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朝陽は仕事でもプライベートでも、本能が働くと直感的に決断することがある。
そのときは迷いはないし、当然のように良い結果が出ることが多い。朝陽には先見の明があり、なにをやらせてもセンスがいい。
だから俺は朝陽が会社を作りたいと言いだしたとき、間髪入れずにやれと助言した。
そんな朝陽と比べたら自分は情けなくて小さい人間だなとつくづく思う。……そもそも比べる相手が間違っているか。
仕事を終えて帰宅しようとしたら、一階のロビーで伊地知さんとばったり鉢合わせた。
そういえば今日は忙しくて彼女の姿を見ていなかったから、偶然会えたのはうれしい。
「また黒くなったんじゃない?」
彼女は周りに誰もいないのを確認したあと、俺の顔を見ながらボソリとそう言って歩き出す。
ほかの社員の前では専務という立場の俺に対して敬語を使っているから、人目が気になったのだろう。
「夏は誰でも日焼けするよ」
「五十嵐くんの場合はサーフィンのしすぎでしょ。ていうか、それだけ海に行ってたら女の子たちからナンパされるよね。サーファーってモテそうだし」
「心配?」
冗談めかして返事をしたものの、今日の彼女は変だなと違和感を覚えた。
今の発言は、自分の目が届かないところで俺がほかの女性と遊んでいないかどうか気になっているとも取れるから。
海で仲間たちとサーフィンを楽しんでいたら、たしかに声を掛けられることはある。イケメンの朝陽が一緒ならなおさら。
だけど俺がチャラチャラと遊んだりしない人間なのは、彼女はわかっていると思っていた。決して出会い目的で海に行っているわけではないのだと。
「女の子にナンパされてもついて行ったりしないよ」
「……だよね。五十嵐くんはそういう人じゃない。だから中丸商事の福井常務にも気に入られてるんだもんね」
「……え?」
福井常務の名前が出た途端、驚いて一瞬歩みを止めてしまった。
急に俺の恋愛事情を探るような発言をするからおかしいと思ったんだ。
俺は無言のまま彼女の手首を掴み、ロビーを突っ切って会社の外に出た。
「ちょ、ちょっと五十嵐くん、どうしたの?」
彼女の大きな瞳が動揺して左右に小刻みに動く。
俺はまるで浮気がバレたような気持ちになったけれど、なにも悪さはしていないのだから堂々としていればいい。
福井常務の娘と会食の場で会ったことは、彼女の耳に入れたら不快に感じるかもしれないと思って伏せていただけだ。こっそりと隠れて見合いをしたわけじゃない。
それなのに、彼女がなにか部分的に小耳に挟んで誤解しているのだとしたら、きちんと釈明したい。
「もしかして朝陽からなにか聞いた?」
「朝陽くんじゃない。……営業部の部長が話してるのを、少しだけ」
アイツには口止めをしたから漏らさないだろう。
口を滑らせたのは、朝陽と一緒に中丸商事へ商談に行った営業部長だった。
「少しって?」
「五十嵐くんが福井常務のお嬢さんと結婚するかも、って話してるのが聞こえてきた」
朝陽にしても営業部長にしても、そんなふうに話題にするくらいだから、福井常務は相当乗り気で話をしていたのだろうなと想像がついた。
常務に悪気はないのかもしれないが、俺がいない場で決定事項のように言わないでもらいたい。
「気になる?」
「……私はなにか言える立場じゃないでしょ」
「俺が結婚してもいいの?」
さすがに「いいよ」と即答されたらダメージが大きいなと考えつつ、嫌だと言ってくれと念を送るように彼女の瞳をじっと射貫く。
しかしこんなにも彼女が不安そうな顔をするのは珍しい。
「しないよね?」
「ずるいよ。必死になって止めなくても、伊地知さんは俺が離れていかないって知ってるもんな」
俺が表情を緩めると、彼女はいたたまれないとばかりに視線をはずした。
「ずるい自覚はあるよ。私の自分勝手な性格のせいで五十嵐くんを振り回してることも」
それは違う、と俺は小さく首を横に振った。
鷹槻れん

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コメント
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うわ〜、この二人の空気感、すごくリアルでドキドキした……!伊地知さんの不安そうな「しないよね?」に、五十嵐さんの「ずるいよ」って返しが甘くて切ない🥀本人たちは気づいてないけど、もう完全にお互いを大事に思ってるのが伝わってくる。スピンオフも本編と同じくらい刺さるなあ。続き、静かに待ってます📖