テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
なむたろー。
646
217
ciel
34
4
ある日天使が私の前に現れた。
その日は暑かったから窓を開けていただけ。
閉めようとしたときに視界に入っただけ。
理由なんてなかった。
それでも、出会えたことには意味があるはず。
「ただいま。」
毎日繰り返す音声。
お母さんは返してくれない。
二階に上ろうとすると、決まって呼び止められる。
「愛季、帰ってたの。なら、一言言ってって何度も言ってるじゃない。」
お母さんは私が中学三年生になった頃からおかしくなった。
まだ四十代だというのに。
耳が遠くなった。
記憶力が衰えた。
体が弱くなった。
まるで、年寄りみたいだけれど、本人はわかっていない。
だから私がただいまを言っていないということにされている。
それでも、
「ただいま。」
お母さんを見放すことはできない。
結局ただいまを二回言う。
しっかりと聴こえるように言うと、優しい声が返ってくる。
「おかえりなさい。」
私が張り付けた笑顔。
お母さんは本物だと信じて疑わない。
二階にある自分の部屋に入ると、乱暴にカバンを置き、制服も脱がずにベッドに寝転がった。
何でこんなことになったんだろう。
どこで間違えたのかな。
三年生のとき?高校生になったとき?それとも、最初から?
脱ぐのに時間のかかる制服をそれでも丁寧に脱ぐ。
部屋着に着替えると少し楽になった。
そういえば今日は凄く暑い。
エアコンを27度に設定してつけようとしてやめる。
お母さんはケチだから、許してくれない。
仕方なく窓を開けてしばらく風に吹かれていると、不意に思い出した。
晩御飯を作らなきゃと立ち上がる。
お母さんはご飯を作れなくなった。
これも記憶力の問題だと思う。
でも、今朝お母さんがランチに行くから晩御飯はいらないと言っていたのを思い出して、もう一度寝転がった。
私も食欲がないので、お風呂に入ってしまうことにした。
パジャマを探して、下着をクローゼットから出して、虫が入ると嫌だから窓を閉めようとした。
そのときだった。
私の何かが変わったのは。
まるで、奇跡が起きたみたいに。
何の前触れもなく、訪れたその”とき”は私のまぶたに張り付いている。
神様からの贈り物か、私を哀れに思った妖精か。
窓にあった、いたのは、
天使みたいな女の子だった。
コメント
1件
え〜〜!!これ、めっちゃ良い…!!😭💕 「ただいま」を二度言わなきゃいけない切なさと、それでも母親を見放せない愛季の優しさに胸がギュッてなったよ…。そんな日常に突然現れた天使みたいな女の子、まさに奇跡だよね!!!✨ 続きが気になりすぎる…!この出会いがどう動き出すのか、もう待ちきれないよ〜!🌸