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青谷 「性格悪くてすみません。」
一難去ってはまた一難、といった調子で終わらないタスクをこなすような生活に、もう飽き飽きしていた。
他がどうなのか知らないが、僕は当たり前のように上手くいかないことの方が多い。
困り事に愛されてしまったと自嘲するのはこれで何回目だろう。
『あの双子すごいよね』
『天才なんだろうなあ』
双子で賢いなんて好奇の目に晒されない訳もなく、動きにくい立場上態度や言葉を弁えなければいけなかった。
でも僕はそれに苛立って、いつも精神環境が荒れていた。
「なんかあったの?」
放っといて。
「相談したいことあったら言ってよ」
大丈夫。
「やっぱりなんか変だ」
なんでもない。
唯一自分を偽ることなく接していた弟にも、心配された時に限っては飽きるほど嘘をついた。
「そんな悩んでて大丈夫な訳ないだろ」
「…そういうの白々しいよ。いいから放っといて」
溜まった鬱憤が洩れだして、当たってしまったこともあった。
その時の顔は見ていないけど、多分呆れていたんだろう。自分は上手くやってのけていることを、双子の兄は癪に障るという理由だけで放棄しているのだから。
この一件で僕を心配するのは諦めたらしく、それからは何も詮索してこなくなった。
どうせこうなるんだから、はじめから諦めておけば良かったのに。なんて捻くれた言葉は飲み込んだ。
僕は次第に“いい子”を演じるのをやめて、根っからの優等生な言とは話さなくなっていった。
素直な言と捻くれた僕が同じ方向に進んでいくのが耐えられなくて、自分から反対へ進んだ。
落ちこぼれのくせに優等生のフリをしようなんておかしかったんだ。頬を伝うものを無視して眠った夜も数え切れない。
「僕なんていなければ良かったのに」
恨むべきは偽らせた環境だったのに、何故だか僕はその感情を自分にぶつけた。
両親が出かけていた夜、言と顔を合わせるのが気まずくて部屋にこもっているとドアがノックされた。
「…何?」
ドアも開けず、振り返りもせずに声だけ返すと予想外の言葉が耳に飛び込んだ。
「……あのさ。このままだとそのうち壊れて死ぬよ」
それは確実な真剣さを纏っていた。
でも、心底どうでもよかった。
「…分かった。ごめん」
以前のように否定するのではなく、受け入れたフリをした方が早い。そう理解できるほどには、自分を偽るのに慣れていた。
うん、という短い返事を最後に言は自分の部屋に戻ったようだった。
これで騙せたのか分からないけど、もし見透かされていたとしてもこれからは探られることはもう無いはずだ。
本当の僕なんて、僕だけが知っていれば十分。
壊れるなんて今更だし、そんなヘマをするつもりもない。もし壊れそうになったら、その前には死んでやるから安心してよ。
そう思いたいのに。
「ッ駄目だ…」
冷たい涙を、今度は無視できなかった。
「あーあ…」
わざわざこんな僕を気にかけるなんてことしなければ、僕も君も苦しまなかったのに。
本当に馬鹿だな。
涙を拭って、明日は仮面を被れるように目を閉じた。
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