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夕暮れの公園。ベンチに座るりいな。制服のポケットから、折り紙で作った小さな舟を取り出す。風が髪を揺らす。
りいな(心の声) 「はるきと歩いた港町は、静かで、言葉よりも空気が優しかった。 わたしが何も言わなくても、はるきは隣で、黙っていてくれた。 その沈黙が、なんだか心地よくて。 “弱いままでもいいよ”って、風が言ってくれてるみたいだった。」
(舟を指先でくるくる回す。ふっと笑う)
「海と歩いた商店街は、にぎやかで、笑いが止まらなかった。 わたしが変な歌を歌って、海が“それ歌詞ちがうし!”ってツッコんで。 ふたりでお菓子を分け合って、くだらないことで爆笑して。 “今のわたし”を、まるごと好きって言ってくれてるみたいだった。」
(少しだけ目を伏せて、舟を見つめる)
「どっちも、ほんとのわたし。 静かなわたしも、ふざけるわたしも。 はるきといると、心が静かに揺れる。 海といると、心が跳ねるように揺れる。 そのどっちも、わたしの“揺れ”で、わたしの“今”なんだ。」
(立ち上がって、水たまりのそばへ。夕焼けが水面に映る)
「選ぶってことは、どっちかを置いていくこと。 でも、わたしは――どっちも置いていけない。 だって、どっちも大事で、どっちも“好き”だから。」
(舟をそっと水たまりに浮かべる。舟がゆっくり揺れる)
「だから、選ばない。 選ばないことで、わたし自身を選ぶ。 “どっちも好き”って言えるわたしを、信じたい。 それって、逃げじゃなくて――わたしの勇気だと思うから。」
(風が吹いて、舟がくるりと回る。りいなは少し照れたように笑う)
「…でもさ、こんなこと言ったら、海は“ずるい!”って言うかな。 はるきは、“りいならしいね”って笑ってくれるかな。 それでもいい。 わたしは、わたしの“今”を選ぶ。 揺れてるままの、わたしを。」
(机の上には折り紙の舟が3つ。りいなは、指先でそっと舟をなぞっている)
すず(窓辺から振り返って) 「ねえ、りいな。そろそろ…言ってみる? “どっちが楽しかったか勝負”の結果。」
海(机に肘をついて、ちょっとだけ笑って) 「まあ、俺の勝ちだろ。あんなに笑ってたし。 カラオケで変な歌歌って、りいな爆笑してたじゃん。」
はるき(静かに、でも優しく) 「…笑ってたけど、港町では泣きそうな顔もしてた。 それも、りいなの“今”だったよね。」
(りいなは舟を見つめたまま、ゆっくり口を開く)
りいな(少し照れながら) 「…うん。どっちも、すっごく楽しかった。 海といると、笑いすぎてお腹痛くなるくらい。 はるきといると、静かすぎて、心がじんわり温かくなるくらい。」
(3人が黙って聞いている。夕陽がりいなの頬を照らす)
りいな(言葉を選びながら) 「どっちかを選ぶってことは、 どっちかの“わたし”を置いていくみたいで。 それが、できなかった。 だって、海といるときのわたしも、はるきといるときのわたしも―― どっちも、好きだから。」
(沈黙。海が少しだけ目を伏せる。はるきは微笑んでいる。すずは、りいなを見つめている)
りいな(続ける) 「だから、選ばない。 選ばないことで、わたし自身を選ぶ。 “どっちも好き”って言えるわたしを、信じたい。 それって、逃げじゃなくて――わたしの勇気だと思うから。」
(海がゆっくり顔を上げる。目が少し潤んでいる)
海(ぽつりと) 「…ずるいな。 でも、りいながそう言うなら、それが正解なんだろ。」
はるき(優しく) 「…選ばれなくても、りいなの“好き”に触れられたなら、それで十分だよ。」
すず(小さく笑って) 「…ねえ、りいな。 選ばないって言ったけどさ。 わたしは、りいなの“全部”が好きだよ。 ふざけるとこも、照れるとこも、揺れるとこも。 ぜんぶ、ぜんぶ。」
(りいながすずを見る。目が少し潤んで、でも笑ってる)
りいな(小さな声で) 「…それ、ずるい。」
すず(にっこり) 「でしょ?」
(りいなが舟を手に取り、窓辺へ。そっと風に乗せて飛ばす。舟がくるりと回りながら落ちていく)
りいな(心の声) 「選ばないことで、選んだ“わたし”。 この揺れも、照れも、全部含めて―― 今のわたしを、好きになってくれてありがとう。」
(放課後の教室。りいなが「選ばない」と言ったあと、海は窓の外を見ている)
海(心の声)「…そっか。選ばない、か。 俺のこと、好きって言ってくれた。 でも、“選ばない”ってことは―― 俺といる未来を、選ばないってことでもあるんだよな。」
(海は、りいなの笑顔を思い出す。カラオケで爆笑してた顔。缶蹴りで転んで笑ってた顔)
海(心の声)「俺といると、笑ってくれる。 それだけで、十分だって思ってた。 でも、はるきといるときのりいなは、 俺の知らない顔してる。 静かで、優しくて、…なんか、綺麗だった。」
(海は拳を握る。悔しさじゃなくて、どうしようもない切なさ)
海(心の声)「選ばれなかった。でも、嫌われたわけじゃない。 それが、いちばん苦しい。 “好き”って言われたのに、 “選ばない”って言われた。 俺のこと、好きって言ったくせに―― ずるいよ、りいな。」
(でも、海はふっと笑う)
海(心の声)「…でも、そんなずるいとこも、好きなんだよな。 選ばないことで、自分を選んだりいな。 それって、かっこいいって思っちゃった。 …俺、ほんとバカだな。」
(同じ教室。りいなが舟を飛ばしたあと、はるきはその軌道を目で追っている)
はるき(心の声) 「りいなは、選ばなかった。 それは、俺を選ばなかったってことでもある。 でも、不思議と―― そんなに悲しくない。」
(はるきは、りいなが静かに話していたときの声を思い出す)
はるき(心の声) 「“静かすぎて、心がじんわり温かくなる”って言ってくれた。 それだけで、十分だった。 俺といるときのりいなを、 りいなが“好き”って言ってくれた。 それが、俺の中では、答えだった。」
(はるきは、海の方を見る。海は少しだけ肩を落としている)
はるき(心の声) 「海は、笑わせる天才だ。 俺は、静かに寄り添うことしかできない。 でも、りいなはその両方を“好き”って言った。 それって、すごく優しい答えだと思う。」
(はるきは、机の上の舟を手に取る。りいなが折ったものだ)
はるき(心の声) 「選ばれなくても、 りいなの“好き”に触れられたなら、それでいい。 でも―― ほんの少しだけ、 “選ばれてみたかった”って思う自分も、 ちゃんとここにいる。」
(はるきは舟をそっと机に戻す。夕陽が、彼の横顔を照らす)
はるき(心の声) 「それでも、りいなが“今の自分”を選んだこと。 その勇気に、俺はちゃんと拍手を送りたい。 …好きだったよ、りいな。」
(放課後の教室。りいなが舟を飛ばしたあと、すずはその軌道を見ながら、そっと笑う)
すず(心の声) 「…選ばないって、言ったね。 海といるときのりいなも、はるきといるときのりいなも、 どっちも好きだからって。 それって、ほんとにりいならしい答えだなって思った。」
(すずは、りいなの横顔を見つめる。夕陽に照らされて、少しだけ涙ぐんでる)
すず(心の声) 「でもさ。 わたしは、りいなが“どっちも好き”って言うときの顔が、 いちばん好きなんだよ。 迷って、揺れて、でもちゃんと自分で選ぼうとしてる顔。 それが、すごく綺麗だった。」
(すずは、机の上の舟を指先でなぞる。りいなが折った、小さな舟)
すず(心の声) 「海みたいに笑わせることはできないし、 はるきみたいに静かに寄り添うこともできない。 でも、わたしは―― りいなの“全部”を見てきた。 ふざけてるとこも、照れてるとこも、泣きそうなとこも。 ぜんぶ、ぜんぶ。」
(すずは、りいなの方へ歩いていく。そっと隣に座る)
すず(心の声) 「選ばれなくてもいい。 でも、いちばん近くにいたい。 “好きごっこ”でも、“親友”でも、“秘密のやりとり”でも。 なんでもいい。 りいなの“今”に、わたしがいるなら――それでいい。」
(すずは、りいなの手にそっと触れる。りいなが驚いて、でも笑う)
すず(小さな声で) 「ねえ、りいな。 選ばないって言ったけどさ。 わたしは、選んじゃったよ。 りいなのこと、ずっと前から。」
(りいなが目を見開く。すずは、照れくさそうに笑う)
すず(心の声) 「…ずるいって言われてもいい。 だって、りいなの“ずるさ”も、好きだから。 わたしも、ちょっとだけずるくなるね。」
(夕陽が教室を満たす。りいなの手を握るすずの指先が、ほんの少し震えている)
すず(心の声) 「選ばれなくても、 “好き”って言える勇気が、 わたしにも、ちゃんとあった。」
「静岡、行こうよ!」
放課後の教室。窓から差し込む夕陽が、机の上に淡く広がっていた。
すずがスマホを掲げながら叫ぶ。旅館の写真、露天風呂、浴衣、卓球台。青春のテンプレが全部そろってる。
「見て見て!この旅館、浴衣で卓球できるって!絶対盛り上がるやつじゃん!」
海が興味津々に顔を上げる。
「露天風呂、星見ながら入るやつ?それ、ロマンじゃん。」
はるきは静かに缶コーヒーを開けながら言う。
「…伊豆の方かな。干物とか、うまいらしい。」
すずが笑いながらはるきにツッコむ。
「はるき、食べ物で選ぶタイプか~。でも、干物食べながら語る夜とか、いいかも。」
りいなが机に顔を伏せながら、ぽつりとつぶやく。
「…浴衣で卓球って、なんか…照れるね。でも、行きたいかも。」
その言葉に、空気がふわっと変わる。3人がりいなを見る。
すずがニヤニヤしながら実況モードに入る。
「出ました~!りいな選手、“行きたいかも”発言!これはもう、旅決定の流れですね~!」
海が笑いながら、りいなの隣に座り直す。
「りいなが“行きたい”って言ったら、もう行くしかないでしょ。選ばないって言ったくせに、旅は選ぶんだな?」
りいなが顔を伏せたまま、耳まで赤くなる。
「…だって、みんなと行くなら、選びたいって思ったんだもん。」
その言葉に、海がふっと笑って、りいなの頭を優しくポンポンする。
「そーゆーとこ、好きだよ。照れながらちゃんと言うとこ。」
りいながびくっとして、顔を上げる。目が合って、すぐそらす。
「…なにそれ、ずるい。」
海はいたずらっぽく笑う。
「ずるいのは、りいなの“行きたいかも”でしょ。あれ、反則だよ。」
すずが机をポンと叩く。
「はいはい、青春爆発してるとこ悪いけど、旅の話、進めますよ~!静岡旅行、4人で行こう!浴衣で卓球して、露天風呂入って、甘くて照れくさい空気、ぜんぶ詰め込もう!」
はるきが微笑みながら言う。
「…“選ばない”って言ってたのに、“みんなと行く”っていう選択は、ちゃんとりいならしい。」
りいなが笑う。その笑顔に、3人もつられて笑う。
「“選ばない”って言ったわたしが、“みんなと行く”って選んだ旅。それって、すごく幸せなことだと思う。」
──
土曜日。4人は静岡旅行のために、駅前のショッピングモールへ。
旅館で着る服、移動中の服、写真映えする服――それぞれが“選ばない”はずだったのに、ちゃんと“選びたくなる”気持ちを抱えていた。
すずがりいなを引っ張る。
「りいな~、こっちこっち!このワンピ、絶対似合うって!」
りいなが戸惑いながらワンピースを手に取る。
「えっ、これ…ちょっと甘すぎない?レースとか、照れるし…」
海が後ろからひょこっと顔を出す。
「でも、りいなが着たら、甘すぎないと思う。ちょうどいい“照れ”になる。」
りいながワンピースを抱えたまま、固まる。
「…海って、そういうこと言うの、ずるい。」
海は笑いながら肩をすくめる。
「ずるいって言われるの、慣れてきたかも。」
すずがニヤニヤしながら、はるきに耳打ちする。
「ねえ、あの2人、絶対なんかあるよね。ポンポン事件から、距離感おかしいもん。」
はるきは静かに言う。
「…でも、りいなの“照れ”って、ちゃんと伝わってる気がする。海にも。」
試着室から出てきたりいな。レースのワンピース。すずが拍手する。
「わ~~!かわいい!りいな、旅館のロビーで写真撮ろうね、これ着て!」
りいなが照れながら言う。
「…うん。でも、海には見せない。」
海がすぐに反応する。
「え、それ逆に見たいんだけど。」
りいなが顔を真っ赤にして、すずの後ろに隠れる。
「“見たい”って言われるの、こんなにドキドキするなんて、ずるいよ。」
──
帰り道、4人はコンビニに寄った。
すずがアイスを選びながら叫ぶ。
「旅の前ってさ、なんか“準備してる感”あるよね!このアイスも、旅の一部ってことで!」
海がりいなの隣で、ジュースを手に取る。
「りいなは?なんか欲しいのある?」
りいなが棚の前で立ち止まる。
「…うーん、なんか“旅っぽい”お菓子とか…」
海がふっと笑う。
「じゃあ、これ。静岡っぽくないけど、旅の前に食べるってことで。」
差し出されたのは、抹茶味のクッキー。
りいなが受け取りながら、そっと言う。
「…ありがとう。こういうの、ちょっと嬉しい。」
すずがすかさず実況。
「はいはい、青春ポイント加算入りました~!“ちょっと嬉しい”発言、いただきました~!」
はるきが静かに言う。
「…旅の前って、空気が柔らかくなるよね。みんな、ちょっとだけ優しくなる。」
りいなが笑う。
「…うん。なんか、照れくさいけど、好きかも。こういう時間。」
──
その夜、すずがグループLINEに「旅のしおり作る!」と宣言した。
「持ち物リスト、スケジュール、罰ゲーム案、ぜんぶ詰め込むからね!」
りいなが「罰ゲームって何?」と送ると、すずが即返信。
「“好きな人に告白風セリフ”か、“照れくさいポエム朗読”のどっちか!」
海が「りいな、どっちがいい?」と送ってきて、りいながスマホを抱えて悶絶する。
「…どっちも無理。照れ死ぬ。」
はるきが「じゃあ、照れ死ぬ覚悟で旅に来てください」と冷静にまとめる。
すずが「照れ死ぬ=青春の完成形」とスタンプを連打する。
りいながスマホを見つめながら、そっとつぶやく。
「“選ばない”って言ってたのに、“照れくさい”って思う時間を、選びたくなってる。…なんでだろ。」
──
出発前夜。りいなは自分の部屋で、荷物を詰めながら考えていた。
ワンピース、浴衣のインナー、抹茶クッキー、スマホの充電器。
そして、海に見せるか迷ってる、あのレースのワンピース。
りいなはそっとそれを畳みながら、心の中で問いかける。 「…見せたら、なんて言うかな。やっぱり、“見たい”って言うのかな。」
スマホの画面には、すずが作った旅のしおりのPDF。 「照れくさいポエム朗読」の欄に、りいなの名前が仮で書かれている。 「すず、ほんと容赦ない…」と苦笑しながらも、どこか嬉しい。
窓の外では、静かな夜風がカーテンを揺らしている。 りいなはベッドに腰掛けて、スマホを手に取る。 グループLINEに、ぽつりとメッセージを打ち込む。
「…“照れくさい”って、ちょっと好きになってきたかも。」
すぐに、すずからスタンプが飛んでくる。 「それそれ!青春の入り口、開いたね~!」
海からは、「じゃあ、旅で“照れくさい”をいっぱい集めよう」とメッセージ。 はるきは、「照れくさい=大事な気持ちってことだよ」と静かに送ってくる。
りいなはスマホを胸に抱えて、ふわっと笑う。 「“選ばない”って言ってたのに、こんなに“選びたい”気持ちがあるなんて。 …みんなといると、照れくさいも、幸せになるんだね。」
── そして、静岡旅行当日。 4人は駅のホームで集合した。浴衣の袋、カメラ、旅のしおり。 それぞれが“照れくさい”を詰め込んだカバンを持って。
すずが叫ぶ。 「青春、出発進行~~~!!」
りいなは、レースのワンピースをそっと抱えながら、心の中でつぶやいた。 「“照れくさい”って、こんなに愛しいんだ。」
── 静岡の空は、少しだけ、りいなの気持ちに似ていた。 甘くて、照れてて、でも、ちゃんと晴れていた。
そして、海に見せるか迷ってる、あのレースのワンピース。 りいなはそっとそれを畳みながら、カバンの隅にしまった。 「…見せるって、なんか、覚悟いるな。」
スマホの通知が鳴る。すずからのグループLINE。 「明日、駅前で集合ね!旅の前日、最終確認会!持ち物チェックと、罰ゲーム練習もあるよ~!」
りいなが「罰ゲーム練習って何…?」と送ると、すずが即返信。 「“好きな人に告白風セリフ”の練習だよ!りいなは“照れ死ぬ”って言ってたから、予習しとこ!」
海が「じゃあ、俺が相手役やる?」と送ってきて、りいながスマホを抱えてベッドに倒れ込む。 「…ずるい。そういうの、ずるい。」
でも、心の奥では、少しだけ期待してる自分がいる。 “選ばない”って言ってたのに、“選びたい”って思ってる。 “見せたくない”って言ってたのに、“見てほしい”って思ってる。
──
翌日。駅前のカフェ。 4人は旅の最終確認をしていた。 すずがしおりを広げながら叫ぶ。 「持ち物チェックいきまーす!浴衣、OK!カメラ、OK!照れくさい心、OK?」
りいなが小さく手を挙げる。 「…照れくさい心、ちょっと多めに入ってるかも。」
海が笑いながら言う。 「それ、旅の必需品だね。」
はるきが静かに言う。 「りいなの“照れ”って、ちゃんと伝わるから、いいと思う。」
すずがニヤニヤしながら、りいなに耳打ちする。 「ねえ、明日の朝、駅でワンピース着てきてよ。海、絶対反応するから。」
りいなが顔を真っ赤にして、カフェのテーブルに突っ伏す。 「…それ、照れ死ぬやつ。」
海がジュースを飲みながら、ぽつりと言う。 「照れ死ぬくらいが、青春でしょ。」
──
帰り道、りいなはひとりで駅のホームに立っていた。 電車の風が、制服の裾を揺らす。 スマホを取り出して、グループLINEを開く。 すずが「明日、いよいよ出発だね!」と送っている。
りいなは、そっと返信を打つ。 「“選ばない”って言ってたのに、“照れくさい”って思う時間を、選びたくなってる。 …それって、たぶん、みんなといるからだと思う。」
送信ボタンを押して、スマホを胸に抱える。 明日の朝、レースのワンピースを着るかどうか、まだ迷ってる。 でも、カバンの中には、ちゃんと入れてある。
── 静岡旅行、出発前夜。 りいなの部屋には、少しだけ甘くて、少しだけ照れくさい空気が流れていた。 青春は、もう始まっていた。