運良くとれたビジホは割とオシャレで申し分なかった。
「綺麗ですね…!」
ベッドに荷物だけ置いて、財布とスマホを抜きとりポケットにしまった。
遅れて部屋へ入ったるなさんがドア付近であたりを見回してる。
綺麗だがやはり必要最低限の物しか置いてなく、広さもないので二人だと狭い。
にしても
ホテルの周りに店が何にもなかった。
そもそもホテルが閑静な住宅街のなかにひっそりと佇んでおり、あるのはコンビニのみ。
だから必然的に
「周りに店もないし…ほんとにここでお話ししてもいいですか?」
「外で話すわけにいかないしね」
仕方ないよだって何にもないもん…
「…お菓子買いに行く?」
「行きます!」
お菓子の単語を聞き、るんるんしてるるなさんを尻目にため息。
こんな狭い部屋に男と二人っきりとか、あんま意味わかってないんだろうなぁ。
いや、だからって手も足もださねーよ。
酒だけは飲まんようにしよ、そう思いながらるなさんの後ろ姿を追いかけて行った。
「じゃがりこー」
「変わらず好きなの?」
「はい」
お誕生日にじゃがりこタワー作ってもらいました!とかユーフェスの楽屋でのお菓子合わせでも選んでいたるなさんの好物。
俺が知ってる数少ないるなさんの情報。あとは言わずもがな麦芽飲料。知ってるものがリスナーレベルである。
好きだと目で追いかけていただけで、るなさんについてはど天然ということ意外よくわかってなかった。
「シヴァさんはおさけ?辛いおかし?」
俺が酒が好きなことも、辛いものが好きなものも知っているんだな。るなさんに直接は話したことはないのに。
「今日は酒飲まないよ」
そうなんですか?きょとんとしてるるなさんに、飲んだら話どころじゃなく寝てしまうからと説明する。
すると、
寝ちゃったら、るな寂しくなるので飲んじゃダメです
なんてかわいい返事がかえってきた。
「---…」
「…シヴァさん?」
「いや、ごめんなんでもない…」
かわいすぎて天を仰ぐ。困る。
もう買うものはないかとるなさんに聞いたら、コクコクと首を縦に振った。財布を出そうとしたので断る。でもでも、とるなさんが言葉を続けようとした。
じゃあこれにコーヒー入れてきて、コンビニのカップを渡したら嬉しそうにコーヒーマシーンの前まで走っていった。
よしよしこれでお金から気が逸れたかな。
支払いのためにスマホを取り出し、ついでに時刻を確認した。23時くらいにはるなさんを家に帰してあげたい。
ならあと約2時間
お話って何喋ろ…さっきまで意識したなかったけど、俺あんまるなさんと喋ってない?
というかるなさんが気をつかってたくさん喋ってくれてる??俺それに答えてるだけじゃないか。
「うーん…」
「どうかしましたか?」
なみなみに注がれたコーヒーを、こぼさないように両手で支えていた。
たくさん話してくれるるなさんに、俺どんな話題をふればいいのだろう。
今にでもひっくり返しそうなコーヒーを早々に受け取る。何か持ちます!とせがむ彼女にお菓子しか入っていない袋を渡した。
部屋につき明かりをつけた。
るなさんが入り口で止まり、入ってくる気配がなかったのでおいでと声をかける。
お邪魔します。
ぺこっと小さくお辞儀して入ってきた。
「…シヴァさん、シェアハウスに住んでいなかったから、その、お部屋に入るのは緊張しちゃって」
「そうだったね、俺となおきりさんは住んでいなかったから」
シェアハウスも最初はじゃぱぱさん、のあさん、たっつんからはじまったと聞く。
その頃には想像もつかないほど、今では大所帯だ。
「あの、どこ座ったら…?」
「ベッドでいいよ、るなさんお菓子は」
「じゃがりこ…」
じゃがりこを手渡して自分の飲み物をとった。
酒飲まないならジンジャーエールにしてみる。コーラが目についたけれど、どうしても誰かさんの影がチラつく。
ベッドの隣に座るのはまだ気が引けるな。
向かいの椅子に座ろうとした時、るなさんがあ、あの!と俺に声をかけた。
「あの、ひとつ、お願いがあるんです…」
るなさんが神妙な面持ちでじゃがりこを握りしめた。声のトーンが落ちたので何事かと身構える。
「…お願いって?」
「あのっ!あのっ!いきなりですみませんなんですが、おなかぺたぺたしていいですか!?」
オナカペタペタ??
え、なん…おなかぺたぺたってなんだ。
俺の頭の上に疑問符が並んだ。
「お腹って、俺のお腹のこと?ぺたぺたってさわるってこと?」
「はいっ、はいっ!そうです。前にみんながシヴァさんのお腹ペタペタしてて…るなだけ、るなだけ触ってないんですっ」
るなさんはじゃがりこを両手で握りしめ、前屈みになり必死で俺にお願いをしている。
恥ずかしいのか、頼りない眉がさらに下がる。
え、で、ちょっとまってなんだっけ。
展開に追いつけてない。
「…いいけど俺の腹触って楽しい?」
「き、きんにくすごいってみんな言ってて!そのあの、お願いします!」
るなさんが早口で捲し立てるように懇願してきた。るなさん早く喋れるんだな、明後日な方向に思考が飛ぶ。
えっと、なんだ、だから…俺のお腹を触るってことよね?
「いいよ…えーっと、どうぞ?」
るなさんが両手でぺたり、服の上に手を置いてお腹を触ってきた。
触ったところがじんわりあったかくなる。
無駄な贅肉落としておいてよかった。
「わぁ、すごい、かたい…」
「ん”!?」
「??くすぐったかったですか!?すみません!」
セリフで思わず思考がナナメに飛んでいきそうになった。いかんいかん。
「おとこのひと、ですね」
「男ですよ、俺…」
感動しているのかなんなのか、ふぁーなんて声を出していた。
彼氏といえど男と二人きりの部屋でお腹触ってるなんて。不思議にもほどがある。
「あのう、また、もうひとつお願いが…今度は聞きたいことなんですけど」
「な、なに?」
また身構えてしまった。
るなさんの口から出てくる二番目のお願いってなんだろう。
「るなの、どこが、好きですが…?」
「へ?」
「シヴァさんは、その、どのあたりがるなのこといいなぁって思ってくれたんでしょうか」
お腹を触る手を止めて、るなさんは下を向いてしまった。
…これは、お腹ペタペタよりもすごいのきたぞ。
るなさんは俺のどこが好きなのか
あの何枚かの便箋に認めてくれた。
俺はまだ伝えていない。また、口の中が乾く感覚に陥った。どこって、そりゃ、その
うまく伝えるために唾を飲み込んだ。
「…ええと、るなさん引かないでくれる?」
「は、はい。」
極限の恥ずかしさが込み上げる。だけどここで言わないとダメだ。
「えっと、全部…」
「ぜんぶ?」
「その、顔とかはもちろん、なんだけど仕草とか変わる表情がすごく、好きで。」
るなさんが顔を上げたのが分かったが、今度は自分が視線を逸らしてしまった。顔が熱くなり、見られたくなくて片手で顔を覆った。
「きっかけはそこだ。そこから話し方とか、ちょっと抜けてるところとか。全部目で追っちゃって…」
口から出ていく言葉を、後から脳内でチェックする。変なこと言ってねぇよな。
「気づいた時にはすごく好きだった。抜けてて幼いとばかり思っていたのに、未来を据えてしっかり動き出して。…頑張ってたんだなって感心したんだ」
手を外しるなさんの瞳を見つめ返した。
ゆっくり、そしてしっかり真正面からるなさんの顔を見たのはこれが初めてだった。
かわいらしい顔立ち、幼さはなくなり大人の綺麗さが滲み出る。中身だってしっかりしててこちらとて尊敬するところもある。
何度も言うが本当に全てがいいこなんだよ。
「へんじが、遅れちゃったのは…なんでですか?」
「うぐっ」
痛いとこ突いてきた。正直に話す以外なにもない。
「告白してくれたるなさんがあまりにもかわいすぎて。…返事しそびれました。スミマセン…」
「はぇ…」
はっっっっっっず。
彼女の目を見る努力はしたが、耐えきれなくてまた逸らした。
「るなの告白の仕方がやだとか、お手紙書きすぎて引いちゃったとか、じゃないんですか?」
「違う!!そんなことない!有り得なさ過ぎて驚いたんだよ!」
「その、だから。るなさんのどこに惹かれたと言われたら…俺は全部としか答えられない」
静寂が二人を襲った。
あぁーーーだって仕方ないじゃん!!
全部好きなんだよ!!悪いかよ!!
タイプっどんな人って聞かれたらまんまるなさんなんだよ!!ソトもナカも全部だ!
「…シヴァさんて…るなのこと大好きってことなんですか、ね?」
「間違ってないデス…」
恥ずかしさは限界突破。どうにでもなればいいという意気込みでるなさんをもう一度みた。
まだお腹に華奢な手が置かれている。
少し汗ばんでいるようで、その手がきゅうっと自分のシャツを握った。
「…ぇえー!?うそぉー!!」
「いまぁ!?」
るなさんが信じられないみたいな顔をする。
いやいや、何テンポぐらい遅いんだよ!?
大阪に降り立ってから約四時間。
るなさんは俺の気持ちを理解してくれたようだ。
コメント
4件
うぁーーーーー!!!!!尊いの爆発だぁ!!!お互いに一つ一つの言動や仕草で照れるのもギャグ要素入れてくれるのもちゃんとキュンキュンできるのも最高です!!!マジで大好き!!!
告白大大会開催。