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小中高と女子と殆ど接点がなかった根岸は、落ち着かない気分になった。そして、36号の眼差しに耐えられなくなった根岸は視線をそらした。
「……あ、はい」
「はーい。治療終了です」
36号が根岸の頬から手を離した。
「次は後ろを向いて下さい。背中や腰も酷く打ちつけていますし、内臓も少なからずダメージを受けているでしょうから」
Yシャツの布地の上から36号の手の平が押し当てられる。
「あー。こちらも大分やられていますねぇ。折角ですから、悪い所を全部ヒーリングしましょうね」
看護士のような口調で36号が言う。
「あのっ……これも無料お試し期間に入るんですか? 」
「ご心配なく。海外の方で、無料期間中に全身に転移したガンを全て治療させて、その後、しれっと入会を拒否した強者も居るそうですから。この程度の怪我の治療などドリンクバーをお代わりした程度に思って下さい」
「わ、判りました。あのっ、それで、その人、最終的にどうなったんですか?」
純粋な好奇心から、根岸は36号に質問した。
「さあ、どうなったんでしょうね。フフフ。折角ガンが治ったというのに、別の病気に罹ってしまったら意味がありませんね」
ああ、死んだんだ。と根岸は思った。
ユーロパの昔話のように、人間が悪魔を出し抜いて勝ち逃げできるなんてことはないんだ。
「はい。こちらも治りました。お疲れ様です」 36号が背中から手を離す。
「未成年を夜遅くまで拘束するのはよくありませんね。そろそろお開きにしましょうか。あ、そうだ」
36号は急に何かを思い出すと、ジャケットの内ポケットから何かを取り出した。
「この子を預かっていて下さい。根岸さんの良い相談相手になってくれるでしょうし、根岸さんの身に何かあった時は、この子がテレパシーで我々を呼びます」
そう言うと、根岸のYシャツの胸ポケットに何かを滑り込ませた。「何か」がポケットの中でモゾモゾ動く。 虫?小動物? くすぐったさが半分と、生理的恐怖感が半分。根岸はゾクッとした。
次の瞬間、胸ポケットの中から小さな白いトカゲが顔をのぞかせた。
「初めまして、今晩わ。ボクの名前はフリーダ。今後とも宜しく」年端もいかない子供のような声でトカゲが挨拶する。
「うわっ、トカゲが喋った?」
根岸がベタな反応をした。
「今のがテレパシーです。」36号が説明した。「音声による会話ではないので、会話の対象者やテレパス能力者以外には、会話の内容を聞き取られることがありません」
「凄い」根岸が感心した。
「因みに。この子は基本的に雑食なので、人間の食べる物なら何でもイケます。鶏肉が好物なので数日に一回の割合でコンビニのナゲットを食べさせて上げると尚宜しい」
「他に、飼う上での注意点はありますか?」根岸が質問する。
「飼うって言うな。失礼だぞ」フリーダが抗議の声を上げた。
「いいえ。ここまでの会話で分かる通り、人間と同等の知能がありますから、粗相はしませんし、アレが欲しい、何だか体の具合が悪いといった意思疎通は完璧に出来ます。珍種の熱帯魚や産まれて数カ月の保護猫などよりも手間が掛かりません」
「だーかーらー。ペット扱いするなっての。失礼だぞ」フリーダが再び抗議の声を上げる。