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「……えーっと、それじゃあ、マナミ。自己紹介してくれ」
「は、はい、分かりました」
マナミ(茶髪ショートの獣人《ネコ》)は少し緊張しながらも、彼に聞こえるような声で自己紹介をした。
「え、えーっと、私は獣人型モンスターチルドレン|製造番号《ナンバー》 二の『マナミ』……です。えっと、特技は『耳かき』です。ちなみにシオリちゃんは私が耳かきをしている間にいつも寝てしまいます。えーっと、『大罪の力』は持っていないのであまり役に立たないと思いますが、どうかよろしくお願いします!」
「ありがとう、マナミ。……ところで、さっきから気になってることがあるんだけど、訊《き》いてもいいか?」
「は、はい、何ですか?」
「えーっと、その……どうしてお前の背後にシオリがいるんだ?」
「あれ? ひょっとして私、まだ呼ばれてなかった?」
マナミ(茶髪ショートの獣人《ネコ》)の背後から、ひょっこり顔を出したのはシオリ(白髪ロングの獣人《ネコ》)だった。
「ご、ごめんなさい! どうしても私と一緒にいたいと言っていたので、つい……」
「あれれー? おかしいなー。マナミちゃんも私と離れたくないって言ってたよねー?」
「そ、それは言わない約束でしょ!」
「えー、そんな約束した覚えはないなー」
「そ、そんなー」
「……コホン。まあ、二人が仲良しなのは知ってるから、今回は特別に許そう。じゃあ、シオリも自己紹介してくれ」
「うん、いいよー。えーっと、私は獣人型モンスターチルドレン|製造番号《ナンバー》 三の『シオリ』だよー。チャームポイントはこのジト目だよー。ちなみにわざとやってるわけじゃないよー。元からこうなんだよー。マナミちゃんのこともナオ兄のことも大好きだよー。よろしくねー」
「……はい、どうもありがとう。ところで二人は最近、困ってることはないか?」
「困っていること……ですか?」
「ああ、そうだ」
「私は特にないよー」
「わ、私も特にないです」
「本当か? どんなに些細《ささい》なことでもいいんだぞ?」
「え、えーっと、じゃあ、私の……み、耳を触ってもらえませんか?」
マナミは顔を真っ赤にさせながら、頭の上に生えている茶色の耳をヒコヒコと動かした。
「そ、それは別に構わないが、いいのか? たしか耳は性感帯なんだろ?」
「そ、それはそうなんですけど……」
マナミが少し俯《うつむ》くと、シオリが彼にスススーッと近づいた。
「ナオ兄、ナオ兄」
「ん? なんだ?」
「マナミちゃんはね、ナオ兄のことが大好きだけど、内気だからそれを口に出せないんだよ」
「ま、まあ、それはなんとなく分かるけど、俺はどうすればいいんだ?」
「そんなの簡単だよ。ナオ兄がマナミちゃんのところに行けばいいんだよ」
「そ、そうか。じゃあ、早速……」
彼がマナミのところに行こうとすると、シオリは彼の背中にしがみついた。
「なあ、シオリ」
「なあに?」
「どうして俺の背中にしがみついたんだ?」
「うーんとねー、久しぶりにナオ兄の背中にしがみつきたくなったからだよ」
「そうか……。なら、落ちるんじゃねえぞ?」
「うん、分かった」
その後、彼はマナミの近くまで移動した。
「マナミ」
「は、はいっ!」
名前を呼ばれて慌《あわ》てふためくマナミ。
「その……あれだ。今からお前の耳を触《さわ》るけど、準備できてるか?」
「は、はいっ! 私は大丈夫です!」
その時、彼はか○これの『は○な』を思い出したが、あえてそれは言わなかった。
「そうか……。じゃあ、行くぞ」
「え、えーっと、その……や、優しくしてくださいね?」
マナミの潤《うる》んだ瞳《ひとみ》を直視してしまったナオトは一瞬意識を失いかけたが、シオリに耳を引っ張られたショックで意識を取り戻した。
「……あ、ああ、任せとけ」
彼はそう言うと、マナミの頭に生えている茶色の耳に手を伸ばし始めた。
時折《ときおり》、ヒコヒコと動くその耳はまるで別の生き物のようだったが、彼は躊躇《ためら》うことなくその耳に触れた。
「ひゃん!?」
その声を聞いた瞬間、彼は彼女の耳に触れるのをやめた。
「す、すまん。痛かったか?」
「い、いえ、別に痛くはないです。けど……」
「けど?」
「ナオトさんに触られていると思うと、なんだか不思議な気持ちになって、気づいたらあんな声を……」
「そ、そうか。それはすまなかったな」
「ど、どうしてナオトさんが謝るんですか?」
「え? いや、いつもと違う場所を撫でるのに慣れてないせいでお前があんな声を出したのかなって思ったからだ」
「そ、そんなことありません! 今回は私のせいです!」
「いいや、俺のせいだ」
「私です!」
「いや、俺だ!」
その時、いつのまにか二人の間に割って入っていたシオリが二人の頭にチョップをした。
「ふにゃ!?」
「いてっ!?」
「二人とも、ケンカはダメだよ」
「いや、別にケンカなんて……」
「ナオ兄は少し黙ってて」
「あっ、はい、すみません」
「ねえ、マナミちゃん。もうそろそろナオ兄に自分の気持ちを伝えてもいい頃なんじゃない?」
「そ、それは……まあ、そうだけど……」
「いつまでもウジウジしてると、誰かに取られちゃうよ?」
「そ、それはダメ!」
「そっか……。マナミちゃんは誰かにナオ兄を取られるのは嫌《いや》なんだね。じゃあ、マナミちゃんの気持ちをちゃんとナオ兄に伝えないといけないよ?」
「そ、それはまだ……無理……かな」
「じゃあ、私がナオ兄を取っちゃってもいいの?」
「え?」
「私はね、ナオ兄のこともマナミちゃんのことも大好きなの。だから、できればそんなことはしたくない。けど、マナミちゃんにその気がないのなら私はナオ兄を独占しちゃうよ?」
「……お、脅《おど》すなんてズルいよ! シオリちゃん!」
「けど、こうでもしないとマナミちゃんは私を敵として見てくれないでしょ?」
「あ、当たり前だよ! シオリちゃんは私の本当の妹みたいなものなんだから!」
「……ごめんね。そう思ってるのは、マナミちゃんだけだよ」
「……え?」
「私はね、マナミちゃんのこと、本当のお姉ちゃんだって思ったことなんて、一度もないんだよ」
「……そ、そんなの嘘《うそ》だ! だって、シオリちゃんはいつも私の近くに……」
「それはいつでも殺せるようにするためだよ。モンスターチルドレンは同型を殺せば殺すほど、より完璧な存在になれる。だから、私は常にマナミちゃんの近くにいたんだよ」
「……そ、それじゃあ、私は……」
「ずーっと私に騙《だま》されてたってことになるね」
「……そ、そんな……。私はずっと……騙《だま》されて」
頭を抱《かか》えて絶望するマナミに、シオリは追い打ちをかける。
「うん、そうだよー。あっ、ついでにナオ兄をもらっちゃおうかなー」
その時、マナミ(茶髪ショートの獣人《ネコ》)は……憎《にく》しみの化身になろうとしていたが、彼がそれを止めた。
彼は彼女の体から負のオーラが溢《あふ》れ出さないようにしっかり抱きしめると、彼女の耳元でこう囁《ささや》いた。
「……マナミ。少し落ち着け。シオリはお前のために挑発しただけだ」
「私の……ために?」
「ああ、そうだ。だから、許してやってくれ」
「そう……だったんですか……。私、そういうのはよく分からないので、つい本当のことだと勘違いしてしまうんです」
「そうか。けど、よかった。殺し合いにならなくて」
彼はほっと胸をなで下ろすと、彼女の耳を無意識のうちに触ってしまった。
「ひゃん!? も、もうー、ナオトさんってば、優しく触ってくださいよー」
「お、おう、ごめんな。なんか無意識のうちに触りたくなっちまって」
「もうー、そんなに私の耳が好きなんですかー?」
二人が笑い合っている間、シオリはニッコリ笑いながら、その様子を見ていた。