テラーノベル
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まるで薔薇の棘が突き刺さるような継母の鋭い眼差しに、堪らず一歩後退りたくなった。それでも、震えだしそうな足に力を入れて奥歯を噛み、耐えながら継母を真っすぐ見つめた。
口答えは許さない。そう叩き込まれてきたけど、これだけは引き下がれないわ。浪費家の継母にレドモンド家を好きにさせる訳にはいかないもの。
私は、セドリックが戻るまでなんとしてでも家を守りたい。セドリックには、幸せな家庭を持ってほしいの!
脳裏に浮かべたのは、薔薇の花に包まれたガゼボで笑う愛しい弟の後ろ姿。その横には、まだ見ぬお嫁さんがいる。心優しいセドリックなら、きっとお嫁さんを大切にして、レドモンド領を守ってくれるわ。そのためにも、我が家を没落貴族になんて、させてなるものですか。
私の心が見えたのだろうか。継母の目がつまらないものを見るように、すっと細められた。
「無能なお前を迎えたいだなんて、ロックハート家も見る目がないわね」
鼻で笑い、継母は悪趣味な扇子を開いて口元を覆った。
「お前が望むのであれば、ぜひにも、長男の嫁に欲しいですってよ」
「……ご長男、様?」
「稀代の魔術師と謳われる、魔術師団の団長ヴィンセント・ロックハート」
継母のしたり顔に、背筋の凍る思いがした。
よりによって、ご長男のヴィンセント様だなんて。
お茶会にすら出たことのない私にだって、彼の噂は色々と舞い込んできているわ。一師団並みの魔力を有しているヴィンセント様には誰も逆らえないとか、女嫌いでご縁談を断り続けているとか。他にも、ヒグマのような大男だとか、にこりとも笑わず、眼光だけで人を殺せるなんて話もあったわね。
それでも、ロックハート家の長男という肩書は魅力的だからか、ご令嬢を持つ諸侯の方々は諦めず、縁談を持ち掛けているらしいけど……。
社交界に出たことのない私だから、噂のほとんどはダリアから伝え聞いたことだけど。真実でないとしても、そんな噂が立つのだから、一癖あるどころの話でもないわ。会話だって成立するか怪しいのに、結婚だなんて──
「む、む、無理です!」
「お黙り! お前はロックハートで、その無能な血をもって無能な子を成せばいいのよ!」
「……は?」
無能な子を成せばいいって、どういう意味よ。
全力で断る私に、継母は奇妙なことを言い始めた。
「お前が無能だと、ロックハートは知らないのよ。この家の者以外で知るのは、ペンロド公爵夫人くらいでしょ」
赤い口が、まるで物語の悪女のようにつり上がる。いいえ、ようにではなく立派に醜悪な悪女の笑みだわ。何を企んでいるかは分からないけど、きっと、レドモンド家にとって悪いことに決まっている。
「レドモンド家は、優秀な魔術師を輩出してきた家柄。当然、お前も優秀な魔女だと思ってるのだろうね。だから、その血が欲しいだけ」
パチンっと音を立てて扇子が閉ざされる。すると、継母の背後に輝く光の玉がいくつも浮かび上がった。
「でも、お前は光すら灯せない無能。これほど面白いことがあるかい?」
ギラギラとした悪趣味なドレスが光に照らされ、これでもかと輝き出す。
愛しい弟のため、レドモンド家のために縁談を全力で断ろうと決意していた私の熱い心が、一瞬にして冷えた。
そう、私は無能な娘。魔術師の家系に生まれながら、何一つ魔法を習得できなかった出来損ない。
脳裏に、冷ややかなお父様の眼差しが浮かんだ。その落胆した物言わぬ亡霊が、小さくため息をついた。どうにか、その亡霊のように現れた冷たいお父様の顔を振り切ろうと、愛しい弟セドリックの笑顔を思い出す。無能と罵られても、弟の為に私は闘わなければならない。継母に負ける訳にはいかないのよ。
消えかけそうになっていた気力を奮い立たせた。震える手を握りしめ、カラカラに乾いた喉に唾液を流し込む。すると、継母がふんっと鼻で笑った。
「長いこと、お前を隠してきたかいがあるってものね。お前は望まれながら嫁いだ先で、無能な子を産むのよ」
「仰る意味が、わかりません……」
「本当に無能だこと」
閉ざされた扇子の先がとんっと私のお腹を叩いた。丁度、子宮の辺りを、繰り返しとんとんっと軽く叩かれる。それが意味していることを考え、思わず頬を染めてしまった。
咄嗟に継母から目を逸らした。
「お前の価値なんて、子を成すことくらいじゃないか。それも、無能な子をね」
この人は何を言ってるのかしら。
子を成す以前に、私なんかが嫁いでも喜ばれるはずがないじゃない。
コメント
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うわ、継母、悪役感がすごい……「無能な子を成せ」って何の策略? 主人公が弟のために必死で抗おうとする姿に胸が締め付けられたよ。自分を無能と卑下しながらも、弟の笑顔を思い出して踏ん張る場面がとても印象的でした。ヴィンセント様の噂も気になるし、この縁談の真相がどう転ぶのか、続きが気になって仕方ないです!
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