キュイ視点
「はぁ、はぁっ」
「キュイ様、大丈夫ですか?」
あれからだいぶ走った気がしたけど、フィオちゃんは疲れた様子もなく、僕の顔を覗き込んでくる。
「僕は大丈夫だよ。僕よりもフィオちゃんの方こそ大丈夫なの?」
僕は息を整えながらフィオちゃんを見た。
こんなに走ったのはいつぶりだろう。
「わたしはなんともありません。」
「なら良かったよ。」
「キュイ様、多分、あの方はキュイ様の顔を見てはいないと思います。ですが念のため、出会しにくいルートで、もし出会しても人がたくさんいてすぐに助けが求められる道で帰宅されるといいと思います。呼吸が整いましたらこの道を真っ直ぐに行けば人の多い場所に出ます。もうすぐ日も落ちる頃ですからお気をつけてお帰りくださいね。では失礼します。」
そう言ってフィオちゃんは僕に一礼して何もなかったかのように去っていこうとする。
「え、ちょっとまってまって!」
慌てて僕はフィオちゃんの手を引いて引き留めた。
「フィオちゃんはどうするの?僕に教えてくれた道とは全然違う道に行こうとしてたけど、そっちは森しかないよ?用事があるのかもしれないけど、フィオちゃんが言うようにこれから日が落ちる時間なんだよ?今日はもう帰ろう?」
振り返ったフィオちゃんに諭すように話す。
「はい。帰ります。」
そう言ってまた踵を返すフィオちゃん。
「まってまって!?どこいくの?!」
「? 自宅です。」
「自宅? 帰る場所はギルドの寮じゃないの?」
「はい。わたしは自宅から出勤させてもらっていますので。」
「家から?家はどこなの?」
「この先の一軒家です。」
「送るよ。」
「え?いえ、大丈夫です。」
「だめだよ。さっき襲われてるのに一人で暗くなる森の中を一人で帰らせられないよ。」
「でも、もう暗くなってしまいます。」
「お家の近くまで送ったら帰るから。ね?帰り道教えて?」
「……はい。」
僕はフィオちゃんの手を引いて歩いて、フィオちゃんは素直についてきてくれた。
フィオちゃんの案内で、家があるという方向に進んでいるはずなんだけど、どんどん郊外の森の中へ入っていく。日も落ちて辺は鬱蒼と木々が多い茂っているため、さらに暗い。
「あの、キュイ様?よろしいですか?」
「うん。なに?」
僕の顔を見上げてくるフィオちゃんは小さくてかわいらしい。妹がいたらこんな感じなのかな?なんて思ったりして。
「自宅にはもうそろそろ到着なのですが、その、キュイ様、帰り道がお分かりになるのかなと思いまして。」
「うーん。こんなに暗いと思わなかったけど、まぁ、なんとかして帰るよ。」
「差し出がましいとは思いますが、今日はわたしのお家に泊まっていかれた方が良いと思います。」
「え!?いや、それは流石に悪いよ。急に押しかけたりして、お家の人もびっくりしちゃうよ。」
「大丈夫です。お家の人はわたしだけですから。」
予想外の告白に驚いてしまう。こんな小さい女の子が一人暮らし?ご両親は?いつから?
さまざまな疑問が浮かんで聞いてもいいものかと悩んでいると、僕の手を引いてくれていたフィオちゃんが立ち止まったことで僕も釣られて立ち止まる。
「つきました。」
鬱蒼とした木々たちの間に見えたのは石造の一軒家だった。
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