TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

風柱の親友は

一覧ページ

「風柱の親友は」のメインビジュアル

風柱の親友は

5 - 第5話 夫婦役

♥

56

2026年01月05日

シェアするシェアする
報告する

夫婦役

・・・・・・・・・・

温泉で有名な土地で、若い夫婦ばかり行方不明になるという事件が続いた。警察がいくら捜索しても、誰ひとりとして見つからないとのことだ。


これは鬼の仕業だと判断されたこの事件の数々は、鬼殺隊によって捜査が行われることになった。

しかし、どの隊士を派遣しても何の手掛かりも掴めなければ、鬼の足跡を辿ることもできていな い。

そこで、男女の隊士が一組になって夫婦役を演じながら任務に臨むこととなった。


温泉地から自分の警備担当地区が最も近か

った実弥にその任務が命じられた為、彼は頭を抱えていた。

しのぶや蜜璃は別の任務で同行できないという。そもそも彼女らと夫婦役など、妙な気を遣ったり苛々したりで鬼退治の前に疲れそうだ。

かといって、一般の女性隊士に頼むのも気が引ける。

比較的仲のいい伊黒に頼むという手もあったが、あっさり断られた上にネチネチと文句を垂れられたので諦めた。

時透は記憶が保てないし、まだ幼い彼を巻き込むのも後ろ髪を引かれる思いだ。


どうしたものか。他に女装させて違和感なさそうな奴……。


「あ」


1人でいるのに声をあげてしまった。


「爽籟。聖麻琴に頼みたいことがあるっつって伝えてくれねえか」

《承知シタ》





2時間後。

時々一緒に行くようになった甘味屋で待ち合わせた実弥と麻琴。


「急に呼び出して悪かったなァ」

『いえ。どうしたんすか』


お気に入りの外郎(ういろう)を黒文字で丁寧に切り分け、口に運ぶ麻琴。


「…ちと頼みがあってな」

『はい』


実弥もおはぎをひと口齧り、抹茶で喉に流し込む。


「明日出発の任務に、同行してほしいんだ。……その…女装で…」

『女装で??』


予想外の言葉だったのか、麻琴が青紫色の瞳を大きく見開いてこちらを見た。


『不死川さんは男に女性の格好させるのが趣味だったんすか……』

「違ぇよ。夫婦役を演じながら2人一組での任務なんだよ。連れてけそうな女がいなくて困ってんだ。男に女装してくれ、とか…お前しか頼めなくてよォ」

『なるほど。どうりで今日はなんか、いつもの悪党ヅラがぱっとしないなと思ってました』

「悪党ヅラで悪かったな」


わしわしと頭を搔く実弥。


『…で、俺が奥さん役なんですか?不死川さんが俺の女房でもいいんですよ?』


口の端を片方だけ上げて笑う麻琴に、実弥は今、目の前の男はこの状況を面白がっていると悟る。


「こんな悪党ヅラの女房がいるかよ。綺麗な顔立ちしてるお前のほうが違和感ねえだろうが」

『そうすか』


残念、とでも言いたげに麻琴が小さく笑った。


『ま、明日以降は今のところ仕事入ってなかったんで、奥さん役やってあげてもいいですよ 』

「マジでか。助かるわ!」


ひとまず交渉成立だ。


持ち帰り用の団子や饅頭を奢ってやり、軽く明日の打ち合わせをして2人は別れた。







翌日。

調べを行う土地。待ち合わせ場所に早めに着いた実弥。普段は隊服を着崩し、豊かな胸筋や傷痕を露わにしている彼だったが、今日はきちんと着物を纏っていた。



『不死川さん』


背後から聞き覚えのない声がしたので振り向くと、そこには実弥が思わず息を呑むほどの美しい娘が立っていた。


短い栗色の髪を頭の横で編み込み、花の形の髪飾りを着けている。

華奢な身体を包みこんだ着物は淡い桜色で、臙脂色の袴を合わせていた。

青紫色の瞳と、柔らかな目元。淡い桃色の頬と唇。


「……っと…お嬢さん、俺のこと知ってんのか?」


初対面?なのにも関わらず自分の名前を呼んだ彼女に、実弥はどぎまぎしながらたずねてみる。

すると、娘は可笑しそうにくすくすと笑った。


『不死川さん、俺ですよ。聖麻琴』

「は!?」


綺麗な顔立ちの娘の喉から発せられた、その容姿に似合わない低い声に、実弥は素っ頓狂な声をあげてしまった。


『ちゃんと言われた通り女装して来たんですよ』

「うわ…!マジか。いつもと全然違うじゃねえか」

『化粧は“化ける”って字を書きますからね。…どうすか?俺の女装は。可愛いっしょ?』

「お…おぉ……」


顔と声や口調が合わなさすぎて脳の処理が追いつかない。


「とりあえず、その辺を散策しながら例の事件について聞き込みを進めるかァ」

『そっすね。行きましょう、“あなた” 』


後半は先程の若い娘の声でそう言って、にっこり笑い、腕を組んできた麻琴。


「!?お、おい…」

『何びっくりしてるんすか。俺たち…じゃなかった。私たち夫婦でしょう?“あなた” 』


男の声から女の声に、そして男の声に、滑らかに声色を変えながら話す麻琴。また面白がっているようだ。


「分かったから!頭が混乱すっから俺と話す時はいつもの声で喋れ!」

『はいはい』


あくまでも夫婦役なので、実弥は仕方なく、麻琴と軽く腕を組んで歩く。


ちらりと横目で麻琴を見ると、斜め上からの彼女(彼)もとても絵になる美しさだった。

風に靡く短い髪。先端が少しカールした長い睫毛は髪と同じ栗色。

スッと通った鼻筋、形のいい唇。



…化粧だけでこんなに変わるもんなのか……?



下手をすればそこらへんの女性よりも美しい同僚(中身は男)に、実弥は不覚にも自らの胸の鼓動が速くなるのを感じた。




観光客に紛れて聞き込みを行う最中は、麻琴は若い娘の声で話す。容姿も所作も美しく、物腰柔らかな彼女(彼)に、男も女も顔を綻ばせて知っている情報を開示してくれた。

麻琴曰く悪党ヅラの自分だけでは、恐らくここまでの情報を得られなかったかもしれない。


麻琴は演技が上手かった。女装している男ということをつい忘れるくらいに、“妻”としての振る舞いがごくごく自然にできていた。









一旦宿に行き、夜の任務に備えて食事をとる。

向かい合って料理を口にする実弥と麻琴。


「…なァ。気になってたんだけどよ。お前の髪、地毛を結んで飾りを着けてるのはなんでだ?」

『ん?…あ、長い髪の鬘でもいいのにってことですか?』

「ああ」

『鬼に遭遇した時に取れたら男だってバレるじゃないすか。若い夫婦を狙う鬼をおびき寄せるのにそれはマズいかなと。それに、髪が長いと邪魔になりそうで』

「なるほどなァ」


麻琴も彼なりに色々と考えての格好だったようだ。


「…あとよ、お前、背ェ縮んだか?普段より少し背が低くなった気がするんだが」

『……不死川さん…』


はぁ…、とあからさまに溜め息をついて、麻琴がじとっとした目で実弥を見た。

普段は甘露寺と同じくらいの筈の身長が、この任務では伊黒と変わらないくらいになっていた麻琴に、実弥は違和感を覚えていたのだ。


『……デリケエトな話題をわざわざほじくるなんて。自分の本当の背丈は今の状態です。普段はシークレットブーツっていう、身長を高く見せる細工の靴を履いてるんですよ』

「そうだったのか」


言われてみれば確かに、普段の彼は草履ではなく変わった形の靴を履いていた。…そう、蝶屋敷にいるあの少女が履いているような。それにはそんな理由と細工があったのか。



なんだ。身長を気にして細工するような可愛い一面もあるんだな。



ふっと笑みを浮かべる実弥とは対照的に、むすっとした表情で箸を口に運ぶ麻琴。








少しずつ辺りが暗くなり始めた頃、腹ごしらえを済ませた2人は昼間散策した表通りに出る。

鬼殺隊の制服では鬼が出てこないおそれがある為、2人とも着物に袴姿だ。袴の裾が邪魔になるので、実弥は足に脚袢を巻いている。日輪刀は外から見えないように腰に挿し、上から羽織を着ている。麻琴も刀を隠すため、同じようにしているらしい。



事件のせいで用心しているのか、通りは灯りがともっているのにも関わらず、人の姿が見えない。今鬼が出てきてくれるなら、このほうが戦いやすい。




『……不死川さん』

「ああ。“いる”な」


好都合にもまんまと鬼が姿を現した。


『はい。囲まれました。少なくとも10匹はいます…』


まだ女のふりをしている麻琴は女性の声で言葉を発する。


その直後、敵が動き出した。それと同時に実弥と麻琴は羽織を脱ぎ捨て、抜刀する。


「麻琴!お前は前の奴らを殺れ!俺は後ろだ!」

『はい!』


二手に分かれて鬼と戦う。


「何だよこいつ女のくせに剣なんか持ってやがる!!」

「鬼殺隊だろうが!女もいるんだよ!!」

「男のほうは柱だ!しかも稀血!普通の人間を食うより倍強くなれるぞ!!」


鬼が口々に叫びながら襲いかかってくる。

鬼は群れないと聞いていたが、例外もあるようだ。



ズバン!!

ズシャァッ!!


それぞれの剣技で鬼を倒していく。しかし相手も素直にやられてはくれない。幻覚を見せてくる者、分身する者、怪しい液体を吹き掛けてくる者など、妙な血鬼術のせいで思っていたより苦戦してしまう。



「オラオラァ!てめえらの大好きな稀血だぞ!」


いつものように自身の身体に傷をつけて血を流す実弥。

彼の血の匂いに鬼たちが酩酊する。


バスンッ!!

ザクッ!!


実弥の血の匂いに酔った鬼たちを一気に片付けていく。




「何だこいつ!!女じゃないのかよ! 」

「可愛い顔してるのに男だってよ!!」


麻琴が相手をしている鬼たちの悲痛な叫びが聞こえてくる。

実弥がそちらを見やると、麻琴のほうも敵の手の内を把握しきったのか、術や攻撃を躱しながら涼しい顔で剣技を繰り出している。


水柱のそれと同じ呼吸や技の筈なのに、何かが違う。娘の姿をしているからだろうか。彼のよりももっとしなやかで、優美ささえ感じる麻琴の水の呼吸の剣技。



他所見をしながらだったが、実弥は自分が相手をしていた鬼たちを全て倒した。

ふぅ…、と小さく溜め息をつき、麻琴の戦況を確認すると、彼も最後の1体を葬り去ったところのようだ。



「全部殺ったか」

『はい、多分』

「とりあえず、お疲れさん」

『はい。不死川さんも』

「おぅ」


お互いの拳を軽くぶつけ合い、任務完了の連絡を鴉たちに頼み、隠が事後処理に来てくれるのを待つ。



『…不死川さん。またスパスパ自分の身体傷つけて……』


眉を寄せる麻琴の視線の先には、まだ血が流れている実弥の左腕。


「あぁ。ついいつもの癖でな」

『もー。薬塗るから腕出してください』


呆れたように言いながらも、麻琴は懐から取り出した自作の薬を実弥の腕の傷に塗り込んでいく。


そして、麻琴がふと何かを思いついたような表情をしたのを、実弥は見逃さなかった。


『…全く。ご自身のこと、もっと大事になさってください。1人だけの身体ではないんですよ、“あなた”』


夫婦設定を再開したのだろう。麻琴が潤んだ瞳でこちらを見上げながら、娘の声で話し掛けてくる。


「う゛っ…お前それやめろォ……」

『どうしてですか?私はこんなにもあなたのことを大切に想っているというのに』


麻琴が抱き着いてきて、一気に全身が熱くなるのを感じた実弥。



落ち着け!こいつは男だ!女装した男!!



自分の反応を見て面白がっているのだと頭では分かっているが、可愛らしい娘の姿と声に、不覚にも胸の鼓動が速くなってしまう。


『不死川さんがすーぐ自傷するから、お仕置きです』

「やめろォ……」

『い・や♡』


振りほどけばいいのに。軽くどついてやればいいのに。男といえども女の姿形をしている相手には何故だかそれができなかった。

そういえば、今日の女の姿の麻琴はやけに華奢だ。




まごまごしているうちに、隠が到着。風柱と、その傍らにくっついている見知らぬ美しい娘に、一同驚いて覆面から覗いている目を大きくかっ開いたのだった。







つづく

この作品はいかがでしたか?

56

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚