その日は雨が降っていた。
どんよりしていて、薄暗い。
空には星一つない。静かな夜だった。
ただ、僕たちの声だけが響いた。
その日、僕はマンションの屋上へ向かって
いた。少し肌寒かった。
屋上には、珍しく人が居た。
黒く長い綺麗な髪を靡かせ、空を見上げていた。僕は、少し見惚れていた。
すると女の子は振り向き、僕と目が合った。
消えてしまいそうなほど透明感のある肌。
虚ろな目。とても綺麗で目が離せなかった。
「何してるの?」
そう聞かれ僕は答えた。
「雨に打たれにきた。」
そう言うと女の子は優しい顔で言った。
「私も。」
そして暫く沈黙が続いた。
女の子が口を開く。
「ここから落ちたら死んじゃうかな?」
僕は少し驚いた。まさか死ぬ気なのか?
「死んじゃダメだよ、周りが悲しむよ」
咄嗟にそんな言葉が出てきた。
女の子は驚いた顔をして笑った。
「悲しむ人なんて居ないよ笑」
僕は何も言えなかった。
僕も同じだから。友達も家族もいない。
「死んじゃえば楽だと思わない?」
彼女はそう言って、柵に手をかけた。
確かに死んでしまえば楽なのかもしれない。
でも、死んでいいと思いたくない。
思って仕舞えば、僕は死んでしまうから。
否定したい。
「楽だと思わない。痛くて辛いと思う。」
必死に考えたが、これ以上の言葉は 出なかった。
「そっか。じゃあ、試してみようかな」
僕は焦った。目の前で靴を脱ぎ、柵の向こう側に行こうとしている人がいることに。
飛び降りようとしている彼女の顔は、
希望に満ち溢れているようにみえることに。
「待って!考え直して、!」
そう言った時には遅かった。
彼女は、”生……”と呟き、落ちていった。
彼女は優しい笑顔で泣いていた。
気づくと僕は、自宅のベッドに横たわっていた。さっきのは夢なのか?
夢にしては、妙に感覚が生々しかった。
それにしても、彼女は最後になんと言ったのだろう。
どこか懐かしい雰囲気だった。
今度は、幸せな夢が見たい。
そうぼやきながらいつも通り会社に向かう。
明日の夢はどんなのかな、、
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