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聖次
109
麗太
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「ミア……お前にはセシルとして、クロフォード国に嫁ぐことを命じる」
雇い主からそう言われたときは全く理解ができなかった。“セシル”というのは物心つく頃から言われている名前。王女と同じ――。
この国の最高地位に君臨している王女の身代わりとして育てられた私には、もう一つ秘密にしていることがあった。
――私には前世の記憶がある。
それも、ちょうど今嫁ぐようにと言われた国の女王として生きた記憶だ。花よ蝶よと育てられた私だったが、上に立つものとしての勉強はきちんとしていた。そのため、若くして才能を開花させ、女王として国のトップに君臨していたのだ。
「――様、この件はどうしましょうか?」
「――様、地方を統治している貴族から報告が届いております」
すべての責任がのしかかるこの地位はとても忙しかった。そのため、致命的な問題が発覚したときにはすべて手遅れになっていたのだ。
執務が忙しくて外に出ることがなかった私に国内の変化を見つけることは難しかった。必要な公務以外では貴族たちとも会わない。
それに、気軽に許して懐に入れてしまったら、王としての威厳がなくなってしまう。そう思って周囲とは一定の距離を保っていた。
それが、問題発見が遅れる原因の一つになったのかもしれない。
とある貴族からの重要な申請書類が何者かによって隠されていた。そのことに気が付いたのは問題が大きくなった後――。
裏切られたと思った貴族、その地域に住む国民、またそれを知り薄情な国王だと思った貴族たち……噂が人を集め、いつの間にか女王には“国民を見殺しにする残酷な女王”と呼ばれるようになっていた。
私が、そのことに気づいたのは公務で久しぶりに人前に出たとき。人一倍周りの目を気にしている私だから気づけた変化かもしれない。
媚びを売ってくる人もいたが、一部の人たちから鋭い視線を感じた。
「……?」
それは一瞬だけだったので気のせいかとも思ったのだけれど、どうも引っ掛かって仕方がない。
なにも情報が入ってこないまま、時間だけが過ぎていった。そして――。
「大変です! 城の前に民衆が集まっています」
息を切らした衛兵が知らせに来た直後、進入してきた貴族たちに取り押さえられた。
「何をする!」
地面に押さえつけられて動けなくなった私は、周りで見降ろしてくる男を睨みつけた。
「私にこんなことをしてただで済むと……」
「我々も限界なのです!」
限界とは何のことだ? そう思ったのも当然だ。
問題になりそうなこと、訴えなどは今までも誰かに任せるのではなく、私が直接解決してきた。だからこそ、最近は国民を巻き込んでの大事になるようなことを見逃したとは思えなかったのだ。
コツっと靴が視界の目の前に来たと思った次の瞬間、私の髪をわしづかみにして引っ張った男がいた。
「あんなに訴えを出したのに無視したのはあなたですよ」
「は……?」
この男は何を言っている? そんな訴えなど来ていない。それに、情報はこの男から流れてくることになっている。なぜ、この男が知っていて私が知らない……?
「まさかっ……」
男は私の耳元に近づいて、ほかの人には聞こえないくらい小さい声で言った。
「あの方のためにも、さっさといなくなってください」
あの方……って? 一体だれ……?
唖然とする私を、男は乱暴に引っ張り衛兵に差し出した。
「牢に入れておけ」
「ですが……」
「この女は罪人だ。貴様も味方になったとして罪にはなりたくないだろう?」
「はっ!」
なぜこんな裏切りがあったのか……。私は牢の冷たい床に座りながら考えていた。
何が目的で、誰が始まりだったのか……。
それがわかったのはそう遅くないときだった。
「出なさい」
捕まってから数日後、ろくなご飯ももらえず、見張りの兵やかわるがわるやってくる貴族の暴力から耐えた後に私に与えられた言葉だった。
もちろん、身体はしっかり鎖でつながれている。心も体もボロボロの私は、逃げる気力もないまま素直に引っ張られていった。
そして連れていかれた先は、町の中心にある広場。なぜかその広場までの道のりでは、人があふれかえていて、私のことを蔑むような視線で睨んでくる。
どうしてこんなに注目されているのか、なぜ人が集まっているのか……そんなことは考えなくてもわかった。
――これは私を裁くためのものだ。
広場に着いたとき、私は突き飛ばされるように真ん中に転ばされた。
「っ……」
痛いなんて言葉も出ない。
うずくまっている私に近づいてきたのは、あの裏切った男――ではなく、敵国であるアルヴェ―ヌ国の女王陛下“ヴィオレッタ”だった。
「あら、無様ね」
「な、ん、で……」
以前から、国間の問題であまり折り合いが良くなかった人物だ。取引を持ち掛けられたが、いろいろと問題がある話も聞いたので成立せずに流れたこともある。
そして彼女は、そんな私のことが大嫌いだということも知っていた。
まさか、この前言っていたあの方……というのはヴィオレッタのこと?
この騒動の黒幕は彼女だったの――?
そもそも、なぜここで堂々と立っているの? 本来ならそこは私の立ち位置だ。
身体を起き上がらせようとした私に気づいたヴィオレッタは鎖を引っ張り、再び転ばせたうえで私の背中を踏みつけてきた。
「うっ……」
「なに勝手に立とうとしているの? 今からあなたの罪を明らかにするのよ?」
ヴィオレッタはそう言って民衆を味方につけた。
「まずは、皆さんの声を聞いてもらいましょうか?」
ヴィオレッタがそう言って少し下がった瞬間、私の額に固いものがぶつかってきた。
「いっ……」
――自分だけいい暮らしをしようなんて!
――王のくせに国民はどうなってもいいと言うのか!
――さっさと死んじまえ!
その言葉とともに、私の身体にはあらゆるものがぶつかってくる。石、腐った卵……。
罵倒が落ち着いたころには私に立ち上がる気力はなくなっていた。
「ふふふ……あなた、相当怒りを買っているのね」
ヴィオレッタは不敵に笑った後、声を張り上げて言った。
「罪状を読み上げる!」
ヴィオレッタの声で民衆はワァーっと盛り上がった。そしてヴィオレッタの判決を今か今かと待ち望んでいる。
長々と読み上げられる罪状を耳に入れながら、良くもそんなに罪を作ったものだと感心してしまう。それも、その罪の中には以前私が調べたときに見つけたヴィオレッタの罪もあった。
――私にすべてをかぶせて、自分はすべてを手に入れようというのね……。
「~、よって、女王は――は死刑とする!」
ヴィオレッタは自ら処刑用の剣を手に取り、私の前に立った。
「今から殺される気分はどう?」
「よくも……」
私の頭をわしづかみにするようにして、ヴィオレッタは顔を近づけてきた。
「いい気味……あなたにはその姿がお似合いよ」
そして、そのまま私に満面の笑みを向けながらこう言った。
「罪をかぶってくれてありがとう」
私が反論する前に、ヴィオレッタはつかんでいた私の頭を地面に投げつけるようにして離した。
頭に来た衝撃で、ぼやける視界の中私の瞳に映った最後の光景は、ヴィオレッタが嬉しそうに笑いながら大剣を振り上げているところだった。
いくらほしいものが手に入らなかったからと言って、ここまでするなんて。私が大切にしてきた国を壊してまで手に入れたかったものなの?
今までの私の頑張りはヴィオレッタのせいですべて無駄になった……。
私だけならまだしも、国民を巻き込むなんて、女王失格だ。
それに、こんな仕打ち――絶対に許さない……。
心臓に一突き。うめき声をあげる暇もないまま、私の女王人生は終わりを迎えた。
コメント
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うわぁ、第1話からめっちゃ重くて切ない展開すぎる…!😭 前世の女王としての記憶を持ったまま、身代わりとして育てられたミアが、ヴィオレッタの策略で濡れ衣を着せられて処刑されるなんて、辛すぎるよ…。でも「絶対に許さない」って最後の意志がすごく強くて、これからの復讐とか転生とかをめっちゃ期待しちゃう!🔥 続きが気になりすぎてヤバい…!✨