りして、リョウカのお世話をしてくれている。
別れてからすぐに、涼ちゃんは一応合鍵を返そうとしてくれたのだが。
「…でも、鍵ないとリョウカの世話、しにくくない?」
「…あ、そ…か…。…あ…じゃあ…どう…。」
「…はあ。…別に、鍵持ったままでいいよ、その方が便利だし。」
俺がぶっきらぼうにそう伝えると、ごめん…、と小さくこぼした。
ねえ、やっぱり別れる意味がわかんない。合鍵は持ってるし、リョウカの世話はしてくれるし、一緒に寝てくれるんでしょ? 身体だって、俺が望めば重ねてくれるんでしょ?
俺が望むなら、なんでも?
俺だけ?
じゃあ、涼ちゃんは、もう、俺に何も望んでないってこと?
しばらくは、涼ちゃんと顔を合わせる度に、会話を交わす度に、そんな蟠りが心の中で頭をもたげていた。
ある時、俺が夜どうしても遣る瀬無い時に、リョウカでも俺を埋められないからと、涼ちゃんを呼び出した。宣言通り、俺が望めばすぐに来てくれて、俺を抱きしめてくれる。
またある時は、次の日が遅めの仕事の時に、一緒に寝てほしいとお願いしたら、もちろん一緒のベッドに入ってくれた。俺は最初、なんとか自制していたが、どうにもこうにも、髪が更にふわふわに伸びてきた涼ちゃんを抱きしめていたら、欲が湧いてくる。こんな事やっちゃいけないと頭の隅では理解しているのに、身体が言うことを聞かない。それでも、涼ちゃんの身体に手を伸ばすと、涼ちゃんは受け入れてくれた。キスをして、愛を囁くと、困ったように、だけど嬉しそうに笑う。涙ぐんでもいる。
ホント、なんなんだよ、オマエ。
俺は心の中でそんな悪態をつきながらも、涼ちゃんを手放す事なんて到底できるはずもなかった。
そんな生活が、半年以上続き、俺が涼ちゃんを呼び出す頻度は極端に減った。その代わりではないが、色んな人達との交流が増えていく。新たな年を迎えたとしても、俺の心は綺麗に晴れないまま、変わらない生活だけが繰り返されていった。変わったのは、季節と、俺たちの関係の称号が無くなったことだけ。
5月に入り、俺は新曲のデモを若井と涼ちゃんに聴かせた。今度の夏に、飲料メーカーとのタイアップで依頼された曲。割と、向こうからのメッセージがしっかりとビジョンを持ったもので、俺はそれに当てはまるように曲を紡いだ。ふと、心に浮かんだあの頃の記憶を、貴方へのメッセージとして、忍ばせて。
ニ人は、俺のスマホから流れるデモ音源に、目を閉じて耳を傾けている。曲が、ラストのCメロに差し掛かった。俺は、じっと涼ちゃんを見つめる。ピク、と涼ちゃんの瞼が揺れて、薄く眼を開けた。
「おお〜、良いじゃん。しっとりした夏だね。」
曲が終わって、若井が嬉しそうに感想を述べる。涼ちゃんは、眼を伏せたまま、まだ何も言わない。
「涼ちゃんは? どう?」
俺たちがとっくに別れた事などは知らない若井が、涼ちゃんの表情をなんとも思わず気さくに話しかける。涼ちゃんが、机の上で組んだ手を少し遊ばせながら、小さく言葉をこぼした。
「これ…夏…と、蛍、だっけ…。」
「夏の影だろ?」
「ちがう、最後の…。」
「最後の…? Cメロ?」
若井が、俺のスマホのスクロールバーを少し戻して、再生し直す。意識をしてCメロを聴き、若井がおお〜、と声を出す。
「あー、ホントだ、すごいね涼ちゃん。テンポ違うから気付かなかった。」
ケラケラと笑う若井に、緩く笑いかける涼ちゃん。そんな涼ちゃんを見て、俺は思い出していた。
そうだよ、涼ちゃん。これは、俺と貴方の、思い出の曲でしょ。
俺たちがメジャーデビューの年に付き合い始めて、一年が経ったある夏の日。俺の部屋で情報番組をぼんやり見ていた涼ちゃんが、あ、と声を上げた。
「夏祭り特集だって、いいな〜、いつかニ人で行きたいね。」
「暑いだけじゃん。」
「もー、元貴はー。楽しいだろうな〜、浴衣着てさあ、焼きそばにフランクフルトに、わたあめとー、りんご飴!」
「俺りんご飴食えねえよ。」
「あそっか、ごめんごめん、じゃあ何食べる? チョコバナナか。」
「行かないって、しかも食べもんばっかじゃん。」
俺がくつくつと笑うと、だってお祭りのご飯て美味しいじゃん、と涼ちゃんも笑う。
「あー、射的とか、輪投げとか、ヨーヨー釣りとか、そんなのも懐かしいな。」
俺が話に少し乗ると、嬉しそうに近づいてきた。
「ねえ、いいよね、夏祭り! 今度一緒に…。」
「行かないよ。」
「えー…まあ、僕も東京のお祭りってよくわかんないけど。あるの?」
「いやあるだろ。少なくとも長野よりはある。」
「いやいや長野バカにしちゃいけませんよ。長野はねー、あそうそう、涼しいところに夜行けばね、蛍だって見られるんだよ。」
「へー、蛍? 涼ちゃん見たことあんの?」
「あるよ、結構山の方行かないとダメだけどね。すごいよ、蛍。ちか…ちか…ってね、か弱い光なんだけど、たまにタイミングが合ってブワーッて光ると、すごーって、ぞわわ〜ってなる。」
「へえ〜、それはちょっと見てみたいかも。」
「でしょ?! じゃあ今度長野に」
「行かないよ。蚊に刺されるだけじゃん。」
なんだよー、と顔を顰める涼ちゃんに、ふふ、と笑ってキスをする。それだけですっかり誤魔化されてしまう君が、愚直で、愛おしかった。
その後、なんだか涼ちゃんの話がやけに頭に残っていた俺は、ふと、『夏と蛍』という曲を作った。決して、懺悔などではないが、涼ちゃんの望みを悉く拒否してしまったことに、少なからず罪悪感はあったのだ。
もし、君と蛍を見に行っていたら。そんな事を心に思い浮かべて、夏らしい曲に仕上げた。
デモを聴いた時の、君の嬉しそうな顔が、今でも胸の中で輝いている。
結局、スタジオで音合わせまでしたが、あまりに個人の思い入れがありすぎて、タイミングは今ではない、という理由で世に出すことは無かった。
「涼ちゃん、覚えててくれたんだ、夏と蛍。」
「当たり前でしょ、元貴の曲は全部覚えてるよ。」
「あ、さっすが〜、愛だね。」
若井が少し俺たちを揶揄う。涼ちゃんは、ふふ、と笑うだけで、否定も肯定もしない。いつから、貴方はこんなに誤魔化すのが上手くなったのか。俺は、10年前の表情豊かに夏の話をする涼ちゃんを思い出して、少し寂しくなった。
こんな風に、貴方から何も望まれなくなる前に、もっと貴方の望みを叶えていればよかったかな。面倒くさいなんて思わず、もっと貴方の手を取って一緒に外へ出ていればよかったかな。
そんな後悔ばかりが、俺の胸を占めていった。
夏の影を制作する中で、俺は思い切って、スタッフに相談をした。
「夏の影のプロモーションで、ちょっとやりたい事があるんだけど…。」
俺は、その内容と、場所決めなどを詰めていく。
「良いねそれ、ニ人とも喜ぶんじゃない?」
「だと良いけどね。」
俺は緩く笑って、心の中であの頃の君の手を優しく握った。
涼ちゃんの望み、遅くなったけど、叶えさせてね。