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## 第1話:荒野の残光
かつて世界を焼き尽くした大戦の傷跡は、数十年が経過してもなお、この赤い大地に深く刻まれていた。
北の果て、切り立った岩壁に守られるように存在する「リメイン・ビレッジ」。そこは戦争の荒波を生き延びた人々が身を寄せ合う、静かな、だが逞しい村である。
地平線の彼方から、砂煙を上げて一台の四輪バギーが駆けてきた。車体は至る所が錆び、継ぎ接ぎだらけのボロボロな代物だが、そのエンジン音だけは驚くほど鋭く、手入れが行き届いている。
「おいおい、今日もお宝は不作かよ。期待外れだな」
バギーを操る少年、**ゼロ・ドラート**(17歳)は、生意気そうに口角を上げると、助手席に積んだ歪んだ金属パーツを軽く叩いた。
彼はこの村で「ジャンク屋のゼロ」として知られている。両親を戦争で亡くし、偏屈な祖父に育てられた彼は、物心ついた時から祖父にモビルスーツ(MS)の構造から電子回路の癖まで叩き込まれてきた。村で唯一、複雑な機械を「診断」できる貴重な存在だ。
「よお、ゼロ! またガラクタを拾ってきたのか?」
村のゲートを通る際、見張りの男が声をかける。
「ガラクタとは失礼だな。これは旧連邦製MSの脚部シリンダーだ。磨けば村の揚水ポンプの予備に使える。あんたの腰痛よりは役に立つぜ」
「相変わらず口の減らないガキだ。だが助かる、後で見てやってくれ」
ゼロは軽く手を振って村の中心部へとバギーを走らせた。
村の広場では、人々が肩を寄せ合って配給を待ち、子供たちが瓦礫の間を走り回っている。ゼロは拾ったパーツを馴染みの商人に売り捌くと、その足で村の長老や農夫たちの愚痴を聞いて回る。
「ゼロ、このジェネレーターの調子が悪くてね……」
「おばさん、これ燃料の混合比がメチャクチャだよ。祖父さんの受け売りだけど、機械は正直なんだ。嘘をつくのは人間だけさ。ほら、これで直った」
生意気な物言いに顔をしかめる者もいるが、彼の手によって明かりが灯り、水が流れる。村の者にとって、ゼロは鼻持ちならないが、なくてはならない「希望の修理屋」だった。
平穏な昼下がり。その静寂を破ったのは、見張り台からの悲鳴に近い叫びだった。
「――MSだ! 未確認機がこちらへ向かってくる! 識別……紋章なし、野盗か!?」
村が瞬時に凍りつく。荒野において、MSは絶対的な暴力の象徴だ。
村の若者たちが古い対空銃座やロケットランチャーを引っ張り出し、必死に応戦を開始する。ドォォォンという重苦しい爆発音が響き、村の入り口に土煙が舞った。
「馬鹿か、あんな旧式のロケットじゃ、現行機のラミネート装甲は抜けない……!」
ゼロはバギーに飛び乗り、村の防壁へと急いだ。
視界の先に現れたのは、ダークブルーに塗装された無骨な機体。旧大戦の遺物、**ジェニス改**だ。右腕のマシンガンを乱射し、村の建物を容赦なく砕いていく。
「やめろ! 逃げるんだ!」
ゼロの叫びも虚しく、村の防衛隊は一方的に蹴散らされていく。銃座が踏み潰され、人々が逃げ惑う。MSのパイロットは楽しんでいるのか、わざと建物をなぎ倒しながら広場へと迫る。
「……クソッ、どいつもこいつも機械の使い方がなってねえ」
ゼロの瞳に、激しい怒りの火が灯った。
彼はバギーを全速力で走らせ、MSの足元へと肉薄する。巨大な鋼鉄の足が地響きを立てて迫るが、ゼロはハンドルを切り、建物の影を縫うようにして機体の「死角」へと潜り込んだ。
「祖父さんが言ってたぜ……『重力下でのMSには、必ず重心の迷いが出る』ってな」
ゼロはバギーの荷台から、ジャンク屋の商売道具である「高圧ワイヤー射出機」を掴み取った。本来は瓦礫を牽引するためのものだが、その先端にはゼロが独自に改造した強力な電磁吸着ヘッドが取り付けられている。
MSが次の獲物を探して旋回しようとした瞬間、ゼロは引き金を引いた。
シュルシュルと音を立てて伸びたワイヤーが、ジェニス改の右膝裏――関節のシーリングが露出した「隙間」に食い込む。
「掛かった!」
ゼロはバギーを反転させ、ワイヤーの端を付近の頑丈な地下貯水槽の鉄柱に固定した。
何も知らないMSが大きく一歩踏み出した瞬間、強靭なワイヤーが限界まで張り詰め、右膝の駆動モーターを強引に引きちぎる。
「ガアァァァッ!」
バランスを崩した巨大な鉄の塊が、砂煙を上げて地面に激突した。
パイロットがパニックに陥り、マシンガンをデタラメに乱射する。ゼロはその隙を見逃さず、バギーから飛び降りると、MSの背面に駆け上がった。
「そこだ!」
腰のホルスターから抜いたのは、信号弾ではなく、祖父が遺した「高周波振動ナイフ」。
ゼロは緊急用ハッチの隙間に刃を突き立て、回路を短絡(ショート)させた。バチバチと火花が散り、コクピットの電子ロックが強制解除される。
蓋が跳ね上がり、現れたパイロットが銃を向けようとするが、ゼロの動きの方が速かった。彼はパイロットの腕を掴んで引きずり出すと、地面へと放り投げた。
「機械が泣いてるぜ。お前みたいな三流に乗り回されてな」
沈黙するMS。村の人々が呆然と見守る中、17歳の少年は息を切らしながら、倒れた鋼鉄の巨体を見下ろしていた。
危機は去った。しかし、この一件が「力」を求める者たちの耳に届くのは時間の問題だった。
ゼロは、村の遥か遠く、古びた地下施設の方向に視線を向けた。そこには、まだ誰も知らない「白き暴君」が眠っている。
運命の歯車が、音を立てて回り始めた。
**次回予告**
敵の増援に包囲された村。絶体絶命のゼロが逃げ込んだのは、地図にない地下廃墟だった。
そこで彼を待っていたのは、月を背負う翼を持つガンダム。
次回、『遺された残光:目覚めるプロトタイプ』
**「Can you hear me?……いや、あんたの声は、俺にだけは聞こえるぜ」**
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