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四月。神奈川県立長澤高校の正門は、驚くほど静かだった。
校舎は古く、ペンキの剥げた鉄柵が長い年月を物語っている。
強豪校にあったような横断幕も、部活勧誘の大きな声もない。
「……ここか」
幡山狂介は、小さく息を吐いた。
この場所に来た理由を、誰も知らない。
世代ナンバーワンLWG――そんな肩書きは、ここではただの過去だ。
職員室での転入手続きは、拍子抜けするほどあっさり終わった。
「今日から2年B組ね。席は窓側の後ろ。
あ、部活はもう決めてる?」
担任の女性教師が、何気ない調子で聞いてくる。
「……まだです」
「そう。ゆっくり考えなさい」
その“ゆっくり”という言葉が、妙に胸に引っかかった。
⸻
教室の扉が開く。
「えー、今日から転入生が来ました。
幡山狂介くんです」
ざわり、と小さなざわめき。
だが、黒鷹川のときのような視線はない。
好奇心半分、無関心半分。
「よろしくお願いします」
短く頭を下げ、指定された席に向かう。
誰も名前を囁かない。
それが、なぜか心地よかった。
昼休み。
狂介は一人、校舎裏へ向かった。
遠くから聞こえてくる、鈍い音。
「ドン」「ドン」と、何かを蹴る音。
グラウンドだった。
砂ぼこりの舞う小さなピッチで、十数人の生徒がボールを追っている。
ユニフォームは色褪せ、動きも洗練されていない。
(……弱い)
そう思ってしまった自分に、狂介は舌打ちした。
だが――目が離せなかった。
必死だった。
ミスしても、誰かが声を出す。
パスがずれても、謝り、取り返そうと走る。
勝利よりも、プレーすること自体にしがみついているようなサッカー。
「……」
胸の奥が、ざわついた。
⸻
放課後。
狂介は意を決してグラウンドへ足を踏み入れた。
「……あの」
ボールを止めた一人が振り向く。
「え?!幡山狂介!?」
「転入生で長澤高校に転入しました幡山狂介です」
流石にサッカー部では名前が知られているようだった。
一瞬、場の空気が止まる。
「ま、まぁとりあえず俺達とは練習相手なるか分からないけど混ざる?」
「……お願いします。」
言葉を選ぶように、狂介は続けた。
「なんで転入したかとか聞かないんですか?」
互いに顔を見合わせた後、キャプテンらしき3年生が前に出てきた。
「聞いて欲しいなら聞くけど?なんでこんなとこに転入したの?」
「冬の選手権の神奈川予選の準決勝で独りよがりなプレーをしてレッドカードをもらってしまって部活動から追放されたので今年から転入してきました」
「それだけ?」
それだけの意味がわからなかった。
「俺達はさ、確かに設備とかは黒鷹川と比べたら天と地の差があるけどさ」
「はい」
「チームメイトとの信頼っていうのはどこの強豪にも負けないと思うんだよね。 」
その言葉は今の幡山には込み上げるものがあった。
練習用として渡されたビブスは、少し大きかった。
ウォーミングアップ。
パス回し。
幡山は、無意識に一人でリフティングをしている。
だが、キャプテンが話しかけてきた。
「なんで一人でやってんの?」
「いつも1人でアップしてたんで」
「あのさあ」
キャプテンはため息をつきながら口を開いた。
「確かに選手権のプレーは良くなかったしチームメイトが良くないと思うのもよくわかるよ。でも俺達の目標は全国制覇じゃなくて三年間部活動をやりきるってのが目標なんだよね。」
そのあたたかい言葉は幡山にとって初めてのものだった。
「そのためにもパス練混ざれよ」
「…..はい」
パスを出す。
走る。
受ける。
その簡単なアップが、幡山のこれまでのサッカーにおいて初めての感覚だった。
「今のいいぞ」
その一言が幡山にとって初めての賞賛だった。
小さな声が上がる。
実践練習の前に自己紹介をすることになった
「じゃあまず俺から自己紹介するよ。3年生の根来明《ねごろあきら》だ。サッカー部の主将をしてる。ポジションはサイドバックだ。」
3年生というのもあり、自信に満ちた話し方と3年間の練習の成果なのか手や足には大量の痣がある。
「3年生の榎田修平だ。ポジションはフォワードだ。」
体が筋肉でできているのが練習着越しでもわかる。この人が長澤のエース。
「2年生の五百城琉弥《いおきりゅうや》。ポジションはゴールキーパー。」
周りと見比べると身長が高いことがよくわかる。恵まれていたのだろう。
「僕は2年生の後藤李玖《ごとうりく》だよ。狂介君の試合はよく見てたから一緒にプレーできて嬉しいよ〜。ポジションはレフトミッドフィルダーだよ〜。」
話し方がすごい穏やかで優しい印象がある。
「2年生のアンドリュース・ヴォルフォン。ポジションはセカンドトップ。よろしく独裁者。」
「…..“あ“?」
その言葉は今の幡山にはものすごい精神的に来るものがあった。
幡山はヴォルフォンの胸ぐらを掴んで
「てめぇは俺の何を知ってんだよ脇役外国人」
「1人でやりたいくせになんでこんなド田舎の県立高校に来たんだよ?逃げたからだろ?キャプテンは優しいかもしれねぇけど俺はお前を認めねぇからな独裁者」
ヴォルフォンはサッカー部のウィンドブレーカーを着て外に出て行った。
重苦しい空気が流れる中、キャプテンが口を開く。
「あいつは少し人を馬鹿にする時があるんだ。おそらくお前の実力がわかっているからあんなことを言うんだ。」
「….いえ….俺こそすみません」
部活動終了の放送が鳴りグラウンド整備を始める。
幡山が部室に道具の片付けをしに行くとそこには先に掃除に来たヴォルフォンがいた。
「まだいたのか独裁者」
「俺はここでサッカーすんだよ邪魔すんな」
するとヴォルフォンは鼻で笑い
「好きにしていいけど俺はお前にパスを出さねーからな。」
「俺がお前を認めさせてやるよ。自認エースの外国人さん。」
2人に小さなライバル像が芽生えた。
部室から出ると監督がグラウンドで立っていた。
「今年から監督を務める田山勝就です。やるからには勝つという執念を持ってやってください。」
自己紹介が終わった後
「それと練習試合が来ているから連絡するね。」
練習試合の紙が部員たちに渡される。
その対戦相手の名前に幡山は驚愕する。
__私立黒鷹川学園__