…花吐き病 3
カチャリ
玄関の鍵が開く音がしたのに俺は混乱中で気づかないでいた。
ただこの苦痛から逃げたいとのことしか考えなれず、気配も感じられず、音が耳に届いても脳には届かず俺は息を荒くし水滴を落とすまま。
頭を片手で抑え頭痛を抑えるように手に力を入れ、もう片方の手は服を掴んで苦痛を抑えようとする。
すると突然肩に何か触れて体がビクッと反応する。
恐る恐る振り返ると、ひなこが居た。
「────」
何か言っていたけど俺の耳には入って来ず、ホッとして体に力が抜けて苦痛も引いた。
そして俺は力が抜けすぎたのか倒れてしまった。
目を覚ますと天井が見えた。ベッドの上で俺は寝ていて、上体を起こしふいに周りを見渡すと、ベッドに顔を腕で埋めながら凭れて地面に座って寝ているひなこが居た。
スースーと寝息がたっている。
時間を見ると三時半で、最後に見た時間は二十一時で、撮影が終わった時間だった。
俺は編集もしておらず、仕事を貯めてしまった。
朝ご飯にしようとベッドから降り、キッチンに向かう。冷凍庫からナッシュと言う、種類が多く栄養バランスも良くて美味しい、糖質三十グラムで塩分二・五グラム以下で人気の冷凍弁当。
一番好きなのを取ってレンジに入れ、タイマーを設定して温める。
その間に、仕事の準備をするため部屋に戻りパソコンの電源を入れる。
お茶が無くなった空のペットボトルを手に取りゴミ箱へ捨て、新しいお茶の入ったペットボトルを取って仕事部屋のテーブルに置く。
廊下を出てリビングに行くと後ろ姿のひなこが立っていた。
ひなこは後ろに目線を向け俺に気付いた途端、ガッと俺の両肩をひなこの両手で捕まれ収められた。
どうしたのと聞こうとすればそれは遮られ、ひなこが口を開いた。
「ぷっちー大丈夫なの!?」
「え、何が…?」
威嚇する様な表情で大声を出すひなこ。
それに対し、うるさ、と瞼をぎゅっと閉じて質問を質問で返した。
「撮影終わった後ちょっとぷっちーの部屋片付いてるかな〜って思って行ったらなんかぷっちーの変な声が外まで聞こえて、それで合鍵で中入って部屋行ったらぷっちーが頭抱えて苦しんでたから…。」
「肩触れたら苦しそうにしてるぷっちーこっち見て力抜けた様に崩れ落ちてそのまんま寝ちゃったの。大丈夫?」
あの時の状況を教えてくれて、俺はそうだったのかとすぐ理解した。
あの時苦しんでたのは、いむに俺が花吐き病に感染していることがバレそうになったから。この悩みを誰かにぶつけたい、こいつだから信用してもいいかなと、俺は少しでも楽になりたくて病の話しをひなこにしてしまった。
全部言ってしまった。
「実は花吐き病に感染しちゃってあの時はバレそうになって混乱してた」ってだけ言いたかったのに、いむが好きだってこと、このまま終わらせるつもりでいること、全部言ってしまった。
「何それ…無責任すぎるよ…」
ひなこは手や肩を震わせて顔が見えないでいた。
「私から見てだけど、いむさんはぷっちーの事好きだよ!ぷっちーはそれを受け入れてないだけ!それで終わらせようとするなんて無責任にも程があるよ!」
ひなこに怒鳴られ、俺は何故怒られているのかあまりわからなかった。
でも、ひなこは怒っているのとは少し違って悲しんでいた。
「ぷっちー、このままで終わらせようとしないでよ…」
ぎゅっと俺の胸ぐら掴んだまま蹲った、水滴を地面に落としながら。
「私から見てって言ったけど、いむさん本当にぷちさんのこと好きだよ」
期待してしまう、信じたい言葉。
「でもあいつ、俺の事恋愛感情で見てな─」
「受け入れられないならいっそ告れば!」
俺の言葉を遮って、ひなこまで無責任なことを言い始め、目を赤くしたまま目を合わせてくる。
「告って後悔しない様に今の考えでいるんじゃん…」
言い訳を気軽にペラペラと口に出して、俺が苦しまないようにする。
「言い訳無用!いむさんに──」
「え、俺が何?」
「…え?」
コメント
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めっちゃ最高! 口角どっか行っちゃったよ! 発作起こった!