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「すれちがい」
注意🦍社二次創作、ifルート
Chapter5「Dozle」
目が覚めた時、初めに感じたのは違和感だった。
言葉にできない、ぼんやりとした何かが頭にまとわりつく感覚。
2019年8月。
僕は医者になった。
研修医として、病院で日々学んでいる。
身体を起こして、急いで出勤の準備を始めた。
人と話すのが好きだ。
相手の気持ちを考えるのは得意だった。
「最近の気分はどうですか?」
「…苦しくて、辛い…です」
精神科は様々な人が来る。
今は2021年の11月。
僕は、様々な病院を移動して医者として働いている。
普通はあまりないが、僕はそれが良かった。
権力とか、地位とか、そんなくだらないものはどうでもいい。
少しでも人生が豊かなら、それでいいんだ。
近くの店に昼食を買いに行った帰り道だった。
のんびりと歩きながらパンを頬張り、空を見上げる。
どんよりとした雲が漂う空は、灰色だった。
病院がある場所は、小高い丘の上。
「ドズルさん‼︎」
後ろから大きな声で呼び止められた。
振り返ると、そこにはサングラスを掛けて、薄灰色のパーカーを着ている、身長が高い男の人が居た。
この丘を走って登ってきたからだろうか。息をぜぇぜぇと切らしている。
この人は一体誰?
頭が混乱する。なぜ、この人は僕の名前を知っているのだろうか。
「…誰ですか…?なんで僕の名前を知っているのですか…」
そう言うと、貴方はふっと笑った。
「俺は…ぼんじゅうる…」
どこか聞き覚えのある名前ではあったが、記憶がない。
首を傾げ、時計をチラッと見る。
あと10分で戻らないと、休憩時間が終わる前に食べきれないではないか。
「あ…もうこんな時間…すみません、もう休憩時間が終わるので…」
そう言って、自分は逃げるように走り出した。
なぜ逃げているのか、自分でもよくわからない。
「待って‼︎」
ぼんじゅうるさんの声が、空に響いた。
振り返ると、あなたの瞳は、遠くから見ても涙で光っていた。
「貴方が俺のことを覚えていなくても、俺はあなたを覚えているから…」
その言葉に、心臓が締め付けられる感覚がした。
我にかえって、会釈をしてその場を去った。
2025年の12月の下旬。
年末で、何処の病院も忙しくしている。
ぼんじゅうる、という人は度々僕の頭の中をよぎった。
何かを忘れているけれど、何を忘れたかを、僕は覚えていない。
病院も、また別のところに移ってきた。
今度は都会のとても大きい総合病院。
「おらふさん、最近は体調とかどうですか?」
そう訊くと、君は黙って目を逸らした。
「…結構、よかったです。」
青白かった肌は、少しずつ血色が戻ってきている気がする。
僕は診察の度に他愛のない話をしていた。おらふさんは、最初こそ無口だったけれど、今では色々と話してくれる。
少しの間、沈黙があった。
僕は考える。あの顔、声。
初診の前から、絶対に見覚えがあるはずだ。
どうしてだろう。
「あの…ドズル先生、僕ーー」
君は、初めて僕と目を合わせてくれた。
「久しぶりに生きるのが楽しいと思いましたよ。」
貴方は、にっこりと本物の笑顔を浮かべた。
心臓が、止まりそうになった。
真っ白な髪の毛、青い瞳。童顔気味で、声が高い。
僕の10年近くの思い出が、一気に頭を横切った。
僕は、 何を失ったのかを理解した。
それは、大切で、かけがえのない、失ってはいけないものだった。
また、あの4人と会いたい。
そして…
この長い悪夢から覚めたい。
僕は、久しぶりにカメラの前に立った。
「どうも、ドズルです。」
「僕の事が誰だかわからない人が殆どだと思います。まぁ、それもそうでしょうね。」
「この動画は、ある4人に宛てた、手紙のようなものです。」
「僕達は、夢を見ている。この、存在しない世界の夢を見ているんです。」
「君達4人には、昔の自分の魂が宿っている。それは僕も同じ。」
「だから、もう一度5人で会いませんか?」
「場所は…夢をみはじめたあの日の夜に集まった場所で。日時は…2026年の1月3日の夜6時に。」
「この手紙が、4人に届く事を願っています。」
そう言うと、僕はカメラの録画をオフにした。
編集なんてせずに、そのまま投稿した。
これが届くかなんてわからない、一か八か、という状態だった。
1週間後、僕はYouTubeを開いた。
言葉が、出なかった。
動画は謎の発言をする、謎の人物として流行し、8000万回再生されていた。
「…なにこれ」
コメント欄を見ると、上位のコメントには、こう書かれていた。
「俺達は、本当は互いのこと、ちゃんと覚えていたんだよ。ぼんじゅうるより」
「ドズルさん、絶対に会いましょう。おんりーより」
「僕はドズルさんに、こっちでも、元の世界でも、救われましたよ。おらふくんより」
「久々に会えるのが嬉しいっす。待っています。おおはらmenより」
涙が止まらなかった。
Chapter5「Dozle」fin
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