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「鈴さんは末期癌です。」
「癌?鈴が?」
中学3年生の冬のことです。
肌寒い日、そうです。その日は初雪の日でした。
外ではちらほらと雪が降っています。
「かなり症状が進んでしまっていまして。できる限りの治療はしますが死が近くにあるということも考えておいてください。」
「そうですか、癌。」
「はい、通院をしていく形で治療していきましょう。」
その日は父と母が外食へ連れて行ってくれました。
その日食べたローストビーフの味を今でも忘れられません。
帰りの車でのことです。私は後部座席で寝たフリをしてしまいました。
父と母が何やら言い合いをしています。
「鈴どうするの?」
「どうするって言ったってあいつには音楽以外にできることがないだろ。」
「そんな言い方しなくても、。私は鈴が音楽をしたいなら続けさせてあげたい。」
「鈴がトランペットをしたいならこれからも俺が教える。」
「そう、。」
その日の夜寝る直前の私に父が問いました。
「鈴はトランペットを続けるのか?」
回答に悩みました。
正直なところ、もうトランペットをしたくありませんでした。
けれど父の冷たい視線が怖くて思ってもないことを言ってしまったのです。
「うん、続けたい。」
言った途端後悔が襲い掛かりました。
あの日トランペットが嫌いだと言えればどれほど良かったでしょう。
「俺、鈴のトランペット好きだな。切ないけど感情がこもってる。」
初めて言われました。
上手だねとは何度も言われてきていたけど深いところまでついて来る人は今までにひとりもいませんでした。
昼休み、彼が私のトランペットを聴きながら私の隣にいるのが心地良いのです。
「鈴さん、落ち着いて聞いてください。」
「鈴さんの余命はあと一年です。」
腑に落ちたような感覚になりました。
それが12月25日、ホワイトクリスマスの日でした。
「そっかぁ、。」
「私、成人できないんですね。」
生きる気力がありません。
高校一年生、これからという時に私は後一年しか生きられないことが分かりました。
あと3ヶ月の高校一年生をどう過ごしたのかもう覚えていません。
春、彼と出会ったのが私の人生の唯一の光でした。