静寂が、ようやく訪れた。
さっきまであれほど騒がしく響いていた喘ぎ声と水音が、まるで幻だったかのように消え去り、
残されたのは、汗と白濁の匂いが立ち込める熱気と、浅く揃わない三人の呼吸音だけだった。
元貴は、滉斗を腕の中に抱き締めたまま、しばらく動かなかった。
――壊した、という実感。
でもそれは、罪悪感なんかじゃなかった。
むしろ、うっとりするような達成感。
滉斗の柔らかな髪を指で撫でながら、
元貴は耳元に、低く囁く。
「……よく頑張ったね、滉斗。お前、ほんと綺麗だった」
反応はない。
滉斗はまぶたを閉じ、吐息を漏らすだけ。
けれどその体温は確かに元貴の胸元にあり、震えるたびに、自分のものであるという証を刻んでいるようだった。
視線を下ろせば、涼架がいる。
シーツの上で、身体を横たえたまま。
まだ時折、肩を震わせながらも、うっすらと口元に笑みを浮かべていた。
その笑みが、妙に無垢で、無防備で、逆に残酷なほど淫らだった。
「涼ちゃんも、すごかったよ。何度も何度も、イってさ。…かわいすぎた」
そう呟きながら、元貴はゆっくりと立ち上がる。
汗と精液が混じった自分の肌を拭いながら、ひとつひとつ、散らばった衣服を拾い集めていく。
シーツを替えるのも惜しいほどの乱れたベッド。
元貴は涼架の肩にやわらかい毛布をかけてやった。
そして滉斗の身体にも、バスタオルをそっとかけ、額にキスを落とす。
「…ほんと、愛しいよ。ふたりとも」
優しげなその声の裏に、隠しきれない執着がにじむ。
(俺は、これでよかったんだろうか――)
ふとそんな思いが浮かぶ。
けれどすぐに、かすかに嗤うような吐息が漏れた。
(いや、違う。俺は、こうするしかなかったんだ)
「…ふたりとも、俺のもの。これからも、ずっとだよ」
その声は、まるで呪いのように甘かった。
「涼ちゃんも、滉斗も。他の誰にも、絶対に触れさせない。奪わせない」
手のひらに残る感触が、じんじんと疼く。
彼らの身体も、心も、全部、自分が味わったもの。
どこを触ればどんな声が出るのか、どこを舐めれば崩れるのか、もう知っている。
もう、誰にも渡す気はない。
元貴は部屋の隅の椅子に腰を下ろし、
ベッドの上のふたりを、うっとりとした瞳で見つめた。
「……俺、バンドで何やってんだろうな」
苦笑しながらそう呟く。
でも、その目はどこか澄んでいた。
音楽よりも、綺麗だった。
あの瞬間の声。あの震え。あの涙。
音符じゃ表現できないような愛しさと狂気が、あの部屋には確かに流れていた。
元貴は、静かに立ち上がると、
ベッドに近づき、滉斗の唇にそっとキスを落とす。
「おやすみ、“俺の音”たち。世界で一番美しい、俺の楽器たち」
そのとき、部屋の外の風がふと吹いた。
まるでこの淫らな三重奏に、一度きりの終止符を与えるように――
けれど、
心のどこかで、元貴は知っていた。
この音は、まだ終わっていない。
またきっと、あの甘い旋律が始まる日が来る。
再び彼らを支配し、壊し、愛でる日が――
それは、終止符ではなく、繰り返し記号のようなもの。
狂気と快楽の曲は、何度でも演奏される。
そう、ふたりは俺のものだから。
END
コメント
3件
大森さんのこの狂気じみた感じ すんごく好きです😇 めちゃくちゃ読むの楽しかったです😌