マナミが寝室から出ていった後、シオリは彼の背中にしがみついていた。
「なあ、シオリ」
「なあに?」
「お前は俺の背中にしがみつくのが好きなのか?」
「ううん、違うよー。ナオ兄の全てが好きだよー」
「そうか……。じゃあ、とりあえず離れてくれ。このままだと話しにくいから」
「分かったー」
シオリ(白髪ロングの獣人《ネコ》)はそう言うと、今度は彼の胸に飛び込んだ。
「おい、シオリ」
「んー? なあにー?」
「俺はお前と話がしたいんだが」
「うん、それは分かってるよー」
「なら、どうしていちいち俺に抱きつくんだ?」
「ナオ兄のことが大好きだからだよ」
「そうか……。けど、お前の顔を見ながら話がしたいから、少し離れてくれると嬉しいなー」
「……分かった」
彼女はそう言うと、彼の顔をじーっと見つめ始めた。
「……さてと、それじゃあ始めるぞ。なあ、シオリ」
「なあにー?」
「最近、困ってることとかないか?」
「ないよー」
「即答かよ……。じゃあ、何かしてほしいことはないか?」
「うーん、そうだなー。じゃあ、さっきマナミちゃんにしてあげたことを私にもしてよー」
「え? そんなことでいいのか?」
「うん、いいよー。はい、どうぞ」
シオリ(白髪ロングの獣人《ネコ》)は、ぬっと頭を突き出すと、真っ白な耳をヒコヒコと動かした。
「えっと、本当に触《さわ》ってもいいのか?」
「うん、いいよー。ただし、優しく触ること。分かったー?」
「お、おう、分かった。じゃあ、行くぞ」
「うん」
彼は湧《わ》き上がる衝動に負けないように歯を食いしばりながら、彼女の耳へと手を伸ばした。
マナミの時はなんとか堪《こら》えることができたが、今回はなかなか困難だと思われる。
なぜならば、彼は大の猫好きだからである。
「……そーっと……そーっと……」
「……んっ!」
「す、すまん! 痛かったか?」
「う、ううん、大丈夫。続けて」
「わ、分かった」
彼はそう言うと、シオリの耳を優しく触《さわ》り始めた。
すると、彼女はこんなことを言いながら、彼に抱きついた。
「ナオ兄ー、耳触るのとっても上手だねー」
「そ、そうかな?」
「ふにゃー♡」
その後、シオリ(白髪ロングの獣人《ネコ》)は彼の胸やお腹に自分の頭を擦《こす》りつけていた。
まるで子猫が母猫や人に甘える時のように……。
「ナオ兄ー……好きー……大好きー……」
シオリは彼の首筋や額を舐《な》めながら、そんなことを言っていた。
「お、おい、シオリ、大丈夫か? 顔が赤いぞ?」
「ナオ兄は優しいねー。でも、優しさは時に人を狂《くる》わせるんだよー」
その直後、シオリは彼を押し倒した。
「お、おい! シオリ! お前やっぱりなんかおかしいぞ!」
「えー、そんなことないよー。そーれーよーりー。私といいこと……しよ♡」
その時、彼はシオリの両目にピンク色のハートマークがあるのを見つけた。
「な、なあ、シオリ」
「なあにー?」
「少しの間、離れてくれないか?」
「えー、なんでー? 私のこと嫌《きら》いになったー?」
「別に嫌《きら》いになったわけじゃないんだけどよ。ただ」
「ただー?」
「お、お前みたいな可愛い女の子に迫《せま》られると心拍数が上がるから……。その……は、恥ずかしいんだよ」
彼が彼女から目を逸《そ》らして頬《ほお》を赤らめながら、彼女にそう言った。
その直後、彼女のハートを一本の矢が貫《つらぬ》いた。
「ふにゃー、ナオ兄ー、それは反則だよー」
彼女はそう言うと、キュン死した。
とても満足そうな表情を浮かべながら……。
「おっと、危ない。けど、シオリって、意外と情熱的っていうか大胆なんだな……」
彼は自分の胸の上でニコニコ笑っているシオリの頭を撫でながら、そんなことを言った。
「えーっと、次はツキネか。あいつの固有魔法には何度も助けられてるけど、いつまでこのアパートの管理人さんの姿でいるんだろうな……。まあ、変身型スライムだから、そのうち別のやつに変身するかもしれないな」
彼はそう言うと、シオリをお姫様抱っこした。
彼は、そのままの状態で隣の部屋まで移動すると、マナミ(茶髪ショートの獣人《ネコ》)がいるところまで歩み寄った。
「マナミ。シオリは今、めちゃくちゃ幸せそうだから、くれぐれも起こさないようにしてくれよ?」
「は、はい、分かりました」
「よし、じゃあ、次はツキネ!」
「はいっ!」
「おっ、いい返事だな。それじゃあ、となりの部屋まで来てくれ」
「了解しました!」
ツキネ(変身型スライム)はビシッ! と敬礼すると彼のあとに続いた。
*
その頃、『赤き雪原』では……。
「おー、さすがに寒いなー。もっと色々|羽織《はお》ってくればよかったなー。けど、まあ、肩慣らしにはちょうどいいかもしれないな」
彼は一人で吹雪の中を歩いている。
身長は百八十センチほどで黒い瞳はビー玉のように美しく、黒い髪はやや短め。黒いローブと黒いブーツを身に纏《まと》っている。(あくまでも見えている範囲の服装である。決してそれ以外、何も身に纏《まと》っていないわけではない……)
「おーい! 化け物どもー! 俺はここにいるぞー!」
俺がそう叫ぶと赤い瞳をギラつかせながら、モンスターたちがぞろぞろと集まってきた。
「おっ、いいね、いいねー。好きだよ、数で押し切ろうとするの」
彼はニコニコ笑いながら、右拳を左手の掌《てのひら》にバシッ! と重ね合わせた。
「さあて、それじゃあ、やろうか!」
彼はそう言うと、オオカミやシカ、クマ型のモンスターを次々と倒し始めた……。
「……ふぅー、久しぶりにごちそうが食べられそうだなー」
その時、彼は懐かしい波動を感じた……気がした。
「……まさか……な……」
彼はそう言うと、モンスターたちを軽々と担《かつ》いだ。
「……まあ、とりあえずこいつらを村まで運ばないといけないから細《こま》かいことは、あとで考えよう」
彼はそう言うと鼻歌を歌いながら、歩き始めた。
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