テラーノベル
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とある日の朝陽に見守られながら出逢い――、再会を経てはまた離れ――、天の気まぐれに後押しされては想いを通わせ――、ついにはひとつの住まいで寄り添い合いながら愛を贈り合う日々を過ごすようにもなった法雨と雷は、その冬――、二度目となるクリスマスを迎えていた。
そんな二度目のクリスマスもまた、天から純白が降り注ぐ――ホワイトクリスマスとなった。
それゆえ、その日は――、天から舞い降り、地上を純白に染め上げる冬の従者たちのお役目を邪魔せぬよう、多くの人々が屋内で過ごす事を選んだためか、法雨の経営するバー〈Candy Rain〉は、昨晩よりも一層大きな賑わいをみせていた。
― Drop.028『 The SUN:U〈Ⅰ〉』―
吐く息すらもすぐさま白に転じ――、ひとつ歩けば純白の絨毯が冬の音を奏でる――、そんな、クリスマスの夜。
その日の仕事を終えた雷は、街々を彩る煌めきをゆったりと楽しみながら、“特別贔屓にしている”バーへと向かっていた。
そして、その――すっかりと馴染みのある存在となったドアベルから心地よい歓迎の音を受け、バーへと入ると、長身で凛と落ち着きのあるユキヒョウ族のバーテンダーと、冬の従者と同じく純白の毛色をもつ――元気で小柄なネコ族のバーテンダーが、揃って雷を出迎えた。
「――あ。――いらっしゃいませ。――メリークリスマスです。雷さん。――お待ちしておりました」
「――あ~! 雷さ~ん! ――メリークリスマスです~!」
「メリークリスマス。――桔流君。姫君」
そうして、ドアベル同様――、この二年の間ですっかり顔馴染みとなったバーテンダーたちに挨拶を返した雷は、桔流と姫の毛色を改めて見ては、言った。
「やっぱり、この季節は、二人の毛色がより綺麗に映えるね」
すると、大小肩を並べた二人は、嬉しそうに笑んだ。
「ふふ。――有難うございます」
「えへへ~。――雷さんにそう言ってもらえると、今夜のお仕事も捗っちゃいます~」
そんな二人へ、雷がまたひとつ笑みを返すと、桔流が道を開けるようにして言った。
「あ、つい引き留めてしまってすみません。――どうぞ、こちらへ。――いつものお席、空けておりますので」
「あぁ。こちらこそ、忙しい所すまない。――いつも有難う」
「いえ、とんでもございません。――では、お水をお持ちしますので、少々お待ちください」
そうして――、法雨と雷の“関係”がスタッフたちに広まってから、いつの間にか“隣席のない”一画に変わっていた彼の特等席――入り口寄りのカウンター席へと案内された雷は、美しく一礼をした桔流に礼を言うと、丁寧にコートを脱ぎ、座り心地の良い洒落たバーチェアにゆったりと腰かけた。
「――お待たせいたしました。お水を失礼いたしますね」
「あぁ。有難う」
そんな雷がメニューを眺めながら、ひとつ落ち着いたところで、ほどよく声をかけた桔流は、温かな手拭きと共に、果実の香りを纏ったフレーバーウォーターを丁寧に据えた。
「――ご注文はお決まりですか?」
それに次ぎ、桔流が笑顔で問うと、雷はメニューを片手に言った。
「そうだね。――じゃあ、今夜はスノウカードを頂こうかな」
つい秋頃までは、クラフトビールをひとつ目として馴染ませていた雷だが、冬に入ってからは、まずその身を温めるべく、ウィスキーをひとつ目とするようになっていた。
そんな雷が、季節のメニューから選んだウィスキーの名を告げると、桔流はにこりと笑んで応じる。
「かしこまりました。――それでは、ストレートでお持ちしますね。――……と、あと」
そうして、バーテンダーの役目をひとつこなした桔流は、そこでしばし声を潜めると、
「――法雨さん。――もう少しで出てきますので……」
と、続けた。
すると、その桔流に、雷は、
「あぁ。――ははは。有難う。――じゃあ、“慌てずにどうぞ”と……」
と穏やかに笑っては、伝言を託した。
桔流は、そうして伝言を賜ると、愛嬌のある笑顔で言った。
「ふふ。了解です。――お任せください」
そんな桔流は、一度バックヤードへ入るなり、再びフロアへと戻ってくると、美しい琥珀色を揺らがせるグラスと、目新しい前菜を、雷のもとへと送り届けた。
雷は、その桔流にまた丁寧に礼を告げると、彼が届けてくれた美味を楽しみながら、先々のスケジュール確認をするべく、スマートフォンを取り出した。
すると、不意に振動したスマートフォンが、メッセージの到着を報せた。
雷は、その報せが示す送り主の名――“京”の字を見ては、漆黒の三角耳をやんわりと立て、少しばかり眉を上げる様にしたが――、メッセージの中身を確認するなり、ふ、と笑むと、そのまま返事を打ち始めた。
それから少しして、その京とのやりとりを終えた雷は、ふと、馴染みのある声を聞きつけるなり、耳が向くに倣い、そちらに視線をやった。
「アラ。いらっしゃいませ。お久しぶりですね。ハンターさん? ――メリークリスマスですわ」
すると――、先ほど来店したらしいクロヒョウ族の客に、法雨が声をかけていた。
雷は、その様子を確認するなり、ひとつ苦笑した。
と云うのも、そうして声をかけられたクロヒョウ族の彼は、何やら動揺しているらしい様子であったからだ。
恐らくは、何やらと法雨にからかわれたのだろう――。
そう思いながら、これ以上の盗み見も無礼と判じた雷は、再び手元に視線を戻すと、テーブルの色を交え始めた琥珀色を、ゆったりと飲み干した。
そんな雷が、すっかりと軽くなったグラスを優しく降ろしてやると、そのグラスの向こうから耳心地の良い声が贈られた。
「――メリークリスマス。雷さん」
それに顔を上げると、雷もまた、微笑みながら挨拶を贈った。
「メリークリスマス。――法雨さん」
そんな雷に、法雨は幸せに満ちた笑顔を返すと、ふふと笑った。
雷は、その様子に愛おしげに笑みを返すと、次いで、店内を見やりながら言う。
「今年も大盛況だね」
それに、法雨は満足げに言う。
「ふふ。そうでしょう? ――今年も、クリスマス限定の特別メニューをたっぷりご用意してたから、本当に嬉しいわ。――クリスマスの恒例だけど、今夜も、ご予約頂いたお客様だけでほぼ満席なの」
「今年もそうなのか。――流石だよ。――あぁ、それと、今日の前菜は初めて見るものだったけれど、――これも、すごく美味しかったよ」
そんな法雨に称賛を贈った雷が、今しがた食し終えた小皿を示して続けると、法雨はそれにも喜びの笑みを零し、合せた両手を頬に添えるようにして言った。
「まぁ、嬉しい。――新しいお前菜も気に入ってくれたのね?」
「あぁ。すごくね。――メニューに無いのが惜しいくらいだよ」
その法雨に、雷が頷き言うと、法雨は酷く満足げに言った。
「ふふ。まさかそこまで気に入ってもらえるとは思わなかったけれど、――“狙い通り”、お口に合ったみたいで嬉しいわ」
その法雨の言葉に、雷がはてと不思議そうにすると、法雨は楽しげに続ける。
「実は、今日のお前菜、――雷さんが気に入ってくれたらと思ってレシピを練ったものなの。――だから、そんな風に言ってもらえて、とっても嬉しいわ。――因みに、気に入ってもらえたら、明日も召し上がって頂こうと思って、家での分も作ってあるの。――だから、良かったら家でも召し上がって」
雷は、そう言いながら小首を傾げた法雨に、驚きながらも嬉しそうに言った。
「そうだったのか……。それは嬉しいな……。――じゃあ、家で頂けるのも楽しみにしているよ。――有難う」
そんな雷に、またにこりと笑んだ法雨は、
「ふふ。こちらこそ」
と返礼すると、綺麗に空になった小皿とグラスを受け取っては、次のオーダーを尋ねた。
そして、そんな雷から受け取ったオーダーに応え、談笑を交えながら、クリスマスメニューの一員でもあるシャンパンカクテルを仕上げた法雨は、透き通った紅色を泡立たせたシャンパングラスを雷の前に上品に据えると、ふと思い出したようにしては、礼を述べたばかりの雷にこそりと言った。
「――あ、そうそう。――聞いて、雷さん。――実はね……、――つい最近、――あの桔流君にも、とうとう“お相手”が出来たのよ?」
雷は、そんな法雨からの報せにピンと耳を立てては、冬毛でより大ぶりになった尾をひとつ揺らすと、シャンパングラスを持つ手をひとつ止めて言った。
「なんだ。そうだったのか……。――それは、おめでとうを言い損ねてしまったな……」
法雨は、その雷に、何故か楽しげにして言った。
「ふふ。――じゃあ、ぜひ後で言ってあげて。――すっっっごく照れくさそうにするから、――とっても可愛いわよ」
「おや、それは珍しいな。――クールな彼がそんな反応をするなんて。――それじゃあ、ぜひお祝いを伝えないとだな。――楽しみにしておくよ」
法雨から聞いていた話では――、そんな桔流もまた、過去に何かしらの事情があり、数年ほど前から、法雨と同じようにして“意識的に恋愛事を避けている”との事だった。
だが、その桔流にもついに、心を許せる“かけがのない人”が出来たというのだから、それは、親しき者の門出のようで、雷にとっても大変喜ばしい事であった。
そんな“慶び”を胸に、愛する人が手掛けたカクテルを改めて口にした雷は、はたと思い立つと――、愛し人との時間を楽しみながらも仕事に精を出している法雨に言った。
「あぁ。――もしかして……、――桔流君のお相手というのは、――“あちら”の彼かな?」
その中、そうして問うた雷が、先ほど法雨にからかわれていた“クロヒョウ族の彼”を視線だけで示し、再び法雨に視線を戻すと――、法雨は、悪戯っぽい笑みを浮かべて言った。
「アラ、スゴい。――ご名答よ。――流石ね。刑事さん? ――あ。――今は、“名探偵さん”の方が良かったかしら?」
雷は、そんな法雨の言葉に笑いながら苦笑する。
「ははは。ご称讃を頂き光栄だが、――肩書きはどちらも遠慮しておくよ」
何と云う事はない――。
先ほど、ふと“彼”が視界に入った際――、ちょうどその向かいのカウンター内には桔流が居たのだが、“彼”と話す桔流のその横顔が、酷く幸せそうだったのだ。
彼らを特別な関係と判じた理由は、ただそれだけだ――が、それだけでも、十二分にその特別さを確信できるほどに、二人の表情には、互いへの愛が現れていた。
そして、その幸せそうな横顔をひとつ思い返すなり、その桔流へ、一足先の祝福を心の内で贈った雷は、次いで――、自身を慕う愛らしい若オオカミたちの事を想っては、苦しい日々を乗り越えた彼らにも、“かけがえのない人”と幸せになれる日が、一日でも早く訪れるよう祈った。
その中、その若オオカミたちに関し、ひとつ思い出した雷は、とある報せを法雨に紡ぐ。
「あぁ、そうだ。法雨さん。――京君たちも、しばらくしたら、こっちに来るそうだよ」
「まぁ、そうなのね」
そんな若オオカミたちのリーダー役をしていた京は、この二年を月日を経た現在も、変わらずと雷の助手を務めているのだが――、その京を慕うオオカミたちのリーダー役も未だ健在で――、元より彼らが繋ぎ合っていた深く強い絆もまた、褪せる事なく今も彼らを繋いでいるらしい。
その若きオオカミたちの事を雷がしばし想っていると、しばし難儀そうな顔をした法雨は、
「――もちろん。――後からでも、来てくれるのは嬉しいけれど……。――でも……、――その時に全員分の席が空いてなかったら……、――テラス席だわねぇ」
と言いながら、店に設けてあるテラス席を見た。
そのようにして、絆が酷く強固な彼らだが、その“連帯感”が強固過ぎるゆえか、誰一人として未だ恋人との出逢いを迎えられていないらしく――、先ほどの“報せ”に因れば、そんな彼らは今、一軒目の馴染みの店で、悔しみの反省会をしているとの事であった。
だが、法雨曰く――、そんな京たちが二軒目として法雨の店にやってきた際、もしも人数分の空席がなければ、彼らが聖夜を過ごすのは、法雨の視線の先に設けられた、あの――こんもりとスノーコーティングされたテラス席となるらしい。
雷は、そのテラス席を法雨と共に見つめると、零すようにして言った。
「それは大変だ……」
そして、雷がそんな感想を零したのを機に、二人は、ひとつ楽しげに笑い合った。
そうして――、そんな雷と法雨が、また温かなひと時を過ごしていると――、しばらくして、件の若オオカミたちが賑やかに来店した。
すると、法雨とひとつ視線を交わした桔流は、出迎えを担うようにして店の入り口へと向かうなり、せっかく入店した彼らを再び店の外へと連れ立つと――、“予定通り”、スノーコーティング済みのテラス席へと案内した。
――が、ただ動揺するオオカミたちの様子をひとしきり楽しんだ桔流は、法雨や雷、一部の客たちに見守られる中、満足げにすると、再び彼らを店内に引き連れては、“しっかりと空けられていた”団体客向けのソファ席へと案内した。
そして、その場で両手を腰に当てた桔流は、未だ狼狽するオオカミたちに胸を張る様にしては、また満足げにすると、特に何を言うでもなく、何食わぬ顔でカウンター内へと戻っていった。
そんな桔流の背を、一部の客たちと共に茫然としながら見送ったオオカミたちは、その場でしばらく固まった――が、ひとつ間を置いてから、止まっていた時が動き出すと、途端に安堵の声を交わしながら自身らの荷物を置き始めた。
その中、はたと思い出した様にした京は、仲間を代表し、法雨のもとへとやってくると、若衆全員で奮発して買ったと云うクリスマスプレゼントを贈った。
「――メリークリスマスです。姐さん。――大した物は買えなかったんすけど、俺たちからの日頃の感謝って事で、受け取ってもらえたら嬉しいです。――あ、それと、雷さんにも、――メリークリスマスっす。」
そして、雷へも、同じくプレゼントを手渡した京に、二人は礼の言葉を贈る。
「俺の分まで、いつも本当に有難う」
「お店に来てくれるだけでも十分なのに、いつも悪いわね。――有難う。大切に頂くわ」
すると、それに嬉しそうにした京は、それじゃ――、と言うなり、足早に仲間のもとへと戻っていった。
そんな、相変わらずと可愛げに満ちた彼らを想いながら、法雨と共に、その京の後ろ姿を見送っていた雷は、一区切りつけるようにして言った。
「――さて、京君たちも到着した事だし。――“人気者の店長さん”の独り占めは、ここまでにしておこうかな」
そうして、次に法雨へと向き直ると、御馳走様でした――と、ゆったりと席を立つと、空になったシャンパングラスを法雨に向けて丁寧に据えた。
そんな雷に、微笑みを返した法雨は、
「ふふ。お気遣い恐れ入りますわ。“お客様”。――それじゃあ、“独り占めの続き”は、また家で、ね」
と言うと、雷の指先に自身の指先をそっと重ね、するりと撫でるようにしては、シャンパングラスを受け取った。
その法雨に、
「あぁ。――楽しみにしてるよ」
と、愛を込め微笑み返した雷は、その足で若オオカミたちの待つソファ席へと向かった。
そうして――、その後――。
若衆の輪の中央へと招かれた漆黒色の兄オオカミは、喜ぶ弟分たちを可愛いがりながら、度々と最愛のレモン色を視界の端に入れては、多くの笑顔で満たされた最愛のバーで、純白と煌めきに飾られた黒曜色が白むまで、賑やかな一夜を楽しんだのであった――。
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