学校
陸徒「遅いな、甘奈さん」
燈真「大丈夫って言ってたんだろ?」
陸徒「そうだけど、やっぱさ」
燈真「まぁ、お前も昔は大丈夫が口癖みたいになってたしな」
陸徒「昔の事だろ!」
燈真「はいはい」
やっぱ今日早帰りって最高じゃね?
燈真「またそれかよ、羅輝」
羅輝「毎日早帰りでいいのにな」
燈真「それはまぁ、確かに」
陸徒(流石に早帰りなの知ってるよな、甘奈さん)
その日の午前中に甘奈さんが姿を見せることはなかった
羅輝「よっしゃ!帰り帰り!遊びに行こうぜ!」
もー、うるさい!
羅輝「柚璃は嬉しくないのかよ?」
柚璃「嬉しいけど、流石に羅輝ほどじゃない」
燈真「で、陸徒は帰らないの?」
陸徒「うん、提出し忘れたのあるし」
陸徒「先帰ってていいよ」
柚璃「そう?それじゃあバイバイ」
羅輝「じゃあな!」
陸徒「うん、またな」
陸徒「俺も出すもの出して、帰るか」
陸徒「…やっぱり今日甘奈さん来ないのかな」
音魅「…あれ?教室誰もいない」
音魅「あ、そっか、今日早帰りか」
音魅「この傷で往復するのはキツイな」
音魅「ちょっと休も」
音魅「…いつか報われるなんて思わなければよかったな」
音魅「私がいなければ、お父さんとお母さんはずっと一緒にいて、離婚することがなくて、お母さんも情緒が不安定になったりしなくて、阿賀くんにも迷惑かける事なんてなかった」
音魅「私もいじめられる事なんてなかったのに」
音魅「なんでこうなっちゃたんだろ…」
音魅「みんな私のこと…忘れてくれないかな…」
音魅「もう全部諦めよ…」
そっと窓を開けて窓際に立った。
なぜだか足は震えなくて、頭と体はそれを受け入れていた。
音魅「あとは落ちるだけ」
浮いた体、体を通り過ぎる風を一瞬しか感じなかった。落ちたわけじゃなくて、宙に浮いていた。
上を見上げると阿賀くんがいた。
音魅(なんで…)
陸徒「今!引っ張り上げるから…!!」
そう言ってグワっと私の体を持ち上げた
陸徒「はあ、はあ。ッ何やってんだよ!」
陸徒「…でも間に合って良かった…」
音魅(なんで優しくするの?)
陸徒「帰ろう?甘奈さん」
陸徒「わっ、怪我してるじゃん」
陸徒「保健室行く?多分まで先生いるし」
音魅「もう、いいの」
陸徒「でも、絆創膏も血が滲んじゃってるし…」
陸徒「絆創膏貼り替えたほうが…」
音魅(もういいって言ってるのに、なんで…!)
阿賀くんの優しさが私を苛立たせた
陸徒「もしだったら俺が取りに…」
音魅「もういいって言ってるじゃん!!」
陸徒「!!?」
音魅「優しくされるのも、もう!ウンザリなの!!」
音魅「暴力振られるのも、親から産まなきゃ良かったなんて言われるのも…」
音魅「阿賀くんが毎日友達の誘いを断ってまで私と帰ってくれるのを知っててなにも言えなくて、それなのに優しくされて嬉しい自分がいて…その度に自分を嫌いになって」
音魅「親から産まなければよかったっていう言葉も、顔も見たくないって言葉ももう聞きたくないのに」
音魅「いじめだって行かないとその分倍にされるから行ってたのに……!」
こんなの八つ当たりだ。八つ当たりだって分かっていても言葉は止まらない。
音魅「阿賀くんが私に優しくするから、私がなんなのか分かんなくなっちゃた…」
陸徒(俺が…変に関わったから)
甘奈さんが今にも消えそうな声で…
音魅「だからもういいの…もう報われたいなんて思わないから、全部諦めて…消えたい…」
陸徒「っ!?」
俺は言葉が思い浮かばなかった
陸徒(…俺には分からない、親からいらないなんて言われる気持ちも、倍にされるいじめの暴力の辛さも、中途半端な優しさの苦しみも)
陸徒(だけど…それでも)
陸徒「消えたいなんて言っちゃダメだ…」
音魅「なんで…」
陸徒「人の為に生きろとは言わない、でも今だけでいいから俺の為に生きて」
音魅(なんで…)
音魅(…阿賀くんの優しさのせいにしたのに…なんで優しくするの?)
陸徒「甘奈さんが居なくなったら…俺が悲しい」
音魅「なんで…阿賀くんがそんな顔するの」
そう言って甘奈さんは泣いた
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