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『人形作り』
陶器の材料となる粘土や絵の具、香料の香りが充満する地下の一室
そこが、石榴が人形を自ら製作する時に使用する作業部屋である。
店内や居住スペースの品格を感じさせる行き届いた絢爛さとは打って代わり、
少々散らかり、様々な物で溢れており
地下にある設計の為陽の光が届かない為やや薄暗く、
それに加え製作途中の人形の頭部や胴体、四肢が大量に置かれており
人形まみれの店内がマシに思える程不気味である。
作業部屋には作業机を向きながら座る石榴の鼻歌が響く。
普段石榴が着用している日常生活を送るには間違いなく重く、
豪華なドレスは流石に作業にはそぐわない為、
流石に石榴もドレスでは無く黒色のシャツとズボン、
それに髪を括り白色のエプロンを着用し珍しく丸眼鏡をつけている。
普段はブローチとして付けている青い宝石はチョーカーとして使用して、
いつもと全く違う雰囲気である。
しかし、やはり石榴は石榴なので
今もなお人形の顔となる部分を鑢で磨いている
「お母さん、たまには休憩してよね、過労で倒れちゃったら大変だよ?」
作業を一段落させ、椅子に座ったまま伸びをした石榴に、
紅茶を差し出しながらペリドットが呆れた様な表情で告げるものの、
声色は優しく、本心から心配している様子で、
そのせいでか石榴の口角も緩む
「えぇ、ありがとうね」
紅茶を啜りながら微笑む姿は、まるで絵画の様に美しく、また、
血の通ってないように思える程不気味でもある。
「今日はどんな子を作ってるの?」
ペリドットがひょこりと作業台を覗く
「あぁ、今日は注文品を作っているの。新生児の人形よ、
まだ四肢を完全に接着はしていないのだけれど少し抱いてみて、重さを調整したいの」
わかった。とペリドットが了承して赤子の人形を優しく抱き上げる
「んー…新生児にしてはちょっとだけ重いかなぁ…」
「なるほどね、ありがとうペリドット」
ペリドットから人形を受け取って作業台に置き直すと、石榴は軽くため息を吐く
「やっぱり長年人形作りをしていても…
短期間で完璧な人形を作ることが出来るようになるにはまだ長い道のりね」
そんなことを言ってポキポキと鳴る肩を回しながら人形に向き直り
人形の重さを変える特別な加工をする
基盤となる粘土でできた形を窯で焼き終え冷やした後
固まっ基盤に絵の具で着色を始める。
色とりどりの絵の具で人形の頬を丁寧に薔薇色に色付けをしていく
メイクをしていくかのように筆を乗せ
最後に薄い桃色で自然な唇を描き血色感を持たせる。
そうすると、石榴の手により
まるで本物の赤子の様な顔が出来上がる。
「よし」と石榴は完成した顔をまじまじと眺めたのち、部品を接合させていく
依頼人からの要望通り関節は極力目立たず自然なものに
髪はふわふわで柔らかいブロンド
頬にはやわらかさとほんの少し赤いチークを
はめ込んだ瞳はエメラルドよりほんの少しだけくすんだ緑色
特徴としてそばかすを少し描きこむと
完璧な赤子にしか見えない出来になる。
石榴は完成した人形の両脇に手を差し入れ持ち上げ見つめる
人形の上には照明があるので眩しいだろうに、石榴は一瞬も人形から目を離さず、
未完成なそれを見つめ続ける。
暫し眺めた後、石榴は人形を優しく抱きしめ、
呪いをかける様にキスをする。
すると、先程の人形とはうってかわり、
声こそ無いものの本当の赤子のように人形がにこりと笑い石榴の頬に手を伸ばす
数日後、依頼人が人形を受け取りにやって来た日
人形は取り上げられたばかりの赤子のように包まれており
石榴がその人形を手渡す場面は、何も知らない人が見れば、
養子となる赤子を養母に預けているように見えてしまうほど、
石榴の手によって作られた人形は
美しく、精密で
残酷で、
石榴はこの瞬間が堪らなく好きなのである
コメント
11件
石榴さんの作った人形…どんだけリアルなんだ…()