ドアを閉まらないよう足で固定された桜子は焦りから思わずドアノブを握っていた手に力が入った
「ちょっと…!どういうつもり…!?」
「夜の女なんやったらもっと上手いこと嘘つくんやな。」
「はぁ?!嘘なんかついてない! いきなり人の家来といてなに!?」
「嘘ついとる人間はみんな焦り散らしてそう言うんや。」
桜子の焦り方から何かを隠していると確信した銀次郎は怒る桜子を横目に玄関に置いてある靴に目をやる。
そこに男物らしき靴はない。
だが銀次郎の桜子への疑いはまだ晴れない。
「またそうやって嘘つくんか。」
「は?だから嘘なんか…!」
「邪魔するで。」
そう言って勢いよくドアを開け、強引に部屋の中へ入っていく銀次郎。
「きゃ!ち、ちょっと!!!萬田くん どういうつもり!?出てってよ!」
制止する桜子の手を振り切りリビングへ歩いていく銀次郎。
勢いよくリビングの扉を開ける
そこに高瀬の姿は無い。
………………。
「人の家に勝手に上がり込むとかほんまに信じられへん!!!萬田くんそんな人やと思わんかった!最低!」
「今更何を言うとるんや。わしは銭のためやったらどんな事でもするて言うたやろ。」
「だからってこんなこと…!」
銀次郎は桜子の制止を振り払いながら家の中をしらみつぶしに探していく。
そして最後に寝室のクローゼットを開けた。
「ちょっとやめて…!」
「…………。」
そこにはハンガーにかけられた桜子のものであろう洋服がずらりと収納されている、 その中に男性物のスーツが不自然に一着だけかけられていた。
「これは誰のもんや。」
「はぁ?そんな事…萬田くんに関係ないやん!っていうか人の家の中勝手に物色するとかどういう神経してんの!」
「ごちゃごちゃ言うてんと、別にやましい事がなかったらすぐに答えられるはずやろ。もういっぺん聞く。これは誰のもんや?」
「だ、だからそれは… 私のクラブの黒服に貸し出すためのスーツ。汚れてたから…クリーニングに出しといたの!」
「ほーう…。そうかぁ。 おかしいなぁ…さっきお前のクラブ行ったけど、そこの黒服はみんなこんな高価なスーツ着てるように見えへんかったけどなぁ…。1人だけ特別扱いされとる奴でもおるんか?」
「そ、それは…。」
その言葉にあからさまに動揺する桜子。
その様子から何かを隠している事を察した銀次郎はハンガーからそのスーツを外し裏返した…
顕になったスーツの裏地。
“Shinya Takase “
刺繍で名前がはっきりと刻まれていた…
「お前のクラブにはタカセ・シンヤっちゅうわしから銭借りとる男と同姓同名の黒服がおって、おまけにわざわざそいつの名前が刺繍された専用のスーツまで用意されとるんやなぁ。この男にだけえらい待遇ええんやのう?」
桜子が何らかの秘密を知っている事を確信した銀次郎は畳み掛けるように桜子を問い詰めた。
「………。」
何か諦めたかのように桜子は沈黙している。
「高瀬の事何か知っとるんやろ。正直に話してもらおか。」
……
……
……
……
「分かった、本当の事言う…。」
重い口を開いた桜子。
「そのスーツ…萬田くんが探してる高瀬さんのもの…。」
観念したように桜子は力なくそう告白した。
「やっぱりな。で、あいつ今どこにおるんや。お前がどっかに匿っとるんやろ。」
「そんなん知らん!」
「どうせ時間の問題や。結局ワシらに見つかるんやから今のうちに居所言うといた方が楽やぞ。」
「そんな事言われたって知らんもん…。」
「まだそないにしらばっくれるんか。そういう関係で知らんはずないやろ。」
「は?何よそういう関係って。」
「お前ら付き合うてるんやろ。」
「はぁ!?そんなわけないやん!!。」
「じゃあなんで客のスーツをわざわざ家に置いとるんや。それ以外考えられへんやろ。」
その言葉に尚も首を横に振る桜子
「チッ!じゃあどういう関係やねん!はっきりせえ!」
はっきりしない返答ばかりの往生際の悪い桜子にいらつく銀次郎は声を荒げた。
「だから…!
高瀬さんとはその…
体だけの関係やの…」
「っ………!」
「だからその…着替えのスーツ…置いてて…。」
広がる沈黙…
この秘密を銀次郎にだけは知られたくなかった桜子。 にも関わらず自分の口からそのことを告白させられこの地獄の空気…
“確実に嫌われた”
鋭い目つきでこちらを見つめている銀次郎を前に桜子は半ば絶望しながら心の中でそう呟いた。
桜子が高瀬と体の関係にある事を知った銀次郎は自分の中で沸々と様々な感情が湧き上がってくるのを感じた。
自分の中でコントロール出来ない何かぐちゃぐちゃとした感情が暴れている…
一方の桜子も恥ずかしさと悲しみに襲われ思わず顔を隠すようにシュンと下を向いた。
その瞬間、銀次郎が目の前から迫ってくる気配を感じた
サッ…………
銀次郎が纏った何かただならぬ気配を感じるも桜子は恥ずかしさで顔を上げられない、
ドンっ!
目の前まで来た銀次郎はそのまま勢い良く桜子を壁に押しつけた
「痛っ……!な、何!?」
ぐいっ……
銀次郎は黙ったまま桜子の両手首をキツく掴み頭の上でクロスさせるようにして固定した
「いや…」
両腕を上にあげられるだけで自分の全てを晒しているような気持ちになる…
そして銀次郎は吐息が触れそうな距離まで顔を近付けた。
「なんでこんな… 正直に言ったんやから離してよ。高瀬さんの居場所、本当に何にも知らんってば…。」
戸惑いながらそう言い放つ桜子
「………。」
それでも黙ったまま鋭い目つきで桜子を睨み続ける銀次郎。
「萬田くん…怖い…。」
何も言葉を発してくれない銀次郎の様子に不安と恐怖そして羞恥心がうずまき桜子は思わず視線をさげた。
くいっ…
「やっ…」
銀次郎は視線をさげた桜子のアゴを持ち上げ無理やりに自分の方に向けさせた。
尚も言葉は発さないまま…
自分に対する今まで見たことの無い銀次郎の姿に更に不安が溢れ泣いてしまいそうになる桜子
「また泣くんか。」
目の中いっぱいに涙を溜めた桜子を見つめながら、無表情で冷たく吐き捨てた銀次郎
「だって萬田くん怖い…。」
「そんなに離して欲しいか?」
「っ………。 」
桜子は黙り込む…。
その姿に何かを察した銀次郎は少しほくそ笑み、今までキツく掴んでいた桜子の手をほどき体を解放した
「あ……。 」
桜子は今までキツく掴まれていた体が急にほどかれ何故か奇妙な寂しさに襲われた。
解放されたこの体をどうしたらいいのか分からず何かすがるものを求めてモジモジとしてしまう…。
「離したったのにえらい寂しそうやなぁ?どないしたんや?」
再び桜子に顔を近付けその気持ちを見透かしたかのように意地悪に笑いながらそう囁いた銀次郎。
「ち、ちがう!さみしくなんか…。」
「へぇー。自分の客を家に連れ込んでその男の私物まで家に置いて…抱かれるような女が寂しくない…ねえ?」
………!?!?
銀次郎のその言葉にそれまで溜め込んでいた感情が一気に爆発した桜子
“パチンッ!”
銀次郎の頬叩く乾いた音が部屋に響いた。
「っ…………。」
頬を叩かれた銀次郎は再び鋭い目つきで桜子を睨み返した。
その桜子の瞳には涙とともに怒りが滲んでいる。
「ほんっとに最低…!
私は…素直な気持ち何度も何度も必死に伝えたのに…私の 気持ちを全部拒絶してきたんは萬田くんの方やん!やのに今更こんなんずるい!!!」
「…………。」
「萬田くんのこと好きやけど…忘れたくて!諦めたくて! 無理やりにでも私は前向こうとしてるのに…。その度にこうやって意地悪に現れて私の気持ち掻き乱して… 萬田くんほんま鬼やね!」
………。
「そうやってワシを言い訳にして他の男に抱かれとるんやろ…? 客とは寝えへんってあんなに自信満々に言うとったのは嘘やったんやなぁ?夜の女としてのプライドはどこいったんや?」
「な…!それがそんなに悪いこと!? 大人なんやし私が誰と寝ようと萬田くんに関係ないやん! それに元はといえば他にもっといい男が居てるって萬田くんが言ったから私は…!」
グイッ!!
………!?
ドンッ!!!
その言葉を遮るように銀次郎は桜子の体を再びキツく壁に押しつけた。 と同時に、銀次郎の心の中で抑えつけていた何かがこわれる音がした。
「ムカつく…」
「え……?」
桜子の顔を睨みつけながら小さくそう囁いた銀次郎は強引に桜子に口付けた。
クチュっ…
「んん…!!!」
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