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青谷 「素直じゃなくてごめんなさい。」
物心ついた時には、“いい子”を完璧に演じることができるようになっていた。
叱られたら反省したフリをすればいい。
具体的な改善策と綺麗事を並べて。
大体のことはそれで躱せると最初に気が付いたのも、小学生の時だった。
完全な素で接することができる人はいなかった。自分を偽りつつも僕には偽らず接してくれる双子の兄にすら、素をさらけ出すのが怖かった。
繕うのは苦ではないし、わざわざ弱みを見せる必要も無い。だからこそ誰にも何も言えずに虚無感が募っていった。
ある日を境に、兄は自分を偽るのに疲れたようで、人と対峙していないともぬけの殻のようになった。上の空なのか考え込んでいるのか、それすらも表情から読み取れなかった。
怖かった。
僕より先に消えるんじゃないか。壊れてしまうんじゃないか。
頭が不安でいっぱいになって、それからは何かと声をかけるようにした。
なんかあったの?
「放っといて」
相談したいことあったら言ってよ。
「大丈夫」
やっぱりなんか変だ。
「なんでもない」
そうして、兄は僕と距離を取ったのではなく、心を遮断したのだと理解した。心配したことを正直に言わなければよかった、と心底後悔した。
それからはこれ以上嫌われたくなくて、詮索しないようにした。
自分を偽ることをやめた兄の周りからは段々と人が減っていって、いつからか僕は僕に群がる人々に流されて前を向いていた。
見渡しても問はいなくて、周りに人が沢山いるのに孤独だった。
本当は嫌々進んでいるんだ。
本当は、問と一緒に立ち止まりたかったんだ。
そんなことを言っても辛くなるだけだと分かっていたから、言おうとすることもやめた。
両親が出かけていた夜、他人に本心を見せるのは最後にするつもりで問の部屋のドアをノックした。
「…何?」
無愛想な返事も構わず口を開いた。
「……あのさ。このままだとそのうち壊れて死ぬよ」
それでもいいの?
そんな意味を含めて言ったけど、本当は違かった。
それを恐れていたのは問ではなく僕。
最愛の存在を失ってしまったら、本当の僕も一緒に消えるから。
どうしようもないエゴをぶつけたのと同じだった。
「…分かった。ごめん」
数秒おいて返ってきた返事は予想通りで、僕に本当の自分を見せる気はないことがこれでもかと伝わってきた。当たり前のことだ。僕自身が素を見せなかったんだから。
絶望感はあったのに、涙は出なかった。
一種の諦めだったのかもしれない。
はじめから僕が素直だったら、何か変わってたかな。