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📖 第九章:「触れた体温」
廊下に、足音だけが静かに響く。
凛は何も言わず、ただ前を見て歩いていた。
腕 の中には、ぐったりとした○○。
凛:(……こいつやけに軽いな)
さっき口にした言葉とは裏腹に、妙に存在感がある。
伝わってくる体温が、やけに意識に残る。
やがて、保健室の前に辿り着く。
ガラッ——
凛はドアを開けた。
凛:「……失礼します」
返事はない。
部屋の中は静まり返っていて、カーテンがゆらりと揺れているだけだった。
凛:「……いないのかよ」
小さく舌打ちのように呟く。
一瞬だけ立ち止まるが、すぐにベッドへと向かった。
そっと、○○の体を横たえる。
シーツがかすかに音を立てる。
凛はそのまま、数秒間動かなかった。
凛:(……どうすればいい)
普段なら、こんな状況に関わることなんてない。
けれど、目の前には意識のない○○。
鼻から流れていた血が、まだ少し残っている。
凛は小さく息を吐くと、周りを見渡した。
棚の上。
ガーゼとタオルが目に入る。
凛はそれを手に取り、ベッドの横に戻った。
凛:「……悪い」
誰に向けたのかも分からないまま、ぽつりと呟く。
そして、そっと○○の顔に触れる。
凛の指先が、一瞬だけ止まる。
凛:(……冷たくは、ない)
当たり前のことなのに、なぜか確認してしまう。
タオルで、ゆっくりと血を拭う。
強くならないように、慎重に。
凛:(……俺、何やってんだ)
自分でも分からない行動。
けれど、手は止まらなかった。
少しずつ、○○の顔が元の状態に戻っていく。
呼吸も、ちゃんとある。
凛はようやく、わずかに息を吐いた。
凛:「……はぁ」
ベッドの横に腰を下ろす。
静かな保健室。
時計の針の音だけが、やけに大きく聞こえる。
ふと、視線が○○に落ちる。
閉じられたまぶた。
無防備な表情。
凛:(……こんな顔、するんだな)
いつもは、どこか落ち着いていて、掴みどころがないのに。
今は、ただの——
凛はそこで思考を止めた。
凛:(……関係ないだろ)
そう言い聞かせるように、目を逸らす。
それでも、完全には離れない。
しばらくして——
○○の指が、わずかに動いた。
凛の目がすぐに戻る。
凛:「……おい」
反応は、まだ弱い。
でも、確かに動いた。
凛は少しだけ身を乗り出す。
凛:「……起きろ」
いつもより、ほんの少しだけ柔らかい声。
静かな保健室で、その声だけが、そっと落ちた。
コメント
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やだ尊い
201