テラーノベル
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私には幼いころの記憶がない。覚えているのはミラという名前だけ。しかし、物心つく頃には雇い主に拾われ、本当の名前を隠し王女“セシル” の身代わりとして、壮絶な訓練を受けさせられていた。わざと毒を服用して毒が効かない身体にしたり――、護身術と称してあらゆる戦い方を身に着けたり――。おかげで私は、自分の身を守る力はついていた。
もちろん、本物のセシルはこのことを知らない。周囲からも甘やかされて蝶よ花よと育てられている。だからこそ、陰で何度も殺されそうになっていることなんて一切知らない。
知っているのは、影武者として狙われている私と、狙われるように指示してくる雇い主だけ。
そして今も――。
私の背後でドサッと崩れ落ちる音がした。
「はぁ……」
毒で痙攣しながらも、私のことを睨みつけてくる。この毒は動けなくなるだけで、殺しはしない。捕まえて雇い主に引き渡す。でもその前に……。
「あなたの雇い主はだれ?」
「……」
どうしたら口を割ってくれるだろうか。最近の刺客はすべて――。
「アルヴェ―ヌ国のヴィオレッタ?」
私がその名前を口にしただけで、目の前の男はピクリと瞼を動かす。一流ならこんなことで表情を変えないだろうけれど、おかげで黒幕が分かった。
「そう……」
私は生まれ変わっても彼女に狙われる運命なのね……。
過去の私を殺した人物――。
罪を擦り付けてきた本人――。
ヴィオレッタは女王として周りを乗せるのはうまいけれど、国のトップに立つには少し問題がある人だ。彼女が欲しいと願ったら、何をしても許されると思っている。その罪は別の人が償うから……。
過去の私が死んだあと、彼女は国を自分のものにした。その後の噂は今の私も聞いたけれど、ひどいものだった。
贅沢をするために、税金を上げたとか……。特産品を輸出せずに独占しているとか、国外に出すには大金が必要だったりとか……。
それはもうやりたい放題だ。
そして彼女が今目をつけているのは、私がいるこのウォーカー国。
決して大きな国ではないけれど、潤ってはいる。隣接するこの国が欲しいと思ったのだろう。そして、今の彼女にとって邪魔になるのが、セシルだ。
身代わりとしてしか生きていない私に味方はいない。暗殺されそうになるのも、それが役目なのだから当然と思われていて誰も助けてくれない。
いいようにしか使われない、まるでロボットみたいだ。
「はぁ……どこか遠くに行きたい」
すべてを捨てて、普通に過ごしたい。でもそれがかなわないことはわかっている。
この体になって、王女の身代わりとして生きてきて何度か逃げ出そうとした。だけど、そのたびに捕まって連れ戻される。そして、壮絶なお仕置きが待っている。
それを考えたら、つらい訓練を受けたほうがマシだと思うようになった。
せっかく転生したのに、こんな生活なら、前世で殺されたときとどっちがマシな人生なのかわからない。
きっと私は、この時代に生きる限り、ヴィオレッタに狙われる運命なんだろう……。
それが、今の私の身体でなくても――。
「おい」
考え事をしていたら、雇い主の従者に呼ばれた。この人は一度も私の名前を呼んだことはない。いつも、おい、お前、と呼んでくる。
私は、何も考えない人形のように感情を殺して返事をする。
「はい」
「お前のボスが呼んでる」
「わかりました」
今度は一体どんな仕事だろう……。
王女の代わりに視察に行って暗殺者を釣ってこいとかかな。
きっといつも通り狙われる危険な仕事なのだろう。そう思いながら話を聞きに行った。
「失礼します」
「ミア、お前に仕事だ」
「はい」
この人にとって私は何でもない存在なのだろう。背中を向けたまま、私に話してくるのだから。でも、私を拾ったのも育てたのもこの人だ。
だから油断していたのかもしれない。危険な仕事はあっても、すべて私が生きて帰れるようなものだったから……。
「ミア……お前にセシルとして、隣国であるクロフォード国に嫁ぐことを命じる」
雇い主が何を言っているのか理解ができない。
隣国はあの国……前世の私が殺されたその国。その国に――今何と言った?
さすがにこの命令をはい、わかりましたと納得することはできなかった。言われたことはわかっていても、頭が追い付かない。
「いま、なんて……?」
「聞こえなかったのか? 隣国に王女の身代わりとして嫁げと言ったんだ」
やはり聞き間違えではなかった。
ヴィオレッタの統治する国に嫁ぐ……。
聞けば、戦争にならないために国王が提案した措置だったらしい。取引をすること、そして王女が嫁ぐこと……いわゆる人質を条件に出したらしい。
それでヴィオレッタが納得するとは思えないけれど、一応は決まった条件だ。
そして、それを提案した国王は、可愛い自分の娘を人質にするのは嫌だった――だから私に身代わりをするように命令が来たのだろう。
「出発は3日後だ」
私に拒否権はない。これは決定事項だから頷くしかない。
本当に逃げ出してしまい。でもここでそんなことをしたら、役立たずとして殺されること間違いなしだ。
また殺されるなんて、そんなことは嫌だ。
私はもう神様に見放されているのだろう。
生まれ変わっても私に幸せは訪れない。そんな運命だったんだ――。
「わかりました」
私は、内心を押し殺して淡々と答えて部屋を出る。
夫になる人がどんな人なのかはわからないけれど、たぶん問題のある人なのだろう。人質の私を押し付けられるくらいの人なのだから、きっとろくな人間じゃない。
きっと私はもうまともな生活は送れないだろう。
これからは習った護身術など出さないようにしないといけないし……。私はおしとやかな何も知らない王女になるのだから……。
――3日後。
馬車と身なりだけは立派なものを用意されたけれど、それ以外の荷物はない。そんな私が、身一つで二度と行くことはないと思っていたクロフォード国に足を踏み入れた。
コメント
1件
うわ、第2話……めっちゃ重い展開きたな。ミア、前世でもヴィオレッタに♡♡♡れて、転生してもまた同じ女に狙われ続けるって、それだけで心折れるわ……。しかも「身代わりで隣国に嫁げ」って、逃げ場ゼロじゃん。雇い主が背中向けて話すシーンとか、「おい」「お前」呼ばわりされる描写で、彼女がどれだけ道具扱いされてるかビシバシ伝わってきた。護身術を隠して“おしとやかな王女”演じなきゃいけないのも辛いな。次、どうなるんだろう……😢
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聖次
109
麗太
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