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✦『風間君の“ひとこと”を聞き逃さないのは、いつも君だけ。』
翌日。
昼休みの校舎裏。
風間君は、昨日ラブレターを渡そうとしてきた女の子が
しょんぼりしているのを見つけた。
(……しんのすけのせいだ……)
風間君は思わずため息をつき、歩み寄る。
「昨日はごめん。しんのすけが……その……」
女の子はモジモジしながら首を振った。
「ううん……しんのすけくんは悪くないよ。
だって……全部、風間君のこと見てる感じだったから……
あれはあれで、なんか納得したというか……」
(……全部、見てる……?)
風間君の胸が、少しだけざわつく。
そこへ——
「おー、風間君。何してんの〜?」
やっぱり来た。
しんのすけだ。
風間君は慌てて手を振る。
「な、なんでもない!気にしないで!!」
だけど、しんのすけは女の子の様子に気づき、
風間君の前にひょいっと出る。
「昨日はごめんね〜。
君の字は読めないけど、気持ちはちゃんと伝わってたゾ」
「う……うん……ありがとう……」
その優しい声に、女の子は少し笑った。
そして、ペコッとお辞儀するとそのまま走っていってしまった。
ふたりきり。
風間君はため息をつく。
「……しんのすけ、なんでいつも勝手に入ってくるの」
「ん〜?風間君が変な顔してたから?」
「変な顔……?」
しんのすけは風間君のすぐ前に回り込み、
ジッと覗き込む。
「ほらその顔。
誰かに何か言いたいけど言えない時の顔〜」
風間君はドキッとして一歩後ずさる。
「べ、別に……そんなこと……!」
しんのすけは首をかしげ、小さく笑った。
「……昨日さ。
ラブレター、もらってたら……返事どうしてた?」
風間君は一瞬だけ迷ってから、
ほんの小さな声で答える。
「……わからない。
でも……多分、断ってたと思う……」
「なんで?」
その問いに、風間君は顔を伏せる。
(なんでって……
言えるわけないじゃん……
だって……)
しんのすけは静かに待っている。
風間君は、唇をかすかに震わせながら答えた。
「……“今、好きになりそうな人”が……
いたから……」
言ってしまってから、顔が真っ赤になる。
しんのすけはしばらく黙ったあと、
ふっと笑った。
「そっか。そうなんだ〜」
「……な、なんで笑ってるの……?」
「いや、風間君がそういう顔でそういう事言うの、
ちょっとイイなって思ったから」
風間君はもう顔を上げられなかった。
風が吹く。
校舎裏の静かな空気に、
風間君の心臓の音だけがやけに大きい。
——しんのすけは気づいている。
風間君の“好きになりそうな人”が
誰なのか。
いや、ずっと前から気づいていた。
だから今日も、
風間君の前に立って、全部受け止める。
しんのすけはそっと風間君の肩に手を置き、
優しく言った。
「風間君。
だいじょーぶ。オレ、ずっとそばにいるゾ」
その言葉に、風間君は胸が痛いほどあたたかくなる。
——まだ恋じゃない。
でも、それに限りなく近い何かを
ふたりはもう掴み始めていた。