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創作奇病がいくつか出てきます。作者の付け足した設定もあるため苦手な方はお避けください。
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窓を見れば、段々と暑くなってきた為強く日差しが建物を指しているのが分かる。
今日も何の変哲もない1日だった。朝だけソロの打ち合わせで昼からは作曲作業。暗くなる前に夕飯を買いに行くか、デリバリーを頼んでしまうか悩んでいたところで。通知が君の存在を思い出させ、同時に嬉しくする。
『元貴、ごめん』
メッセージを開くと浮き上がりかけた気分が凍りつく。連絡がまめではない涼ちゃんは、内容を端的に最初に送ってくることが多い。が、今までにない様な始め方に戸惑いつつ返信を考える。
『どした?』
『ちょっと、電話してもいい?』
ますます珍しい展開に、心拍数は早まっていく。平常心、何を言われても平常心と暗示をかけながら着信を待つ。
『あ、もしもし?ごめんね、急に』
いつもよりかなり低い声色に、背筋が凍る。頭で考える前に、まず何かあったと察した。
「…大丈夫だよ。それよりどしたの?電話なんて珍しいじゃん」
『そうかな?確かに、そうかも…』
そう言うと、急に黙りこくってしまった。静かな部屋は自分の呼吸と早まる心拍音、そして涼ちゃんの浅い呼吸しか聞こえない。質問攻めしたい気持ちをぐっと堪え、ゆっくりで良いよ、話せる?とだけ言い相手が喋り出すのを待つ。
『…っあのね……僕、その…びょうに…』
「ん?ごめん、もう1回お願い」
1分、も経って無いだろう。震えた声の涼ちゃんに、できる最大限の優しさを含めた声色で尋ねる。1呼吸おいて、意を決したように話した。
『…僕、奇病に罹ったの。多分、いや絶対』
『き、奇病…?って、なんだっけ…?』
どこかで聞いたことのある響きに戸惑う。が、君はともかくうちに来てくれと言うだけだった。何か言おうとしたが、ぶつっと無機質な音と共に時間が動き出す。急がないと涼ちゃんが危ない。そう思った時には体が勝手に動き出していた。
最低限の身支度を済ませ、身バレ防止のマスクとキャップだけ持って家を飛び出した。通りかかったタクシーを捕まえ、行き先を伝える。
「お兄さんそんなに焦ってどーしたの?今からディナーなのに遅刻でもしたの?」
「あー…。いえ、ちょっと大切な人が…危篤では無いんですけど…」
そこまで言って、後悔する。もし相手がこちらの立場に気付いたら根も葉もない噂を立てられてしまう。だが、相手は普通に心配の声をかけてきて意識すらしていないようだった。
「あの、運転手さん。奇病って知ってますか」
話すつもりはなかったが、たまたま会ったタクシードライバーくらいの関係なら軽い相談ができるだろう。溢れてしまいそうな焦りからそう尋ねていた。
「ん〜?奇病?聞いたことはあるよ。俺が中学の時だったかな、クラスメイトの女子が急に学校に来なくなってねえ。あんまり話したことは無いけど活発で優等生だったから印象的でさ。それで来なくなって1週間くらい経った時に先生が話してたのを聞いちゃったんだよ。その子は奏永病っていう、ピアノを弾き続けないと死んじゃう奇病に罹ってたらしくて。その後どうなったのかは知らないんだよね…無事だといいけど…」
ピアノを弾き続けないと、死ぬ。
君の姿が重なる。まだまだ続いている話は膜が張ったように遠ざかっていき、着くまで生きた心地がしなかった。
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読んで下さりありがとうございます!
新連載です!よろしくお願いします〜次も是非読んで頂けると嬉しいです!