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神話と歴史の境界線がまだ曖昧だった、遥か昔の縄文・古代の時代。
それは、まだ歴史の教科書にも載らないほど遥か昔の与論島。
どこまでも透明なエメラルドグリーンの海に囲まれたその孤島で、少女アギは、波打ち際にきらめく白い砂浜をただ愛する、どこにでもいる純朴な少女だった。
ある嵐の翌朝。
引き潮の白い砂浜に、まばゆい翡翠色の光を放つ、透き通った【真珠色の球体】がぽつんと落ちていた。
その中心では、何億もの微細な星砂の結晶が、まるで渦巻く銀河のように激しく自転している。
アギはその美しさに吸い寄せられるように歩み寄り、そっと指先を伸ばした。
──触れた、その瞬間だった。
球体から真っ白な光が放たれた。
星砂の結晶のエネルギーが、アギの指先から体内に流れ込んできた。
翡翠色の光の粒子が、彼女を包んだ。
それは、アギの肉体が星砂の結晶とリンクしていく神秘的な儀式だった。
アギの首元には、球体が変化して、真珠色に輝く小さな宝玉がついた【星砂の首飾り】になった。
光が収まったとき、砂浜には呆然と立ち尽くすアギが一人。
島と星砂の結晶に選ばれ、【不老不死の少女】となったアギ。
しかし、あの日を境に、アギの時間は完全に止まってしまった。
10年が経ち、20年が経っても、アギの姿はあの砂浜にいた時の「少女」のまま、姿が変わらない。
島の荒仕事でどれほど深い傷を負っても、胸元の首飾りが真っ白色に微かに光ると、傷口は光の粒子とともに一瞬で塞がってしまう。
周囲の幼馴染たちが大人になり、親となり、老いていく中で、一人だけ時を置き去りにされたアギ。
そんなある年、与論島を未曾有の大飢饉と疫病の嵐が襲った。
次々と島民が倒れ、命の灯火が消えかけ、島全体が絶望に包まれたその時、アギの胸元の【星砂の首飾り】が、かつてないほど激しく光を放ち始める。
アギは恐れを捨て、苦しむ島民たちのもとへ駆け寄り、その手を一人一人固く握りしめた。
すると、首飾りから溢れ出た真っ白色の清らかな光が人々の身体へと流れ込み、病を払い、衰弱した命を劇的に回復させっていった。
「この星砂の結晶は大好きなみんなを、この島を護るために授かったものなんだよ」
命を救われた島民たちは、アギへの感謝で、涙を流して地面に伏した。
人々は彼女を「島を護る神の使い」「星砂の申し子」として深く崇めるようになり、畏敬を込めてこう呼んだ。
──与論の海に生きる、永遠の【巫女様】と。
島民たちはアギを聖なる存在として敬い、集落から離れた美しい高台に、彼女のための聖域(神殿)を建てた。
それから何世代もの時間が流れ、かつてアギを「アギちゃん」と呼んでいた子供たちが老人になって死んでいっても、アギは変わらぬ姿のまま聖域に座り、島民たちの命の営みを静かに見守り、祈りを捧げ続けた。
島民にとってアギは、親から子、孫へと語り継がれる「島にずっといてくださる、たった一人のありがたい御方」という絶対的な存在になっていった。
こうして、純朴な少女は名実ともに気高き【与論島の巫女】となった。
それから数百年の時が流れた、ある日のこと。
いつものように静かに祈りを捧げていたアギの首飾りが見たこともない輝きを見せ、遠い北の海を指し示す。
その海路の先から、黒潮の荒波を越えて、傷だらけの一人の男が与論島へと流れ着く。
のちにアギと運命の対を成す、本土の上野原からやってきた最初の王──カイであった。
アギはその美しき姿のまま【与論の巫女】として崇められ、その首には聖なる星砂の結晶を集めて作られた『星砂の首飾り』が静かにかけられていた。
ある日、鹿児島の本土(薩摩・大隅)の大地で、大陸の呪術師たちが呼び寄せた【巨大な暗黒の霧】が目覚めようとしていた。暗黒の霧は錦江湾を真っ黒に染め上げ、触れた者を次々と死に至らしめる呪いとなって本土を脅かす。
アギの首飾りは、この厄災の危機を報せるように真っ白い光に包まれ始めた。
愛する島と本土の民を救うため、アギは一人、手作りの丸木舟に乗り込み、その瞬間、星砂の首飾りがまばゆい結界となって溢れ出し、黒潮の荒波へと漕ぎ出した。
アギは光に守られながら、南西諸島の島々を一つ一つ渡り、本土へと向かった。
本土の海岸へと降り立ったアギの前に現れたのが、小国を命がけでまとめ上げようとしていた若きリーダー、カイであった。
これが二人の運命の出会いだった。
この時、アギは本土への挨拶と敬意の証として、与論島から大切に携えてきた【純白の星の砂】をカイへと献上した。
カイはその砂の美しさとアギの気高さに深く心を動かされ、二人は過酷な戦いへ赴いていく。
普通の武器では斬ることのできない形なき霧の厄災に対し、アギは自身の不老不死の生命力を削る覚悟で、首飾りの力を極限まで解放した。
まばゆい真っ白色の光が溢れ出し、暗黒の霧をみるみるうちに浄化して、奥に潜んでいた異形の厄災の本体を「魔獣」の姿が現れた。
「──今よ、カイ! 厄災の核を斬って!」
アギの叫びに応え、光に照らされたカイの豪剣が雷光のごとく一閃する。
激しい轟音と共に「魔獣」の本体は真っ二つに裂け、光の塵となって消滅した。
数々の危機を乗り越え、本土の部族を一つに統合したカイは、鹿児島を統治する【最初の王】として君臨した。
カイは王となった記念として、一対の聖遺物【双子壺】を対で作らせた。
そして、自分を救ってくれたアギと彼女の故郷への尽きない感謝の証として、作られた壺のうちの一つを【与論島へと献上】した。
もう一つの壺は、カイの手によって本土の【上野原の祭壇】へと大切に祀られ、その中には、あの運命の日に【アギから献上された純白の星の砂】がそっと納められた。
カイは国の安寧を願い、この双子壺の力を連動させて鹿児島全体を包み込む巨大な「防衛バリア」を国家事業として制定した。
与論島と上野原の祭壇に祀られているこの二つの壺は、【巫女と王(神代)の心を繋ぎ、遠く離れていても交信できる】力があった。
さらに、100年かけて壺の中に集められ、神秘的な「翡翠色の神の水」へと変わった星の砂の水を、お互いに奄美大島を目指しながら道中の島々の祭壇にある聖杯に少しずつ注ぎ分けていく。
そして、北と南の中間地点である【二つの壺が交わる島(奄美大島)】の神殿で合流し、お互いの島から持ってきた神の水を一つの器へと注ぎ込んで混ぜ合わせた。
水が完全に混ざり合った瞬間、アギの星砂の首飾りから凄まじい光の粒子が爆発的に弾け飛び、道中の聖杯の水と連動して、鹿児島全体を網羅する巨大な真珠色のバリアが完成する。
それが、最初の王カイが最愛のアギへの誓いと国の未来を願って遺した、あまりにも純粋で壮大な愛のシステムだった。
しかし、人間のカイには寿命という終わりの時が訪れる。
老い先短いカイの枕元に、変わらぬ姿のアギが駆け寄り、涙を流した。
カイは動かなくなった手で、アギの頬をそっと撫べる。
「アギ、泣くな。上野原の壺の中で、お前がくれた星の砂が、俺の魂と共にずっとお前を見守っている。この双子壺が北と南を旅し、水が混ぜ合わせられ続ける限り、我が国は守られる。千年の時が流れても、俺の魂は何度でもお前の元へ還る。……人を愛する心に、境界線なんてないのだから」
カイはそう言い残し、静かに息を引き取った。
カイが崩御した後、アギは彼の遺志を継ぎ、100年ごとに神の水を混ぜ合わせる約束を護る「星の監視者」となった。
与論の砂浜で不老の運命を得た巫女アギと、最初の王カイが紡いだ愛の防衛結界。
その壮大な記憶は、引き継がれていく次の代の神代たちに繋がっていく…….