テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
・最終決戦後
・さねぎゆ
・微義炭ぽいですがただの兄弟弟子です。わかりづらくてすみません🙇🏻♀️
長い間、夢を見ていた気がする。
寒い朝、雪が降っていた。
誰かの声がする。俺の、大切な人の声が。
「ほら、ちゃんと守れた」
「……蔦子姉さん」
「義勇なら大丈夫だって、信じてたよ」
その声は優しくて、懐かしくて、胸が苦しくなるほどだった。
「今度はお前が幸せになる番だ。義勇」
「よく頑張ったなぁ」
「………錆兎」
あたたかい。
このぬくもりを、できることなら離したくなかった。
「……行かないでくれ…」
思わずこぼれた言葉に、2人は柔らかく微笑んだ。
「こっちでのーんびり待ってるからねぇ」
「行ってこい、義勇!」
最後に、錆兎は俺の肩をぽんと叩いた。
次に目を開けると、白い天井がにじんでいた。
ここはどこだろう。
俺は…何をしていたのだろうか。
窓からは、眩しいほどの朝日が差し込んでいる。
「……やっと起きたかァ」
動かない視界の端に、白髪の男が座っていた。無造作な姿勢で、でもどこか落ち着かないように見える。
不死川。
そう呼ぼうとしたが、声は出なかった。
「あァ、無理すんな。ずっと昏睡状態だったんだからよ」
…昏睡状態。
あの戦いの後、俺はどのくらい眠っていたのだろうか。
「俺なんて、無惨を倒したところで気ぃ失っちまったしよォ」
「………」
「お前はすげェやつだ。最後まで戦い抜いた、唯一の柱だ」
そう言って不死川は笑った。俺に初めて見せる、穏やかな笑顔だった。
動かない喉の代わりに、ゆっくり視線を向ける。何も言えなくとも、それだけで伝わる気がした。
「……なんだよそんな顔してェ」
不死川はそっと椅子から立ち上がって、俺の枕元に手を置いた。
「はぁ… 。お前がやっと目ぇ覚まして……ホッとしたら、気ぃ抜けたわ」
その声色はかすかに揺れていた。
あぁ、俺は生きている。 繋いでもらった命は、まだその火を絶やさずに燃えている。
「…ぁ、りが…とう…しなずがわ……」
ひどく掠れた声が、なんとか言葉として形になった。
不死川は一瞬目を見開いて、それからふいっと顔を背けた。
「馬鹿がァ、無理すんなって言ったろ……」
そう言うものの、その横顔は確かに、嬉しそうに笑っていた。
次に目を覚ましたのは、それから3日後のことだった。
病室には、鱗滝さんと宇隨がいた。
「目を覚ましたか、義勇」
先生の声は、いつも通り落ち着いていた。けれど、面の奥にある眼差しは、かすかに揺れている。
「ようやく起きたって、不死川から聞いてよぉ。流石は元水柱様、派手に回復が早いな」
「………たんじろうは、」
自分でも驚くほど、小さな声が出た。先生は、少し顔を伏せて答えた。
「まだ、目を覚ましていない。だが命に別状はないようだ」
それだけで、救われたと思った。
俺はやっと、大切な人を守りきれたのだ。
「竈門より先に、自分の心配をしろよなぁ。お前も派手にやられてんだからよ」
「お前は1ヶ月以上眠っていた。身体はまだ思うように動かないだろうが、焦るな 」
先生の言葉に、俺は小さく頷く。
「不死川も、お前が眠っている間、何度かここへ来ていたようだ。まだ本調子でないのに、無理を押してな」
「意外と優しいんだよなアイツ。俺には派手に噛みついてきたのによぉ」
宇隨が苦笑しながら言うのを聞いて、目の奥が熱くなるのを感じた。
目を覚ましてから数日が経った。
身体はまだ重いが、なんとか起き上がれるくらいには回復してきた。
ある夜、窓の外から聞こえる雨音を聞いていた時だった。
何かが、焼け付くように痛んだ。
右肩の奥。もう、失ったはずの右腕が。
「……あぁ…、はぁ……ッ」
息が詰まるほどの鈍痛が、波のように押し寄せる。喉はひりつくほど乾いて、身体は震えが止まらない。
その時、病室の扉が勢いよく開いた。
「冨岡……ッ!?」
「おい、大丈夫か!!なにがあった!? 」
不死川はベッドに駆け寄り、俺を抱き起こして背中をさすった。
「右腕……まさか幻肢痛か、!?」
俺は浅い呼吸を繰り返すしかできなかった。
それだけで、彼は察したらしい。
「医者、すぐ呼んでくる。もう少しだけーー」
呼吸は乱れている。 でも、震える左手が、不死川の羽織の裾をかすかに掴んだ。
「……いて、くれ」
不死川は振り返って、一瞬目を見開いた。
でもすぐに、その手を握り返してくれた。
「わかった。呼ばねェ。ここにいるから、ゆっくり、落ち着いて息吐け、義勇。」
その手のぬくもりのおかげか、痛みは徐々に引いていった。深呼吸を繰り返す俺を、不死川はどこか不安そうに見ていた。
「…もう、平気だ。ありがとう実弥」
「本当か?もう辛くねェか?」
「あぁ…おかげで助かった」
「ちょうど通りかかった時に、お前の荒い息が聞こえたからよォ……よかった義勇…」
実弥だって本当は、まだ安静にしていなければならないはずだ。それなのに、こんなにも俺を心配している。
「実弥も、無理するな……」
「このくらい大丈夫だァ。さっきも栗花落に診てもらった帰りだったし」
「……ありがとう、実弥」
そう言った瞬間、意識がふわりと揺れた。
まぶたが重くなって、もう目を開けていられなかった。
「……ん…」
鳥のさえずりで目が覚めた。陽が昇っていて、静かな朝だった。
いや、近くに小さく、穏やかな寝息が聞こえる。
視線をずらすと、俺の枕元に突っ伏すようにして実弥が眠っていた。
いつの間に。実弥も、ベッドで安静に眠った方が良かったのだろうが、幸せそうな、美しい寝顔に少し見とれていた。
「……実弥」
そっと名前を呼ぶと、実弥のまぶたがぴくりと動いた。
「……あぁ、義勇。起こしちまったか」
「いや、寝ててくれて良かった」
「…なんだ、珍しく素直じゃねェか」
「お前が先に言ったんだ。昨日、ここにいてくれる、と」
「ははっ、そうだったなァ」
こうやって笑い合えるなんて。実弥を前にすると、心が波打つようになるなんて、少し前の俺では考えられなかった。
その時、ふいに病室の扉が開いた。
「おーい、冨岡。見舞いに来たぞ〜……って」
宇隨の声がぴたりと止まって、次の瞬間、ひときわ派手な笑い声が響いた。
「なんだぁお前ら、今日は地味に仲良しさんだなぁ?」
「ったく…うるせェ宇隨。病室だぞォ」
こうやって笑い合える日々が訪れるなんて、あの頃は思いもしなかった。
幸せだな。
少しずつ、日常が戻ってくる。これからの穏やかな毎日を、俺たちは繋いでいくんだ。
「そうそう、竈門のやつな。やっと目ぇ覚ましたってよ」
「それは本当か宇隨…!!」
「げっ。冨岡お前、そんな風に笑えるんだな」
「俺はいつ見舞いに行けるだろうか…!?」
コメント
2件
不死川と冨岡さんめっちゃ尊いです🤦♀️💞💞