それからは毎夜ぐち逸がぺいんの部屋に来るので、リビングから直接2人でぺいんの部屋に行って寝るのが日常になった。しかし2週間程経ったある日、ぐち逸は仕事があるからと自室に籠ったきり明け方まで出てこなかった。
「まだ仕事?疲れて寝落ちしてるとか…?」
心配になったぺいんがノックしてみても反応が無い。声を掛けてドアを開けると布団がモゾモゾ動いていた。
「ぐち逸?起きてる?」
「ぁ、ぺいんさん。どうして?」
「ノックしたけど気付かなかった?勝手に入っちゃってごめん。今日全然こっち来ないからさ、1人で寝たい気分だったの?」
「……そうです。」
「疲れてるとこ悪かったね、顔だけ見たいな。」
「顔、はちょっと…」
「いや?お願い、ほんのちょっとだけ。」
頭まで被っている布団をそっと持ち上げると今にも泣き出しそうな、不安げなぐち逸と目が合った。
「えっなにどうした?なんかあった?」
「なんでもないです。」
「いやいやなんでもないようには見えないって。えーと…一緒に寝るのやだ?」
首を横に振ったのを見てならば失礼と隣に入った。手を握ると布団の中なのに驚く程冷たく硬かった。
「仕事の事?言えない事情も分かるけど慰めるぐらいはさせてほしいな。」
「いえ言えない訳では…やっぱり言えないです。」
「気になる言い方しないでよwほらぎゅってしよ。」
「今日は、その、遠慮しておきます。」
「そうなの?じゃあそっちの手も貸して。」
両手の指を絡めるといつもはぐち逸も握り返してくるのに弱々しく力が抜けている。反対に身体は強ばっているようだった。
「ぐち逸?もし言えるなら教えて。ちょっとだけでも力になれるかもしれない。」
「…ぁの……私はぺいんさんが好き、なんですけど。」
「えっん?うん俺もぐち逸好きだよ。大好き。」
「その…好きすぎてしまうと不味い、というか。」
「不味いの?俺は毎日好きが大きくなってってるんだけど。」
「ぺいんさんはしっかり分別がついてるんでしょう、でも私は依存してしまうようで。」
「依存?全然そんな事ないと思うけど。」
「いえその……1人だとまともに寝れなくなってしまったんです。」
初めてぺいんと一緒のベッドで寝たあの日から愛情だけでなく人の温もりを知ったぐち逸は、1人だとただでさえ浅かった眠りがほぼ一睡もできなくなってしまった。このままではダメだ、ぺいんさんに迷惑がかかってしまうと別々で寝ようと試みても心細さや喪失感、焦りが募るばかりでどうすれば良いのか分からなくなった。
「それで悩んでそんな顔してたの?」
「あとはなんと言うかその、気持ちの整理ができなくなってしまって。」
「今日は1人で寝なきゃってしてたんだ。良かったぁ俺に解決できる事で、今まで通り毎日一緒に寝れば解決じゃん!」
また気を遣って遠慮している、そんなに思い詰めなくて良いのにと慰めたがそんな単純なものではないようで。
「そういう簡単な問題じゃないんです、こうやってぺいんさんに迷惑かけてるし今後仕事に支障が出る可能性もあるし。」
「迷惑なんかじゃないよ。寧ろぐち逸は1人で寝たい日もあるのに無理してるんじゃないかってちょっと思ってたから、気持ちが分かって良かった。俺も毎日一緒に寝たい。あとは仕事に支障かぁ…俺の話聞いて。一昨日だったかな、銀行強盗の犯人とチェイスしてたらとーーくのほうにぐち逸見つけてさ、あれぐち逸かなー?やっぱりそうだ!今日も頑張ってるなとか思って視線戻したら犯人ロストしてたw」
「それは…警察官なんですからしっかりしてくださいよ。」
「ホントになw家の中だけで完結させてるぐち逸のほうがよっぽど分別ついてるよ。依存なんかじゃない、恋人を見かけたらつい目で追っちゃうのも、1人だと不安で寂しくて一緒に寝たいって思うのも自然な事。だって好きなんだもん。」
「でもこれ以上気持ちが進んで?しまうと、仕事中ぺいんさんよりも重大なミスを犯してしまいそうで。」
「うーん…その気持ちって別々に寝たら抑えられると思う?俺は逆の結果になると思うんだけど。」
「それはっ……そう、かも…」
「ね?外でやりにくい分家の中ではいっぱい話したりくっついたりしよ。それで切り替えて仕事頑張ろってなれるようにさ。俺ももっとしっかりします。」
「んー…なれますかね、ぺいんさんも私も。」
渋々でも納得したようで背中を擦ると強ばっていた身体から力が抜け、ありがとうございますと小さく呟きながら首元に顔を埋めてきた。
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