キュイ視点
今日もディレッタントの街は賑やかだ。お昼時ということもあって街のレストランには列ができている場所も少なくない。
「んー!お母さんこれおいしいよ!」
「よかったわね。」
そんな親子の会話がどこからか聞こえてきて思わず僕も笑顔になってしまう。
あれ?
人通りの多い場所を避けるように路地裏へ消えていく見慣れた小さな後ろ姿が目に入った。
フィオちゃん?…どこにいくんだろう?
なんとなく入っていった路地裏へ目を向ける。路地裏は昼間だというのに薄暗く、その場の空気も澱んでいるような気がした。
足を踏み入れ奥に進むにつれてそれは増していくような場所で、少し戸惑ったがフィオちゃんの姿を探して歩いていくと、少し開けた場所に出た。
「いい?しっかり見ていて。」
フィオちゃんの声が聞こえてそっとそちらを見た。
しゃがみ込み、何かをしているフィオちゃんの姿とそれを囲うように集まる子供たちの姿があった。
「この草とこの草は毒があってそのままだと食べられないの。」
「あ、この草、あっちの川沿いにいっぱいあるやつだ」
「よくわかったね。どっちも近くに水があるところによくある草だよ。それを同じ器に入れてよく潰す。」
どんどん植物は元の形をなくしていって次第にトロミがついてきた。
「こんなふうにトロトロになったら食べられる。ほら。」
フィオちゃんは指で掬って食べてみせた。
「ええー。大丈夫なのー!」
「すごーい!僕も食べたい!」
そう言って子供たちは楽しそうにしている。
「わぁーー!美味しい!」
「あまーい!」
歓声が上がる。
「これはたくさん混ぜるとトロトロになって毒がなくなるんだよ。あと、たくさん作って食べきれなかったり、後で食べたいときは一日中太陽が当たるところに、こうやってお皿の上にポタポタ落として置いとくとカチカチになるからやってみてね。」
別の平皿の上にスプーンで掬ってその上に落としていく。
「カチカチになったのも食べる?」
「たべるー!」
「ぜったいおいしーじゃーん!」
フィオちゃんは肩掛けカバンの中から袋を取り出すと、子供たちに分け始めた。
それを美味しいと言って食べる子供たち。
「この飴には疲れた時とか風邪をひいたときに元気になる元が入ってるからみんなでたくさん作って分けっこするんだよ。」
「うん。わかったー。」
フィオちゃんは最後にさっきの植物が押し花になっているものを幾つか子どもたちに渡して、子供達はさっそくそれを探しに出かけたようだった。
フィオちゃんは子供たちを手を振って見送った。賑やかな声は段々と遠ざかっていき、駆けて行った子供たちの背中が見えなると振っていた手をそっと下げる。辺はしんと静かになり、僕はそんなフィオちゃんがなんだか寂しそうに見えて声をかけようかと思った時、
「こんなところで嬢ちゃん一人で何してるんだ?」
と、見知らぬ男が近寄って来てそう声をかけてきていた。フィオちゃんはその言葉を無視してこちらに向かってくる。
「でかいカバン持ってんな。それ置いていけよ。」
男の言葉を無視して歩き続けるフィオちゃんに男がついてきている。
「おい。きていんのか。」
男がフィオちゃんに手を伸ばそうとして、僕は咄嗟にフィオちゃんの名前を呼んで、フィオちゃんは僕の声に気づいて僕と目が合った。
フィオちゃんは素早く屈んで地面の砂を握ると男に向かってそれを投げつける。
「うわぁあ。なにすんだ!この!」
男は乱暴に拳を振り回すが、目が痛みで開けられず的を得ない。
その隙にフィオちゃんは僕の手を掴むと、
「走ります。」
フィオちゃんに連れられる形で僕は走ってその場を後にした。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!