テラーノベル
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夏休み直前の午後の日差し
もう授業では使わないはずのプールの水はきれいに張られたまま
空だけやけに青くて、日差しがそのまま水面に落ちてキラキラと目を焼くように反射している。
「ほんまにこれ掃除する意味ある?」
舜太がゆるく言う。
「ないよね」
「よなあ」
笑う声も軽い。
さっきまでこっぴどく叱られていたはずなのにもうほとんど気にしてない。
先に靴を脱ぎ捨てて縁に立ったのは舜太の方だった。
そのまま服も脱がず、ためらいもなく水に飛び込む。
「絶対冷たいでしょそれ」
「いや!ちょうどいい」
振り返って顔いっぱいの笑顔を見せてくる。
柔太朗も少し遅れて中に入る
水は思ってたより深く、じわじわと体温を奪ってくる。
膝、腰、胸元まできて、
そのまま肩まで沈む。
服が重くなる感覚に、少し だけ笑いそうになる。
「制服で入るのバカすぎじゃん」
「俺らバカやん」
舜太が指さして笑う。
そのまま水面を軽く叩いてしぶきを飛ばしてくる
「子どもかよ」
そう言いながら柔太朗も少しだけやり返す。
小さい水しぶきが光にあたってきらきらと光る。
なんだかここだけは世界から切り離されているような特別な感覚がした。
「なあ!」
「ん?」
舜太が少しだけ目を細める。
「さっき、怒られとったのさ」
「うん」
「全然反省しとらんやろ」
くすっと笑う。
舜太も少しだけ笑う。
「してない!」
そのまま答える。
「やっぱりな」
舜太が小さく頷く。
水がゆっくり揺れる。
そのまま舜太の手が伸びてくる。
俺の腕を軽くつかむ
「なに」
舜太は水面に視線を落として、
また目を見つめ返す。
「な、ちょっとこっち来て」
そのままゆっくりと引っ張る。
抵抗するほどでもなく そのままつられて足が動く
水面が近づく
一瞬、光が反射して目に入る。
次の瞬間、
そのまま2人で水の中に沈む
周りの蝉の声が一気に消える。
世界が一気に静かになる。
揺れる光だけがぼんやりと見えるだけ
真っ白のシャツがふわっと浮いて、
髪も水の中でゆらいでいる
舜太の手はまだ離れてない
まるで逃がさないみたいにそのまま握られていた。
息はもう長く持たないはずなのに
なぜか焦る気持ちもなくて。
舜太が光を遮るように顔を近づけてくる
反射する光だけでは表情ははっきり見えない。
でも 目だけはちゃんとあってる
そのまま そっと触れる
水越しの、曖昧で冷たい感触。
息が足りなくなる感覚と、 触れてる実感
浅く、確かめるみたいに唇重ねて
少しだけ角度を変える。
水が間にあるのに、たしかにぬるい体温がある。
息を吸い込んだ分だけしかいられない時間
だからこそ長く感じる時間
舜太の指に少しだけ力がこもる。
まだ離さないと言うように。
もう限界が近い
どっちからともなく 少しだけ離れる
それでも一瞬また触れて
名残を惜しむように、求めるように。
そのまま水面に上がる
一気に世界に音が戻る
空気を吸い込む音がやけに大きい。
「……は、」
舜太が小さく息吐く。
肩で息してるのに どこか楽しそうに笑ってる。
「なにしてんの」
声は普通なのに、少しだけ掠れてる。
舜太は少しだけ首かしげる。
「内緒」
やわらかく笑う。
水滴が頬を伝う
さっきまでと同じはずなのに
少しだけ違う顔をしている。
「……舜太さ」
言いかけるけど 最後まで言わない
舜太はただ、いつもみたいに笑うだけ。
水面は何事もなかったみたいに揺れてる
さっきのことを全部隠すみたいに。
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