テラーノベル
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気がつけば、俺たちはフェンスを乗り越えていた。
靴の半分がはみ出すような、コンクリートの細い縁に並んで立っている。はるか下には、小さく明かりの灯り始めた無機質な街並み。吹きつける風は、いっそう激しさを増して俺たちの身体を揺らした。
ふと隣を見ると、あの余裕たっぷりだった湊が、喉を小さく鳴らして冷や汗を流していた。
呼吸が浅い。彼がこんなにも怯えて、緊張している姿なんて初めて見た。
「……っ、るい、ちゃん……」
震える声で、ようやくいつもの『ちゃん付け』が湊の唇から零れ落ちる。
けれどそこには、俺を揶揄う余裕なんて微塵も残されていなかった。ただ必死に、目の前の現実から逃げないように自分を繋ぎ止めているだけの、痛々しい言葉だった。
それを見かねて、俺は相変わらずハイライトのない、でも酷く穏やかな目を湊へ向けた。
「……湊」
小さく、その名前を呼ぶ。
湊の視線が、弾かれたように俺の瞳に釘付けになった。
その瞬間、俺はふっと全身の力を抜いた。
重力にすべての身を任せるように、そのまま真っ逆さまに、後ろ向きへと身体を倒し込む。世界が反転し、網膜のなかに、燃えるような夕空が広がっていく。
俺の身体が、夕日の中に溶けていくように落ちていく。
「――っ、るい……!!」
視界の端で、湊が叫んだ。
いつもの『ちゃん付け』なんて剥ぎ取られた、魂からの、泥臭くて必死な叫び声。
湊は迷うことなく、落ちていく俺の身体に飛びつくようにして、フェンスの向こう側へと自ら身体を投げ出した。上から俺に覆い被さるようにして、その長い腕が俺の背中に回される。
赤く染まる空のなかで、二人の影はひとつに重なり、どこまでも、どこまでもまっすぐに落ちていった。
(終)
#BL
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#ネタバレ注意⚠️
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