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現在の鹿児島と呼ばれるその地は、かつて、星々の歌が降り注ぐ銀河の受像器だった。
まだ人類という原始の種が地上に産声をあげるよりも、遥か、遥か昔。
緑豊かな火山群の地形に沿って、目を見張るような超古代文明の結晶都市が繁栄を極めていた。
霧島、開聞岳、屋久島……そびえ立つ全ての山々の頂には、天を突き刺すように巨大な結晶構造の宇宙電波塔が直立し、青空に向かって淡いプラズマの光を放っている。
最南端に位置する与論の管制タワーの最上階。
純白の衣服をまとった技術者は、静かに息を呑みながら、中央のコンソールへ向かって歩を進めていた。
その両手には、宇宙のエネルギーを物質化して閉じ込めたような、妖しく脈動する星砂の結晶が握られていた──超古代文明の心臓であり、すべての電波塔を稼働させる制御コアパーツ、『星砂の結晶』である。
カチリ、と硬質な音が響いた。
技術者が儀式のような手慣れた動作で、『星砂の結晶』を電波塔の台座の溝へと滑り込ませる。
その瞬間、球体から無数の光の導管が走り、鹿児島の全土に張り巡らされた地下のエネルギー・ネットワークへと接続された。
与論島から奄美、そして本土の霧島へと光の脈動が駆け抜け、すべての宇宙電波塔が完全同期する。
「──星々の声を、地球のコアへ」
技術者が祈るように呟いた、その時だった。
管制室の全ホログラム・モニターが、赤色に染まり、けたたましい警告音を鳴り響かせた。
超高度な観測システムが捉えたのは、大気圏外、深宇宙の闇から音もなく急接近する「圧倒的な殺意」だった。
この文明の存在を、そして地球の知的生命への進化を脅威と見なした、外宇宙の敵対勢力による質量攻撃──。
「敵襲……!? 間に合わない、なんて速度だ……!」
技術者が叫び、星砂の結晶を回収しようと手を伸ばした瞬間、与論島の窓の外が、一瞬にして昼間をかき消すほどの狂った白光に包まれた。
狙われたのは、全システムのエネルギーを一手に供給する動力源──『桜島』の直上。
大気を引き裂き、燃え盛る巨大な隕石が、逃げる猶予など1秒も与えずに桜島のど真ん中へと突き刺さった。
──ごう、という衝撃波が地球を揺るがす。
次の瞬間、音は消えた。
激突の凄まじい熱量によって、桜島を中心とした大地は波のようにめくれ上がり、超古代の美しい都も、高度な技術も、一瞬にして分子レベルで蒸発していった。
衝撃は一瞬で最南端の与論島へと伝わり、大地が引き裂かれ、電波塔が根元からへし折れる。
台座から強烈なエネルギーと共に弾き飛ばされた『星砂の結晶』は、砕け散るガラスの破片のように閃光を放ちながら、地殻が陥没していく暗黒の底へと落ちていった。
現在の錦江湾となる広大な大穴──宇宙戦争の傷跡である巨大なクレーターが穿たれ、吹き上がった数十億トンの灰が地球の空を完全に覆い尽くし、世界は長い、長い冬へと突入する。
超古代文明は、こうして滅びた。
しかし、大破したシステムの残骸、そして激突した隕石の狂気的なエネルギーの残滓は、1万5千年の周期を持つ呪いとして、鹿児島の底で静かに眠り続けることになる。
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